(本記事は、井上雅夫氏の著書『ビジネスの武器としての「ワイン」入門』日本実業出版社、2018年6月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

ビジネスの武器としての「ワイン」入門
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『ビジネスの武器としての「ワイン」入門』シリーズ】
(1)味だけではない「最高級ワイン」大統領も使うおもてなしの極意
(2)なぜワインはエグゼクティブの必須ツールになるのか?
(3)あなたには「1本10億円」のワインの価値が分かりますか?
(4)ギネスを更新した「これまでに売られた最も高価な白ワイン」の中身
(5)ワインの味は値段ではない 本物の「ワイン通」が見るポイントは?

「コストvs価値」でワインを評価する

ビジネスの武器としての「ワイン」入門
(画像=Phovoir/Shutterstock.com)

ワインの値段はまちまちです。

1本500円以下のものから、1本なんと1億円(ロマネ・コンティ1945)のものまであります。

まさにピンキリですが、ワインは必ずしも値段が高ければ高いほど、おいしいわけではありません。

では、値段の違いは一体どこに現れるのでしょうか?

それは、ワインの「スタイル」の違いとなって現れます。

まず一番わかりやすいスタイルの違いは、「樽香」がするか、しないかです。

製造コストからして、低価格ワインにはまず「木樽」は使われません。ですから、樽由来の香りであるトースト香やバニラ香などは期待できません。

ただし例外もあります。

「オークチップ」という樽材と同じ木片を、ティーバックのように袋に詰めて、それをステンレスタンク内のワインに浸けて「樽香」をつけた低価格ワインがあります。

ですから、厳密に言うと「樽香」の有無だけではなくて、「樽香」のスタイルの違いもあると言えるのかもしれません。

次に、「発酵」期間の違いからくるスタイルの違いです。

高価格の白ワインの場合には、果汁を13°Cから18°Cくらいの低温で発酵させます。低温だと酵母の働きはゆっくりで発酵期間が長くなります。

発酵期間が長いほど香り成分の生成が多くなるので、香り高くフルーティーなスタイルの白ワインに仕上がります。

低価格の白ワインの場合は、発酵期間を短くするために発酵温度を少し上げて、短期間で発酵を終えてしまいます。

その分、香り成分は少なめですが、さっぱりとした、フレッシュで飲みやすいスタイルになります。

赤ワインの場合は、果皮や種子を一緒に発酵させる「かもし発酵」ですが、果皮や種子との接触期間がスタイルの違いを生みます。

つまり接触期間が長ければ長いほど、色素とタンニン成分が多く抽出されるので、色やタンニン由来の味わいが濃くなります。

高価格の赤ワインは、時間をかけてじっくりと「かもし発酵」をするので、色は濃いめで凝縮感があり、味わいが複雑なスタイルになります。

低価格の赤ワインは「かもし発酵」の期間が短く、その分タンニン成分が少ないので、あまり渋くなくてフルーティーで飲みやすいスタイルとなります。

「二次発酵」をさせるか、させないかでもスタイルは大きく変わっていきます。

当然、「二次発酵」をさせるほうが手間と時間がかかるので、ほとんどの低価格ワインで「二次発酵」はさせません。

このように、値段の違いはワインのスタイルの違いとなって現れるのですが、ここで注意したいのは、高価格ワインのスタイルが、低価格ワインのものよりも優れているということでは決してないということです。

重要なことは、それぞれの値段に見合ったスタイルであるかどうかの見極めであって、スタイル自体の優劣ではないということです。

例えばです。1000円以下のワインに「樽香」を求めては無理がありますし、逆に5000円もするのに「樽香」が全然しなければ問題なのです(品種によっては例外もあります)。

「It's worth it.」

アメリカ人の好きな言葉です。

「それだけの価値がある」という意味ですが、アメリカ人は、こと嗜好品に関しては、ある意味日本人以上にシビアです。

「それだけの価値がある」と思わなければ一切買おうとはしません。

アメリカでワインを造り販売していた私は、ワインの価格設定の時はいつも戦々恐々としていたことを思い出します。

「お値段以上」という某家具販売会社のCMがありますが、本当の「ワイン通」とは、どの価格帯のワインからでも、「お値段以上」で「It's worth it.」なワインを見つけて、そしてそれを心から楽しめる人のことを言うのです。

井上雅夫(いのうえまさお)
株式会社オリーブプロジェクトJAPAN代表取締役。醸造家、ワイナリーコンサルタント。ゴールデンゲート大学院・修了(MBA)。カリフォルニアワイナリー、Sycamore Creek Vineyards代表取締役&CEO。ワイン醸造家としても活躍し、2001年国際ワインコンクール(Monterey Wine Competition)にて赤ワイン部門グランプリ受賞。2005年帰国後、盛田甲州ワイナリー取締役営業本部長に就任。2007年カリフォルニアワイナリー、KENZO ESTATEの立ち上げ責任者のオファーを受けて、ワイナリーコンサルタントとして独立し再渡米。著書に『ワインづくりの心得を生かす部下を酸化させない育て方』(実務教育出版)がある。