このマニュアルは、不動産会社が、消費者に対して媒介価額に関する意見を述べる際に、消費者にとって納得しやすい根拠を合理的に示す手法として作成されたツールです。また、「履歴の保存」については本コラムにおいても何度か取り上げてきました。「適切な維持管理」として計画を作る事はもちろん重要です。

中には、既に行っている方もいるでしょう。特にビル等に置いては法点検が求められるため、必要なことは行っているという方もいます。しかし、それらを証明するものが履歴情報だと言えます。住宅で言えば「住宅履歴情報」でしょう。エビデンスのない履歴にはその有効性に疑問が残ります。正しく残してこそ「履歴情報」だと言えます。尚、この「履歴情報」の蓄積については、中古車市場のデータベースに比べて進んでいます。

国土交通省が平成19 年度から21 年度にかけて「住宅履歴情報整備検討委員会」を設置し検討を行い、最低限必要な共通の仕組みづくりを目指して平成21 年に「住宅履歴情報の蓄積・活用の指針」が取りまとめられています。

また、住宅履歴情報の蓄積と活用を支援する業務を行う事業者により、平成22 年には一般社団法人住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会が設立されています。この協議会はハウスメーカー12社を始めとした正位会員58団体及び全国数多くの行政も情報会員となっています。蓄積された住宅履歴情報は約300万棟を超えています。

2-リフォームの有無による現価率の違い


3-住宅履歴情報の蓄積・活用のイメージ



不動産会社が求められる役割

日本は今、深刻化する空き家問題を抱え、そして人口減少社会に突入しています。これまでのような家を建てて20年で壊してまた建て替える。そんなサイクルは難しくなってきています。野村総合研究所の試算によれば、2033年には全国の空き家が約2,150万戸、空き家率は30.2%にまで上昇すると予測されています。

住宅投資という人生最大の投資を20年で無にしないために、まずは資産たる建物に対しての正しい維持管理という投資を行い、そしてそれを住宅履歴として残していくことで、住宅の長寿命化が実現することはもちろん、買い替え等の売却時においてもそれまでの資産への投資が価格に反映される市場になっていくでしょう。

そのような背景のなか、不動産会社に必要なのは単に情報を右から左に動かすことではありません。資産の管理をするという視点、価値を向上させていくというエージェント的な視点が求められています。「資産管理会社」或は「住宅管理会社」として消費者の期待に応えるべく、これからの市場を理解し関わっていくべきでしょう。

高橋 正典
不動産コンサルタント。株式会社バイヤーズスタイル代表取締役。2000件以上の不動産売買に携わるなど、現場を最もよく知る不動産コンサルタント。NPO法人住宅再生推進機構専務理事、一般社団法人相続支援士協会理事。著書に「プロだけが知っている!中古住宅の選び方・買い方」朝日新聞出版、「不動産広告を読め」東洋経済新報社他

( 記事: 週刊ビル経営 )※ 本記事は 週刊ビル経営 9月14日号に掲載されたものです。

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