(写真=PIXTA)
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3月26日の北海道新幹線開業を前に、JR北海道の経営危機がさらに深刻さを増していることが1月末、札幌市で開かれた「地域公共交通検討会議」(道主催)で明らかになった。道内全14路線30区間の管理費を含めた2014年度の収支状況は、すべての線区で赤字となった。

JR北海道は既に留萌線留萌-増毛間16.7キロの廃止方針を留萌市など沿線自治体に伝えているが、高波で土砂が流出した日高線鵡川-様似間116キロは1年以上運行がストップしたまま。今後、さらに路線の廃止があってもおかしくない収支状況だけに、地元経済や住民の暮らしに大きな影響が出そうだ。

全線の営業赤字400億円以上

北海道交通企画課によると、地域公共交通検討会議ではJR北海道の小山俊幸常務が、全路線の収支状況を報告した。JR北海道は2015年11月、旅客輸送密度(1キロ当たりの1日平均輸送人員)500人に満たない7路線10区間の管理費を除く営業係数を公表しているが、全線の収支を示したのは今回が初めて。

管理費を含め最大の赤字となったのが、函館線函館-長万部間の42億8100万円。次いで根室線帯広-釧路間の32億3400万円、石北線上川-網走間の29億700万円が続く。このほか、宗谷線名寄-稚内間、函館線の岩見沢-旭川間と長万部-小樽間が20億円以上の赤字を出している。一部不通となっている日高線苫小牧-様似間は15億4400万円の赤字。全線区の営業赤字は400億3700万円に達した。

管理部門の費用を加えた営業係数(100円の収入を得るのに必要な費用)は、廃止の方針を打ち出している留萌線留萌-増毛間が4554円でトップ。他に6区間が1000円を超えており、札沼線医療大学-新十津川間が2162円、根室線富良野-新得間が1591円、留萌線深川-留萌間が1508円、石勝線新夕張-夕張間が1421円、日高線苫小牧-様似間が1179円、室蘭線沼ノ端-岩見沢間が1011円となった。全線区平均では100円の収入を生むのに154円の経費がかかっている。

旧国鉄の経営悪化を受け、1980年に制定された国鉄再建法では、旅客輸送密度4000人未満の路線を特定地方交通線と位置づけ、バス転換か第3セクターなど国鉄以外の事業者による鉄道運行を求めていた。

JR北海道の場合、全30線区のうち、21線区がこれに該当する。中には留萌線留萌-増毛間39人、札沼線医療大学-新十津川間81人のように、まるで空気を運んでいる状態の区間もあった。

留萌線の一部を廃止の意向

こうした運行状態から、JR北海道の経営は火の車状態だ。度重なる事故の再発防止のため、安全投資や修繕に2600億円を投じる計画があることも経営に暗い影を落としている。3月に運行を始める北海道新幹線も年間50億円程度の赤字が出る見通しで、収支改善に向けた好材料は見当たらない。

JR北海道は給与などの支払に充てる手元資金が2018年度末に1100億円も不足し、事実上の経営破綻になると内部で試算していたが、国土交通省が2015年6月、1200億円の支援を決め、危機を一時脱した。

JR北海道の再建策を提言する第三者機関・JR北海道再生推進会議は2015年6月、線区の廃止を含めた抜本的な経営見直しを求める提言書をまとめた。高橋はるみ知事は道議会の答弁で「安易な廃止はするべきでない」と釘を刺したが、JR北海道は提言を受け、廃止路線の選定を始めたもようだ。

その第1弾となったのが、留萌線留萌-増毛間16.7キロ。島田修JR北海道社長は2015年8月、留萌市や増毛町に正式に廃止の意向を伝えた。JR北海道広報部は「現在も(沿線自治体と)協議が続いている」としているが、JR北海道は3月末までに廃線を国交省に届け出て2016年度中に廃止したい意向だ。

さらに2016年度のダイヤ改正に合わせ、気動車普通列車の約15%削減、利用の極端に少ない駅の廃止と無人化を実施する方針も明らかにしている。大規模な路線廃止に向けた措置と受け止める鉄道関係者が少なくない。

復旧の見通し立たない日高線

JR北海道は2014年5月、江差線木古内-江差間42.1キロを廃止している。日高線は2015年1月、線路脇の土砂が高波でえぐり取られ、鵡川-様似間116キロが不通となっている。復旧には38億円かかるとされ、費用の拠出をめぐり、国、道との3者協議が続いている。

JR北海道は当初、費用負担に否定的だったが、2015年末の沿線自治体との協議会で態度を軟化させ、車両の更新費などを沿線自治体が負担することを条件に復旧工事を進める考えを示した。

しかし、沿線自治体の反応はさまざまで、費用負担に消極的な自治体もある。沿線の人口減少から復旧しても鉄道利用者が増える見通しが立たないためで、協議がまとまらなければ、このまま廃線となる可能性も残っている。

マイレール残す地元の努力も必要

北海道は札幌一極集中が続いている。それ以外の地域は国内で最も人口減少が深刻な地域に数えられ、札幌以外に大都市もない。留萌線は全線で1977~79年度の旅客輸送密度が1618人もあったのに、2014年度は10%以下の142人まで落ち込んだ。

しかも、土地が広大なうえ、真冬はマイナス20度を超す寒さに見舞われる。除雪や保守点検に多額の費用が必要だ。利用者が減少し、経営が危機を迎えることは早くから予想されてきた。

JR北海道の経営を支えてきたのは、経営安定基金の運用益だ。国鉄分割民営化の際に国から与えられたもので、この資金の多くが鉄道建設・運輸施設整備機構に対し、特別に高い金利で貸し付けられている。事実上、政府が税金で赤字補填してきたわけだ。しかし、運用益で赤字を補えなくなり、そのシステムも破綻しかかっている。

ただ、経営改善だけのために路線廃止を進めたのでは、住民への影響が避けられない。観光など地元経済へも深刻な打撃となるだろう。JR北海道が親方日の丸意識を捨て、経営改善に努めるのは当然だが、地元もマイレールが生き残れるよう知恵と努力を積み重ねることが求められている。

高田泰 政治ジャーナリスト
地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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