マイナス金利という言葉はあまりにも衝撃的だった。多くの投資家はマイナス金利をどのように評価して良いのかいまだ分からないままだ。誰が得をして誰が損をするのか、新たな材料が出た瞬間、投資家はまずそれを考える。

日銀がマイナス金利を発表した1月29日の業種別騰落率を見ると、上昇率トップは不動産業だった。そして全業種のうち唯一下落したのが、銀行だった。多額の資金を借入により調達する必要がある不動産業が恩恵を受け、金利で商売をしている銀行が苦しむという構図だ。

とりわけ、運用先に恵まれず、メガバンクほど海外進出のノウハウもないため、地方銀行の経営は更に苦しくなるだろう。マイナス金利決定は資金の運用先に恵まれない地銀の再編を促すきっかけになる可能性がある。

マイナス金利というサプライズ

1月29日金曜日、その日は日銀政策決定会合が開かれており、午後3時30分からは黒田日銀総裁の記者会見が予定されていた。日銀の持っているカードは2つ。「追加金融緩和」と「マイナス金利」だ。黒田総裁はこれまでマイナス金利については「検討していないし、考えが変わることもない」と否定し続けていた。

「このタイミングでまさかマイナス金利のカードは切るまい」と、多くの投資家はそう高をくくっていた。ところが、12時38分、日銀はマイナス金利の導入を発表した。銀行など民間金融機関は、日銀に当座預金口座を開設し、そこに資金を預けている。この資金により、企業や個人の金融、経済取引に伴う資金決済が円滑に行われる。日銀は金融市場における資金の総量を、この当座預金の増減により調整している。

マイナス金利の内容は?

現在の当座預金の残高はおよそ210兆円。日銀の当座預金に資金を預けているだけで、金融機関は0.1%の金利を得ることができる。その金利が付かない、ことによってはマイナス金利ともなれば当然銀行は大きな打撃を受けることになる。融資の貸出先に恵まれない地方銀行ほど、マイナス金利の影響は大きいはずだ。それが懸念され、マイナス金利の発表と同時に銀行株が売られることとなった。

マイナス金利政策が金融仲介を担う金融機関の収益に悪影響を及ぼす面があることは日銀も十分に承知している。今回のマイナス金利の導入に当たっては、 金融機関収益への過度の圧迫により金融仲介機能がかえって低下するようなことがないよう、3段階の「階層構造」を採用し、ある残高まではプラス金利、ないしはゼロ金利とすることとした。

マイナス金利が銀行業界へもたらす影響

従来通り0.1%の金利が適用される残高は、約210兆円。また、ゼロ金利が適用される残高(マクロ加算残高)は、当初は約40兆円。2月積み期間の当座預金残高は未定であるが、仮に260兆円とすれば、マイナス0.1%が適用される残高(政策金利残高)は、当初は約10兆円となる(260兆円−210兆円−40兆円= 10兆円)と日銀は試算している。 すでに銀行が日銀に預けている当座預金に対してはマイナス金利は適用されない。日銀は銀行に対し、最大限の配慮を行ったことが理解できる。

日銀の当座預金には法定準備金とそれを上回る部分とに分類される。企業や個人の資金需要が旺盛であれば、銀行は法定準備金を上回る当座預金を日銀に預けることはない。

本来であれば、この資金は有効に活用されていない資金であり、花札用語で価値がないことを意味する「ブタ」を用いて、「ブタ積み」と呼ばれている。日銀はこのブタ積みに0.1%の金利を付けていたのだ。皮肉なことに有望な運用先が見つからない銀行にとって日銀の当座預金は最も有望な運用先のひとつである。

マイナス金利で銀行の負担が増えること以上に懸念されるのは、マイナス金利が金融市場で一層の金利低下を招いてしまったことだ。当座預金にマイナス金利が適用されることよりも、市中金利の低下で融資の利ザヤが縮小することのほうが、銀行の収益基盤にとっては大きな痛手となる。

日銀が意図したのは、マイナス金利によりブタ積みになっている巨額の資金が、企業の設備投資などに流れ込むことだ。それが経済の好循環をもたらし、物価上昇の目標も達成できるはずだった。

しかし、それは画に描いた餅に過ぎない。銀行が新たに日銀の当座預金に資金を預ければ、金利を支払わねばならない仕組みができあがった。さらに市中金利の低下により、融資の金利までも引き下げざるを得ないとなれば、銀行の収益力が悪化することは目に見えている。

銀行にとって逆風はそれだけでは無い。融資金が増えなければ、投資信託や保険の販売で収益を確保するという方法もある。しかし、銀行窓口の最前線では運用ではなく、タンス預金を選択する顧客が増えているという。マイナンバー制度の普及により資産を把握されることをきらい、銀行から現金を引き出している富裕層が増えているのだという。

地銀の再編が進むだろう

とりわけ、ただでさえ人口減少地域を営業基盤とする地方銀行の経営はより不安定なものとなるだろう。最近では生き残りをかけて経営統合を行う銀行が増えている。地方都市を中心に人口減が止まらず、地銀と第二地銀だけで100行を越えるいわゆる「オーバーバンキング」であることに加え、メガバンクなどとの競争も激化しているため収益性が落ちてきている。

地域を越えた経営統合を行なうことで、規模のメリットによる経費削減だけではなく、営業戦略上も様々なメリットがある。顧客数が増加すれば、M&Aのような仲介ビジネスのチャンスが増えるだろう。有能な行員のノウハウが持ち寄れるため、人材の質の面でもメガバンクに対抗しうる可能性も出てくるだろう。地方銀行の再編が今後更に増加する可能性は十分にあるだろう。(ZUU online 編集部)