FP相談をしていると、時々、国民年金保険に加入いていない人に出会う。筆者が出会うそのような人は、意図して加入していない場合がほとんどで、その理由を尋ねると「年金制度が破綻するから」と答える。

なぜ破綻するのかと尋ねると、「支払を滞納している人が多いと聞く」「少子高齢化で、制度が維持できない」など。果たしてこの回答は、正しいのだろうか? まことしやかに噂されている「年金破綻」について、紐解いていこう。

年金破綻説は、金融商品を売る側にとって都合が良い

年金破綻
(写真=PIXTA)

そもそも「年金破綻説」があることによって、都合のよい業界がある。何を隠そう我々FP業界や、保険・証券など金融商品を販売する業界にとっては、「将来年金がもらえるか分かりませんよね、だから自助努力で積立や投資を行いましょう」と、セールストークで商品販売を行ってきた過去・そして現在がある。

筆者も過去、そのうちの一人であった事を告白しよう。

そして何より、「消費税」や「社会保険料」を上げたい政府・行政にとっては、「このままでは皆さんの将来の年金が、減りますよ」と、不安をあおる事で、この上なく安易に増税や保険料の値上げの支持を得ることができよう。

こんな背景によって、知らず知らずのうちに「日本の年金制度は破綻する」というイメージや思い込みが「一般化」してしまったのではないだろうか。

年金未納者、未加入者の全加入者のうち3.3%

まず、現在の公的年金制度において正しい数字を知る必要がある。

厚生労働省HP内資料「社会保障審議会年金事業管理部会資料(第26回)」によると、2016年度公的保険制度全体で、加入対象者合計は6729万人。うち24ヶ月の保険料支払いが未納となっている「未納者」は206万人。加えて本来加入しなければいけないが、制度そのものに加入していない「未加入者」は19万人。

この「未納者」「未加入者」の合計は、225万人で全加入者のうちの3.3%であることが分かる。つまり、全体の97%近くが「納付」しているのが実態だ。

ではなぜ、世間で「支払いを滞納している人が多い」「4割近い人が未納だ」などの記事やコメントが横行しているのだろうか。

その理由は簡単で、見ているデータの違いである。

実は先ほどの資料を探し出すのに、筆者は自力では探せずに、厚生労働省に問い合わせをして入手した。親切丁寧にデータの在り処まで案内してくれた同省のスタッフも、「えーっと、確かここにあったような……」と、すぐには探せずに、電話口で10分ほど時間を共に費やした。

反対に、厚生労働省HP内の年金関係で、最も目にとまりやすいデータは、パブリックコメントの「国民年金保険料の納付率」である。

これは毎月発行されているもので、直近の2017年5月26日現在のものでは、「納付率64.1%」と記載がある。この「納付率」は、直近3年間では50%後半から70%台前半で推移している。

そう、未払い4割説は、ここから来ていたのだ。

納付率と未納者の違い 数字は見せ方で操作できる

なぜこんなにも数字に開きが出るのかというと、計算上の対象者がまったく異なるからである。

公的年金保険制度の対象者は、第1号被保険者(自営業者およびその配偶者)、第2号被保険者(サラリーマン・公務員・私立学校教職員)、第3号被保険者(第二号被保険者の配偶者で一定所得未満)の3つに分けられる。

加入制度は、国民年金保険か厚生年金保険に分けられ、「国民年金保険の加入者」は第1号被保険者・第3号被保険者に分類される。

第2号被保険者の加入する「厚生年金保険(国民年金も含まれる)」は、被保険者の給料天引きと企業からの労使折半にて、企業から支払いが行われる。つまり、企業が支払いを滞納していない限り、未納はありえない。

この中に、第3号被保険者の保険料も含まれるため、残るは第1号被保険者なのだが、第1号被保険者は個人の口座引き落としもしくは、振込票での支払いになるため、未納が発生する環境にある。そしてそのデータが、前述の「国民年金保険料の納付率」である。

実はこの納付率には「納付猶予者」や「学生や年収による免除対象者」、「第三号被保険者(実質免除)」も含まれている。

「支払わなくてもいいですよ」と正式に認められた人を「未納」という数字に挙げてしまうのは、いささか違和感がある。

本来であれば、先のデータである「公的年金制度全体での未納者および未加入者」を元に、年金制度が正常に維持されているかどうかの、議論をすべきである。

なぜならば、「支払わなくてもいいですよ」と正式に認められている人は、そもそも保険制度の設計・維持課程で、数理的にすでに織り込み済みだからだ。

全体のわずか3%強の未納者によって、「制度破綻」などする筈もなく、今後少子高齢化における人口(労働人口)推移も、保険数理上計算に入れていないわけがない。将来絶対に破綻しないとは言い切れないが、少なくとも現在の「正確な未納者数・未納率」によっては、制度破綻をしない理由がお分かりいただけただろうか。

とはいえ、給付される年金は減少していく。事実上の年金額減額法案はすでに成立し、将来の年金額は減る見込みだ。破綻はしないが年金制度だけで満足のいく老後を送ることは難しい。破綻のうわさがウソでも、満足のいく生活費を年金だけでは賄えないのは、悲しいことに、事実であるのだ。今のうちから自助努力で備えておく必要がある。

佐々木 愛子
ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅱ種
国内外の保険会社で8年以上営業、証券IFAを経験後、リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。FP Cafe'登録FP