市場関係者が注目を集めたトヨタ自動車 <7203> の決算は5年ぶりに減収減益となり、2018年3月期の連結決算でもこの傾向に歯止めがかからず、2年連続で減収減益となる見通しを明らかにし、衝撃が走った。

厳しい決算内容の発表となった一方、明るいニュースも飛び込んできた。トヨタの「C-HR」が17年4月の新車販売台数で首位となったのだ。スポーツ用多目的車であるSUVが、月間販売でトップに立ったのは統計開始以来、初めての快挙。

人気を集めるC-HRだが、そのデザインやコンセプトはカーマニアから日産自動車 <7201> のジュークのパクリとまで揶揄される。批判を受けるC-HRだが、ライバル社の車が成し遂げられなかったSUV初の月間販売台数トップに輝いた。両者を分けた明暗は何だったのか。

先行ジュークが恰好のマーケティング材料

トヨタ,CH-R
(画像=Webサイトより)

自動車各社のモデル争いは今に始まったことではない。過去にもプリウス(トヨタ)とインサイト(ホンダ)がハイブリッドカーの覇権を巡って争い、さらに遡れば、「BC戦争」と呼ばれたブルーバード(日産)とコロナ(トヨタ)のライバル関係も自動車販売の歴史に刻まれている。

今回のSUVの対決では、販売で先行したのはジュークだった。10年6月に登場したジュークは、斬新で独創的な新しいジャンルの車として売り出された。アメリカンフットボールなどでディフェンスを軽快にかわす意味で用いられる「ジューク」は、その名の通り、車の持つ俊敏さと乗る人が仕事やプライベートで日々チャレンジする前向きさをイメージして世に送り出した。

月1300台の販売目標を掲げたジュークだったが、発売後1週間でその目標を大きく上回る5296台の受注を達成し、販売1カ月で累計台数を1万943台まで伸ばし、注目を集めた。嬉しい誤算となった販売台数の裏で、購入層には意外な結果が表れた。ジュークは年齢層のターゲットは限定しないとしたが、開発段階では30代の男性を想定し、テレビコマーシャルでは若年層へのアピールが目立った。しかし、蓋を開けてみると、購入したのは50歳以上の男性が約4割を占める結果となった。

ジュークの発売から6年余り過ぎた16年12月、満を持してトヨタがC-HRを市場に投入し、17年正月の箱根駅伝の運営車両として使用されるなど華々しいデビューを飾った。

SUV市場では、デザインが重視される傾向が強いため、デザイナーのアイデアを忠実に再現。外形はスピード感あるキャビン形状に彫刻的な面造形にダイヤモンドをモチーフに強く絞り込んだボディと対比するようにホイールフレアが大きく張り出しているのが特徴。インテリアも大人の感性に響くこだわりを質感・形状・色に追及した。

その仕上がりに、車にこだわりを持つ20-30代、比較的経済的に余裕があり、求める車を自由に選べる50代までをターゲットにした様子が伺える。SUVはスポーティな印象から、これまでは若年層への訴求が効果的と思われていたが、ジュークがシニア層にも受け入れられたのをトヨタは見逃さなかった。

高級感さえ漂わせる手の込んだ内装にこだわったのも、シニア層の取り込みには欠かせないと判断したからに違いない。ジュークの販売実績がC-HRのマーケティングに活かされたといっても過言ではないだろう。

性能・価格も後出しじゃんけんが有利?

デザインやマーケティングのほか、性能や価格も車の購入時には重要な要素になってくる。両社のSUVの燃費を比較すると、ジュークは2WD車が1リットルあたり14.2キロメートル‐18.0キロメートル、4WD車は同12.6キロメートル‐13.4キロメートル。一方、C-HRはハイブリッドシステムの1.8リットルエンジンは1リットルあたり30.2キロメートル(2WD)、1.2リットルのターボエンジン(4WD)は1リットルあたり15.4キロメートルだ。

燃費性能はトヨタに軍配が上がるが、販売時期に差があり、後発車の方が有利な状況に変わりない。欧米では根強い人気を誇るSUVだが、国内市場では軽自動車やハイブリッド車など燃費のよい車の人気が高く、相対的に燃費の悪いSUVは敬遠されがちだ。しかし、ハイブリッドシステムを導入したC-HRは、SUVクラスではトップレベルの燃費性能で、ガソリン代を心配するドライバーの声に応えるパフォーマンスをみせてくれる。

さらに価格面では、ジュークが197万円から346万円とモデルによって価格帯の幅が大きいが、C-HRは251万円‐290万円となっている。200万円を切るモデルを提供するジュークは、よりお手軽にSUVを楽しめるが、50代をターゲットに含むC-HRは、SUVとして妥当な価格を打ち出し、車の仕上がりと価格のバランスが支持され、人気を集める。

SUVを巡るライバル各社の争いは、後出しじゃんけんの格好となったトヨタが、適格にマーケティング戦略を駆使した上、性能、価格面でも消費者の心を捉えて結果を残した。後塵のSUVに水をあけられたジュークだが、市場では17年秋にもモデルチェンジを実施し、ハイブリッド車が登場するともささやかれている。役者がそろうSUV市場は、今後も熱い戦いが続いていきそうだ。(ZUU online 編集部)