日本人は世界で最も貯金が好きな国民です。世界の個人金融資産に占める現預金の比率を確認してみますと、米国が13%、イギリスが23%、ユーロ圏が33%に対して、日本は52%です。金額ベースでは実に892兆円に上ります。日本の名目国内総生産(GDP)が約500兆円ですから、日本はなんとGDPの約1.8倍もの現預金を保有していることになります。世界広しといえども、その国の経済規模の1.8倍もの現預金を保有する国は先進国で日本以外にありません。

筆者は金融に携わる仕事をしていることもあり、こうした事実を客観的にみると、非常に残念でなりません。このいわば「死に金」になっている「現預金」に有効的に働いてもらえば、経済にも家計にもプラスの効果をもたらし、ひいてはそれが日本がデフレから完全に脱却することを大きく後押しするとみているためです。今回は、なぜ、日本の家計の保有資産が現預金に偏っているのかを考え、今後、われわれ個人がどのような行動を取っていくのが望ましいかについて考えてみたいと思います。

バブル崩壊の痛手が日本人を投資から遠ざけた?

実は1980年代後半のバブル期には現預金比率が低下し、有価証券保有比率が高まる場面もありました。ただ、その後のバブル崩壊を経て、日本人の間に「投資=怖いもの」という固定観念が刷り込まれたような気がします。バブルで負った心の傷が癒えぬまま、日本はデフレに突入し、株や不動産といった資産価格の下落基調が続いたことがより日本人を投資から遠ざける一因となりました。

私はここに問題があると思います。なぜ日本人が「投資」ではなく「貯金」が好きなのかというと、投資に対する漠然とした不安に囚われすぎ、「投資」を行うために必要な「金融リテラシー」を学んでこなかったからです。「金融リテラシー」が欠如しているために、将来の資産形成について何をすればいいか全く分からない人は非常に多いと感じます。欧米と異なり、日本では経済とお金に関する教育を受ける機会がほとんどないまま成人して社会に出るのが一般的ですから、それは致し方ないことなのかもしれません。

適度なインフレは金融経済的に望ましいことであるが

そもそも、日本人はインフレとデフレ時の投資行動の違いについて理解している人はほとんどいません。ここではあえて詳細な説明をしませんが、簡単に言うと「インフレ=物の値段が上がる=お金(円)の価値が目減りする」、「デフレ=物の価値が下がる=お金(円)の価値が増える」ということです。

100円玉1枚で買えるパンが1年後にそれぞれ200円、50円になった場合を仮定すれば、上記のインフレ、デフレの説明がご理解いただけると思います。物の値段が上がり、お金の価値が目減りするのであれば、企業は余剰資金を貯めるのではなく成長投資に資金を振り向ける必要が出てきますし、個人であれば消費や投資などに資金を振り向けることにつながりますから、経済や金融市場にとって適度なインフレは望ましいことなのです(デフレはこの逆のことが起きます)。