3.経済効果はプラス面だけの事ではない

さて、最初の定義で私は「別の生産に伝わっていく変化の過程」と表現し、「生産の増加」とは言いませんでした。これは、経済波及にはプラスの面だけでなく、マイナスの波及もあるからです。

ドラマの影響で、ある観光地への観光客が飛躍的に増えたとしましょう。当該観光地にとっては良い事なのですが、残念な事に人々の予算には制約があるので、他の観光地の需要を食ってしまっている可能性(負の波及効果)が考えられます。
つまり、あまちゃんの例では、岩手県が「岩手県内のGDP」について試算をする時は、岩手県外の観光地の事はあまり考えなくても良いですが、日本全体のGDPを考えた場合は、トータルで考える必要があります。

4.費用対効果で考えよう

いくら経済効果が何億円といった大きな数値が出ていて、その試算が適切でも、元の出来事に費用が掛かりすぎていれば、経済効果が高いとは言えません。費用に対して効果がたったの0.1%だったらどうでしょう。もっと経済効果が高い使い方があったかもしれません。

つまり、経済効果の試算には、当該出来事が無かった場合との比較も必要です。例えば、東京オリンピックの経済効果の額は大きいと予測されていますが、東京オリンピックの開催にいくらかかるかということと、無かった場合、その予算はどうなるかという事も検討が必要です。

◉ケーススタディー:楽天優勝の経済効果

では、最後に七十七銀行が発表した楽天優勝の経済波及効果のレポートを例に、経済効果の中身を見てみましょう。

参考: 七十七銀行「東北楽天ゴールデンイーグルス」の優勝および日本一を想定した経済波及効果推計調査の結果について(PDFファイル)

まず、直接効果ついては、宮城県が2012年に行った楽天イーグルスの観客へのアンケート調査による観客一人当たりの平均観光消費額8131.3円(交通費・食費・チケット代・宿泊費等)に、過去3年間と比較した2013年の観客増加分169,467人を乗算したものを用い、そこから観光消費額の増加を13.78億円と試算されています。また、クライマックスシリーズ及び日本シリーズ開催による観光消費額の増加を同様の手法で33.7億円と試算されています。ここまでは大きな問題点は無いでしょう。

しかし、仙台市内の百貨店での優勝セールによる10月・11月の消費増加4.89億円が計算に入っていますが、阪神優勝の経済効果試算にも同様の事が言えますが、1月以降の冬のバーゲンの需要を先取りしている可能性が検討されていない点が問題です。

ここまでの合計52.37億円の直接効果から、経済波及効果の試算に頻繁に使われる産業連関表を用いて、飲食店やホテルなどに投入される原材料・サービスの生産誘発効果18.13億円を一次波及効果とし、これらから雇用者所得の増加分を20.27億円としています。そのうちの81%が消費に回ると仮定(消費転換係数)して16.42億円の消費額が増えるとされ、この消費額増加が二次波及効果として関連産業に14.8億円あると試算されています。

この産業連関表による推計結果84.58億円は、過去3年間の経済波及効果を139億円(優勝しなかった場合)という試算と、優勝した場合の経済波及効果224億円との差異と一致するようになっています。この方法は経済学で主流の手法と言えるでしょう。

費用対効果については、楽天が前年度までと今年でどれほど球団経営に費用を変化させたかが分からないので、正確には分かりませんが、少なくとも宮城県目線では効果が大きいのでしょう。

なお、日本全体の視点が無いですが、このレポートは七十七銀行が宮城県でのビジネス上の目的に出したものなので仕方ないでしょう。しかし、調査を読む側が日本全体への影響を考える場合には、楽天全体の事業による影響、他のチームが優勝した場合の効果との差異などを考える必要があります。

BY T.T

© Michael Theis 2011