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写真=プレスリリースより(ヤマト運輸提供)

全国の過疎地域で路線バスの廃止が相次ぐ中、ヤマト運輸が路線バスで宅配便を輸送する「客貨混載」事業を広げている。2015年の岩手県、宮崎県に続き、2016年は北海道、熊本県で事業をスタートさせた。ヤマト運輸にドライバーの配達時間確保やコスト削減のメリットがある一方、地元のバス会社にも一定の収入が入る。

全国の過疎地域では路線バスが利用者の減少で相次いで廃止されている。バス会社に定期的な収入が入れば、路線維持に向けて大きな力となるだけに、全国の自治体からこの事業に注目が集まっている。

熊本では人吉市と五木村間を運行

熊本県南部の人吉市から相良村を経由して五木村まで約30キロを結ぶ産交バスは、座席の一部を荷台スペースにした車両を2台導入し、10月からヤマト運輸の宅配便を積載して運行を始めた。客貨混載バスであることを示すため、各車両には「くらし ハコぶ バス」というラッピングを施している。

五木村と相良村で集荷した宅配便の荷物は、相良村四浦のバス停で客貨混載バスに積み込まれ、人吉市の産交バス人吉営業所でヤマト運輸に引き渡される。五木村と相良村に向けて送られた宅配便は、人吉営業所で客貨混載バスに乗せ、相良村で両村の各地区担当のセールスドライバーが引き取る仕組みだ。

五木村は人口約1200人、相良村は約4700人。ともに山林に囲まれた中山間地で、深刻な人口減少が続いている。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合を示した高齢化率も40%前後に達している。

運転免許がない高齢者にとり、路線バスは唯一の公共交通機関だが、沿線人口の減少で採算が合わず、沿線自治体の補助金で運行している。路線維持に苦慮している両村にとって、一定の収入がバス会社に入ることはありがたい話だ。

さらに、客貨混載バスの運行以来、両村内で宅配便の集配回数が増えたほか、当日配達できる区域も広がった。五木村総務課は「路線バスは便数こそ少ないものの、村にとっては命綱のような存在。客貨混載で路線が維持できるなら、本当に助かる」と喜んでいる。

北海道では道北、道東の4路線に登場

北海道では9月から、道北の名寄市と美深町間約20キロを結ぶ名士バス恩根内線など4路線で各貨混載がスタートした。7月から国土交通省北海道運輸局の主導で2カ月間の実証実験を進めていた。

運行しているのは、恩根内線と名寄市と下川町間約20キロを結ぶ名士バス下川線、士別市と朝日町間約20キロを結ぶ士別軌道朝日線の道北3路線、足寄町と陸別町間約35キロを結ぶ十勝バス帯広陸別線の道東1路線。

バス会社3社はそれぞれ座席の一部を荷台スペースにした車両を導入した。これにより、ヤマト運輸のセールスドライバーが配達に使える時間が増え、利用者からの要望により柔軟に応えられるようになったという。

北海道は全土の約8割を過疎地域が占め、札幌市周辺を除けば人口減少と高齢化の進行が極めて深刻になっている。面積が本州以南より広いこともあり、路線バスは地域の足として欠かせない。

沿線の自治体や住民から歓迎の声が上がっており、ヤマト運輸広報戦略課は「地域のバス路線網が維持されれば、病院やスーパーなど多様な施設へアクセスでき、生活基盤も維持できる」としている。

民間の柔軟な発想で新たな物流網形成

ヤマト運輸は2015年6月、岩手県の岩手県北自動車と連携し、盛岡市と宮古市間約95キロなどで客貨混載バスの運行を始めた。荷室を備えた本格的な専用車両の運行はこれが国内で初めてだった。

2015年10月からは宮崎県西部の西都市と西米良村間約50キロを結ぶ宮崎交通の村所線でも、運行が始まっている。西米良村はどこへ出るにもつづら折りの峠越えをしなければならない山深い場所で、風前の灯火ともいえる過疎路線が客貨混載で活路を得た。

ヤマト運輸は1993年に岩手県の北上市と旧湯田町(現西和賀町)を結ぶ約40キロで客貨混載に着手している。今回の事業はその経験を生かしたもので、国の補助金を当てにせず、民間の知恵と工夫で生み出された。

ヤマト運輸には現在、全国の自治体などから問い合わせが殺到している。今後の予定は公表されていないが、さらに客貨混載のバス路線が増える可能性もある。国交省も過疎地域の物流ネットワークとしてこの方式を推奨している。

国交省のまとめでは、2007年から14年の間に全国路線バス総運行距離の約3%に当たる1万1800キロが廃止された。大半が過疎地域を走る路線で、残った路線も自治体が補助金を交付してようやく維持している状態だ。

高齢化社会の進行で車に乗れない高齢者が増え、路線バスの必要性は高まっているともいえるが、日本全体で急激な人口減少が続いているだけに、今後も路線廃止が後を絶たないとみられている。

バス以外では、佐川急便が新潟県の第三セクター鉄道北越急行と旅客列車で宅配便の荷物を運ぶ計画を進めている。民間の柔軟な発想から生まれた客貨混載は、苦境に立たされた過疎地域の公共交通に大きな力となる可能性を秘めている。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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