景気回復と言われても、まだまだ宇宙の果ての絵空事にしか思えない昨今、ビジネスマンが仕事着に費やす金額もあいかわらずの緊縮傾向が続いている。「スーツだけで手いっぱいなのに、靴なんて」というのが、大方のサラリーマン諸氏の本音だろう。でも、考えてほしい。あなたが仕事で大切なクライアントと深いお辞儀を交わすとき、視線はおのずと互いの靴に向くことを。熾烈なビジネス戦争の最前線にあって、足元の身だしなみに手を抜くと、あなたのマナー意識の欠如ばかりか、勤務意欲や人間性まで疑われることになりかねない。そんな隙を見せないためにも、ここでビジネスマンに求められる靴の知識をしっかり磨いていただきたい。もちろん靴も磨きましょう。重要な取引相手に「足元」をしっかり見られても良いように。

スーツ 靴
(写真=Daniel Jedzura/Shutterstock.com)


スーツの靴の種類について

日本人の一般的なビジネス感覚では、靴は茶色か黒のカーフならば、特に問題視されることはないと思う。ところが、靴文化の本場・西欧のマナーでは、ビジネスシューズはトラディショナルなレースアップシューズ、つまり「紐靴」と相場が決まっている。しかも靴を脱ぐときは必ず紐をほどき、履くたびに結び直すのが常識とまで言われたら、なにかと靴を脱ぐ機会が多い日本人としては、聞かなかったことにしたくなるのも当然だろう。中には靴紐をゆるめに結んだままで一度もほどいたことがないというズボラな人もいるようだが、靴がゆるいと歩く姿勢が悪くなって足に負担がかかるし、靴底も偏摩耗してしまう。理想を言えば、靴紐は脱ぐときや履くときだけでなく、足の状態に合わせて締め具合を適宜修正したほうがいい。そして、それができるからこそ、ビジネスシーンではレースアップシューズがベストなのだと思ってほしい。

そのレースアップシューズだが、大きく分けて外羽根式(そとばねしき)と内羽根式(うちばねしき)の2種類がある。違いは靴の紐を通す甲の「羽根」の位置と構造。外羽根式はその昔、プロシアの軍人が考案した軍靴が起源で、左右の羽根が耳たぶのように甲の外側についている。紐を結ぶと2枚の外羽根が甲を包むように締まるので、締め具合の調節幅が広く、履きやすくて脱ぎやすいのがメリットだが、元がフィールド用だけにフォーマル度は劣るとされている。

一方の内羽根式は、甲の中央の切れ目を靴紐で縫い上げるスタイル。19世紀のイギリスで、王侯貴族に愛用された室内履きから発展したものと言われている。ビジネスはもちろん冠婚葬祭にも適しており、デザイン的にもエレガントだ。一般論としては内羽根式がおすすめだが、日本人の甲高で幅広な足には外羽根式が適しているのも事実。試着して足に合うほうを選ぶのが良いだろう。

次に着目したいのが、靴底の素材。高級靴はおおむね革底になっている。革底は通気性が良いので蒸れにくく、アーチ部分に適度な弾力がある。しかも電気を通すので、冬場にドアノブでバチッと指に来るいまいましい静電気を、ある程度防ぐ効果がある。欠点は靴底が滑りやすいことで、大理石の床や摩耗したマンホールの上では氷のようにつるつる滑る。しかも雨に弱い。安価な靴だと一度濡れただけで段ボールのようにクタクタになり、弾力を失うことがある。高級靴は総じて丈夫だが、だからといってベタベタになってもOKとまでは言い切れない。その点、合成ゴムの靴底は雨にも負けず、大理石にもマンホールにも負けないが、静電気には覚悟が必要だ。ビジネスシューズを選ぶとしたら、合成ゴム底が無難だろう。すでに革底の靴をお持ちなら、専用の滑り止めシールを靴底に貼る手もある。

スーツに合う靴のデザインについて

ここではスーツに合う靴の定番デザインを4つ紹介しよう。

・ストレートチップ(Straight Tip)

革靴,ストレートチップ
(写真=GoncharukMaks/Shutterstock.com)

つま先にキャップをかぶせたように横一線(ストレート)のステッチがあるのがストレートチップ。「キャップトゥ」ともいう。ステッチに沿って、ブローギングという小さな穴の装飾模様を施した「セミブローグ」というタイプもあるが、厳密にはブローギングがないほうがフォーマル度は高いとされている。オーソドックスなストレートチップは、ビジネスはもちろん、冠婚葬祭にも胸を張って行けるオールラウンダーなので、新人ビジネスマンが最初に手に入れるとしたら、黒のシンプルなストレートチップがベストだ。

・プレーントゥ(Plane Toe)

革靴,プレーントゥ
(写真=goir/Shutterstock.com)

つま先に縫い目や飾りがないシンプルなデザインが特徴。外羽根式のプレーントゥは、1960年代のアイビールックの大流行で一躍有名になった懐かしのアイテムだ。現在もビジネスシューズの定番のひとつになっている。内羽根式は、よりフォーマルなイメージ。すっきりしたデザインで、靴磨きや手入れがしやすいのもメリットだ。

・ウイングチップ(Wing Tip)

革靴,ウイングチップ
(写真=IVASHstudio/Shutterstock.com)

つま先に曲線的な「M」字形の切り替えがあり、そのラインが翼のように見えることから「ウイングチップ」と呼ばれている。かかとや甲の切り替えに華やかなブローギングが施されるため、「フルブローキング」ともいう。かかとやつま先の切り替えの縁が、細かいギザギザになっている。トラディショナルな靴としては最も装飾性が高くおしゃれな半面、フォーマル度はやや劣る。難点は、手入れをするときにブローギングの穴や切り替えのギザギザに靴クリームが残り、拭き取るのが面倒なことだ。靴磨きを趣味的に楽しめるマニアックな人向け。

・モンクストラップ(Monk Strap)

革靴,モンクストラップ
(写真=Chura/Shutterstock.com)

「モンク」とは、キリスト教の修道士の意味で、中世のアルプス地方で修行に勤しんでいた修道士の靴が起源とされる。特徴は甲の部分を紐ではなく、バックル付きのベルトで留めること。ベルトが1本のシングルモンクと、幅の広いベルトを2つのバックルで留めるダブルモンクに大別される。紐のない靴としては例外的に、ビジネスシーンでの着用が認められており、慶弔時の使用もおおむね良しとされている。靴を脱ぐときにベルトを外す必要はないが、中にはバックルの付け根がゴムで伸びてスリップオン感覚で履けるものもあり、日本のビジネスマンにとっては願ったりかなったりの製品になっている。

ビジネス向けではない革靴の種類

・モカシン(Moccasin)

甲に縫い目で大きなU字を描くように縫合した靴。原型は北米インディアンが1枚の鹿革をざっくり縫い上げた、かかとのないシンプルな靴で、それをヒントに「モカシン縫い」というU字形縫合の頑丈な作業靴に発展した。現代のモカシンにはシューレースつきも多いが、ビジネスには不向きとされている。

・ローファー(Loafer)

足をスルッと滑り込ませて簡単に履ける靴を総称して「スリップオン」という。その代表格がローファー。面倒なレースアップとちがって、スリッパ感覚で脱いだり履いたりできるため「怠け者」を意味する「ローファー」という不名誉な名前をつけられた。甲のベルトにコインをはさめる「コインローファー(1ペニー硬貨をはさむので、ペニーローファーとも)」や、甲に馬具を模した金具つきの「ビットローファー」など、種類がとても豊富なのは、靴社会の欧米でも「怠け者」が多いということだろうか。日本では勤勉な働き者も堂々と着用しているが、本来はカジュアルユースオンリーとされている。なお、甲に一対の房飾りが付いた「タッセルローファー」は、アメリカでは弁護士が好んで履いたことから「ローヤーズシューズ」とも呼ばれ、ビジネスシーンでの着用も認められているが、ヨーロッパではこれもカジュアル扱い。房が甲に当たる部分が擦れて汚れやすいので、気をつけよう。

・サイドゴアブーツ

19世紀にビクトリア女王のために仕立てられた特別製のブーツが元祖。着脱しやすいようにブーツの両サイドに伸縮性のあるゴア(ゴム)を設けたところ、女王以上に夫のアルバート公がお気に召したことから、王室公認のフォーマルブーツとして世に広まった。それがふたたび脚光を浴びたのは、誕生からほぼ100年後。いわゆるモッズ・ファッションとして、ビートルズやローリング・ストーンズなど人気ミュージシャンがこぞって着用した結果、大流行となり、それとともに王室御用達のフォーマルクラスから、派手な若者向けのカジュアルアイテムへと降格された。もとがフォーマルなアイテムなので、ビジネスで着用しても良いとする意見もあるが、基本的にブーツ系はカジュアル専用と割り切った方が無難。

シーン別の革靴の選び方

・ビジネスシーン

ベストはレースアップのストレートチップとプレーントゥ。モンクストラップやウイングチップも合格圏。素材はカーフ。色は黒が無難だが、毎日スーツを着るのならば、たまには茶系の靴を、グレーやネービーのスーツに合わせてみるのも、おしゃれな気分転換になる。黒と茶以外ではバーガンディーも案外いける。靴だけ見るとコーディネートしにくい色に見えるかもしれないが、チャコールグレイやネービーのスーツに意外なほどマッチする。赤やエンジのネクタイを選ぶときには、靴もバーガンディーが合う。

・リクルート

就活の場でもビジネスシーンと同様、レースアップシューズが基本。内羽根式のストレートチップか、プレーントゥがベストだ。素材はカーフ。色は黒以外、考えない方が身のためだ。就活生は足が革靴に慣れていないため、フィッティングでは必ず両足に履いて歩いてみるのがポイントだ。

・結婚式

結婚式はレースアップのストレートチップが基本。プレーントゥでも差し支えない。フォーマルシーンでは装飾性の高い靴はよろしくないので、つま先にメダリオンという模様が入ったタイプは避けたほうが良いとされる。素材はカーフ。超NGはトカゲやワニ、ダチョウといった生物的な質感丸出しの素材。靴に限らず殺生を連想させるものは縁起が良くないとされている。

・葬儀や法事法要

葬式の場にふさわしいのは内羽根式のストレートチップ、もしくはプレーントゥ。黒以外の色は当然NG。もっとNGなのがトカゲやワニ、ダチョウ革。理由は結婚式と同様、殺生を連想させるから。モンクストラップは良しとするのが一般的だが、金属バックルがピカピカなのでNGだと文句を言う向きもあるかもしれない。光沢があるエナメル靴や、カジュアル系の靴も避けたい。

スーツの靴の人気ブランド

・リーガル(REGAL)

言わずと知れた日本を代表する老舗ブランドだ。創業は1902年。61年からアメリカのブラウン製靴と技術提携して「リーガル」ブランドの靴を製造し、日本社会にアメリカントラッドシューズを根付かせた草分け的な存在だ。トラディショナルなプレーントゥやアイビールックのコインローファーなど、多くの定番アイテムを展開しており、近年では「ケンフォード」という安価なセカンドブランドにも注力している。

・スコッチグレイン(SCOTCH GRAIN)

1964年にヒロカワ製靴として創業した日本の靴メーカー。78年から自社ブランド「スコッチグレイン」を製造販売している。グッドイヤーウエルト製法による、トラディショナルな英国スタイルが持ち味。

・ロイドフットウエア(LLOYD FOOTWEAR)

1980年に英国靴専門店として創業した日本の靴販売店。英国の技術で日本人の足にマッチする靴を製造するため、自社設計のオリジナル靴を英国の一流メーカーに外注している。実店舗は東京都中央区銀座3の3の8の「ロイドフットウエア銀座店」のみ。いまだネットに公式ホームページがないという謎めいた存在だが、ネット通販でも入手は可能。

・モレスキー(MORESCHI)

1946年に創業したイタリア屈指の皮革製品ブランド。一般的にイタリア製の靴は軽くて柔らかいため履き心地が良く、見た目も美しい半面、耐久性に劣るイメージがある。モレスキーはイタリアらしい履き心地の良さと、イタリアらしくない耐久性が高次元で両立している希有のブランドだ。英国製に多いグッドイヤーウエルト製法ではなく、マッケイ縫いというイタリアらしい製法により、エレガントな外観としなやかな履き心地を実現している。

・チャーチ(CHURCH'S)

1873年に創業した英国を代表する製靴メーカー。伝統のグッドイヤーウエルト製法で、1足を8週間かけて入念に仕上げる手作業中心の工程により、世界のセレブを魅了する高い品質を維持している。かのジェームズ・ボンド愛用の靴として映画007シリーズに長年採用されたことでも知られる。20世紀末に経営難からプラダの傘下に入って以降、ジョンブルらしい頑固で保守的な作風を改め、トレンド指向の製品コンセプトに転換した。そのために旧製品を「オールドチャーチ」と呼んで涙ながらに懐かしむファンが今でも多い。

レースアップが愛される理由

欧米人が面倒なレースアップシューズにこだわる理由が、土足を嫌う日本人にはいまひとつピンとこないかもしれないが、レースアップは決して見かけで選ばれているわけではない。必要に応じて締め具合を調整できる実用的なメリットがあればこそ、ビジネスの現場にふさわしいのだと思ってほしい。適度にタイトな革靴は足をしっかり支えてくれるので、営業で長時間歩き回るときなどは、下手なスニーカーよりも疲れにくいと言われている。ビジネスシューズは、あなたの社会人生活を足元から支える大切なアイテム。単なる消耗品だと考えず、興味と関心を持って選んでほしい。

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