このところ韓国絡みの大事件が相次いでいる。8月には海運最大手が倒産し、サムスン電子の携帯端末の発火問題も発覚。翌月は自動車最大手の国内工場が全面ストに突入した。10月に入るとロッテの創業者が脱税の疑いで在宅起訴され、パク・クネ大統領はスキャンダルで支持率が急落、という具合だ。韓国で今何が起こっているのか、財閥系企業を中心に見ていこう。

企業破綻、目玉商品生産中止、自動車工場全面スト、大統領スキャンダル

8月に破綻したのは韓進海運。最大需要先である中国の成長鈍化と新規建造による船腹過剰が響き、海運市況の低迷が続くなか、経営の舵取りを誤ったのが要因だ。同社は日本では馴染みが薄いが、大韓航空と並ぶ韓進財閥の中核企業。世界中の主要港が使用料の不払いを恐れて同社船の入港を拒否、世界規模で物流に支障が生じている。

サムスンのGalaxy Note7はその後も発火が続いたことで航空会社の多くが機内持ち込みを禁止、10月に生産停止に追い込まれた。その約2週間後に発表した7-9月期連結決算では営業利益が一年前から3割減少、Note7を含むモバイル部門が96%減益と約8年ぶりの低水準に沈んだことが響いている。既に事業再編に着手しており、防衛や化学事業からの撤退に続き、9月には複写機事業の米HPへの売却を発表した。非中核事業から手を引き、半導体やスマートフォン等の主力事業とバイオ医薬などの新規分野に経営資源を集中する方針だ。

同じ日に決算を発表した同国最大手の現代自動車も前年に比べ3割の営業減益だった。金融などを除く自動車本業では8割の大幅減益だ。売上高がロシアやブラジルなど新興国向けの不振で6%減少したうえ、スト多発で国内工場の稼動率が下がったことが大きくマイナスに働いた。同社労組は賃上げを強硬に要求、今年は12年ぶりの全面ストに突入するまで既に20回ほどの時限ストを行っている。9月までの累計販売台数は347.8万台で今年当初の販売目標501万台に遠く及びそうにない。

ロッテは日本では大手菓子メーカーとして知られるが、本国では石油化学や建設も手がける売上高8兆円規模の一大財閥だ。昨年来、創業者が息子2人の弟の方を後継者に指名したのを発端に兄弟間の骨肉の争いが続いていた。今年7月に創業者シン・ギョクホ(日本名は重光武雄)氏の長女が背任・横領で逮捕され、9月末には武雄氏本人とその内縁の女性が脱税罪で在宅起訴されている。

基幹産業の造船、鉄鋼は存続の危機

これらはいずれも個別財閥グループの話だが、韓国マクロ経済を取り巻く環境も厳しさを増している。同国の基幹産業はサムスン電子の存在感が大きいせいかハイテク関連と見られがちかも知れないが、実のところ造船と鉄鋼が主力である。このいずれもが存続の危機に差しかかっている。

とくに90~00年代半ばにかけて同国の代表的輸出産業として破竹の勢いだった造船業は風前の灯火だ。英専門調査会社によると9月の受注はサムスン重工業など「ビッグ3」を合計してもわずか3隻と1年前の1/16、同月末の業界全体のトン数受注残は13年ぶりの低水準となった。

危機感を強める政府は、構造調整を急ぐ産業として造船・海運業を指定、政府と債権団の管理の下、対象企業が相互協力を進め自主再建策を講じるよう促している。これを受けて大手は20~40%の人員削減を計画しているが、大手2社が生き残れば御の字、と見る関係者もいる。

鉄鋼も厳しい。造船不況で需要が減っているうえ、中国の過剰生産で鉄の価格が大きく下落しているからだ。つい先日も、今年になってデフォルト(債務不履行)を繰り返してきた中国の国有鉄鋼大手の経営破綻が大々的に伝えられたが、トップ企業でさえ総生産量の5%強を占めるに過ぎない国内業界で多少淘汰が進んでも焼け石に水との見方が強い。

マクロ経済は8年ぶりのマイナス成長も

造船と鉄鋼はいずれも裾野が広いだけに設備産業など他分野への波及は避けられない。7-9月期のGDP成長率(速報)は前期比0.7%増と前の期の+0.8%から鈍化、10-12月期は多くの民間予測機関でゼロ成長、もしくは世界金融危機以来初となる8年ぶりのマイナスもあり得ると見ている。

雇用面では9月の失業率が3.6%と1年前から0.4ポイントも悪化、同月としては11年ぶりの高さとなった。とくに29歳以下の若年層は同1.5ポイント悪化の9.4%で統計開始以来、9月の最悪を記録した。

このため、政策が偏っていると見る若者を中心に財閥への反感は依然として強い。これに拍車をかけたのが、2年前の「ナッツリターン事件」の張本人が当時の韓進財閥トップの娘だったことである。大韓航空機の離陸直後に客室乗務員から渡された袋のままのナッツに激怒し、空港に引き返させたという、呆れ果てた事件である。今後さらに景気が悪化すれば財閥に対する風当たりは一層強まるだろう。

97年の通貨危機からおよそ20年、韓国経済は国家主導の業界再編により見事に立ち直ったかに見えたが、今再び大きな岐路に立たされている。2018年のピョンチャン冬期五輪向けの需要が出尽くしたあと、国レベルで大きな転換点を迎えると警戒する向きもあるほどだ。

大統領のスキャンダルで懸念される政変、強く依存する中国経済の減速、ミサイル発射や核実験で瀬戸際外交を強める北朝鮮、そして韓国経済の時限爆弾と囁かれ膨らみ続ける家計債務。韓国の政治、経済、財閥の今後の動向には注意しておくほうがよさそうだ。(シニアアナリスト 上杉光)

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