ビットコインなど仮想通貨取引は日本でもかなり浸透してきたが、株式や債券などの熟練投資家であっても、仮想通貨は従来の金融商品とは異なるだけに、仕組みや裏側をしっかり理解している人は意外と少ない。マイニングや取引所経営などを手がけ、現在は仮想通貨のウォレットアプリ「DICE WALLET」を運営する橋谷田拓也氏がこのほど、海外の専門家を招きブロックチェーンカンファレンスを開催した。「仮想通貨やブロックチェーンに関する誤った情報ばかりが目に付く。正しい情報を知ってその可能性を知ってもらいたい」と話す橋谷田氏の思いに、日経CNBC経済解説委員などを務めるエコノミストの崔真淑氏が迫った。

取引が盛んなのに仮想通貨の知識に乏しい日本

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橋谷田拓也氏と崔真淑氏(写真・森口新太郎)

9月17日に都内でブロックチェーンカンファレンスを開催されました。投資家やエンジニアなど1000人もの方が参加されたそうですが、スピーカーをドイツのブロックチェーンスタートアップから迎えるなど、かなり専門的な情報も多かったように思います。なぜあのイベントを開かれたのでしょうか?

橋谷田 日本の仮想通貨マーケットの取引高は世界でトップ3に入るんです。でも仮想通貨の知識レベルで言うとかなり低い。そこを埋めたいんです。実際ブロックチェーンを含め技術面の深いところが分かる人が話さないと、先日のビットコインのハードフォーク問題のような誤解を招いてしまいます。正確でないニュースのせいで取引所が止まってしまいました。

「ハードフォークが起きるから8月1日まで動かせません」という話になりましたね。

橋谷田 「ハードフォーク」は簡単にいうと、仮想通貨の台帳ともいえるブロックチェーンの仕組みを、従来とは違う、互換性のない仕様にかえてしまうことなんですね。実際のところ本当にハードフォークしたかどうかの確認は誰もできていないのではないかと考えられ、「Segwit(=セグウィット)」という対応をしただけ。これは取引の署名部分をブロックから分離して取引記録に割り当て、ブロックチェーンの容量を増やしてブロック数を変えるものです。ビットコインのマイニングをしているとブロック数が変わると分かります。

そもそもビットコインのマイニングってどういうものなのでしょうか。

橋谷田 まずビットコインなど仮想通貨の取引がブロックチェーンのブロックに載るには認証が必要です。最大10認証の過程を経ますが認証数はランダムで、その認証を解読するのがマイナー(採掘者)の仕事です。マイナーには一般の人もいて、自宅などで解読してお金をもらうわけです。報酬が少なかったらそのコインを掘っても(解読しても)意味がないけど、ビットコインは価格が高くなって取引が増えたからマイニング件数自体は増えたと思いそうなものですが、実はマイニングフィーが少ないんです。

(写真・森口新太郎)
(写真・森口新太郎)

値段が上がるほど、マイニングする人のインセンティブも上がりそうなものですが、そうじゃないんですね。

橋谷田 持っている人が多くても、取引、トランザクションが起きないとマイニングは必要ないので、マイナーはフィーを受け取れないですね。マイニングを自宅でやっている比較的小さい規模のマイナーにしてみたら、コンピュータ代と電気代とその割合が合わない。マイナーと取引所それぞれが受け取るフィーがありますが、その割合や設定はどこも公表してません。自分のところの手数料はいくらですとは言いたくない。マイナーさんが仮に全員いなくなってしまったら、ビットコイン送金システムはすべて崩壊してしまう。実はこれは中央政権、中央銀行のないシステムのデメリットといえますね。

マイニングをする人が居続けるようなインセンティブや仕組みがないといけない。

橋谷田 ええ。そのバランスが今回、高騰化のタイミングで壊れたんです。マイナーさんに居続けてもらう仕組みにつながるのが、セグウィットなんです。取引サイズを細かくするもので、たとえば1回の認証を10分割するといった感じなのですね。規模の大きなマイニング工場だとコスト採算があわないけど、個人が自宅でやっているようなマイナーさんにはチャンスになるかもしれない。大きなマイニング工場がたくさんできて、一度はマイニングをあきらめていた個人のマイナーさんたちが戻ってきてくれる可能性がある。

株で言ったらたとえば1000株、1万株単位でしか買えなかったものが、10株、20株でも買えるというイメージなんですね。

中国の影響は大きくない? ホワイトペーパーは必ず読むべし

(写真・森口新太郎)
(写真・森口新太郎)

中国がビットコインの売買自体を禁止するというニュースがありましたが、ビットコイン相場や仮想通貨に対する影響ってどうなんですか?

橋谷田 一度、価格は下がりましたがすぐに回復しましたね。ここから分かるのは、まずビットコインは中国だけのマーケットじゃないということ。

中国が規模ではナンバー1だと聞いた気がします。

橋谷田 昨年の時点でナンバー1はインドなんです。それに、どんなニュースがでても、仮想通貨はこういうものだ、マイニングやハードフォーク、セグウィットってこういうものだという正しい定義がしっかり伝わっていたら、投資家も慌てて売る必要はないんですよ。

ビットコインって、中央政権、中央銀行に関係なく資産を守るためにできたもので、その方針は変わってません。なのにそれが変わったかのように思われているフシがあります。たとえば中国政府が禁止すると暴落するといったように。

たしかに株式なら、大手の上場会社が何か問題を起こしたら次の日株価が暴落するということがあるかもしれません。「紙切れになった」という表現がありますね。ただ仮想通貨はそういうことに左右されないものなんです。発行した会社が止めない限りは、なくなるということはあり得ないし、政府の方針に左右されるものではないはずなんですね。そのことを分かってもらいたい。

もちろん投資していれば、価格の上下はあるから損得は出ますが、それはその人のスタートラインに対して損したか得したかであって、値下がりしても利益につなげている人もいるわけです。

(写真・森口新太郎)
(写真・森口新太郎)

ビットコインに限らず、その仮想通貨がメジャーになるか、生き残るかという条件は何でしょう。為替だとその国のGDPや金利が影響しますが。

橋谷田 そこは自分で見極めるしかないですね。今多くの企業がICO(Initial Coin Offering)をして仮想通貨を使って投資を募っていますが、必ずホワイトペーパーを出しています。このコインはこうやって作った、こういう目的で作るということが書かれている。英文ですがグーグル翻訳にかけて読めばざっくり分かります。みなさん読んでないと思うんですよね。誰かがいいと思ったって言ったんで買うではなく、自分で確認してほしいですね。これは投資なので。

ただあえて言うなら、仮想通貨が生き残るかどうかを判断するひとつの基準は、キャッシュアウト、現金化するまでの道ができているかどうか。キャッシュイン、現金を仮想通貨にするのは簡単。しかし、逆が難しい。

その方法ができていなくても、ICOできるんですね。すると投資したお金が戻ってこないことも……。

橋谷田 あります。ICOも投資なので個々の責任です。仮想通貨投資で大事なのは、コインをどこで保管するか。セキュアな自分のウォレットでちゃんと保管することです。

今世界中で仮想通貨は、どれくらい流通してるんでしょうか?

橋谷田 マーケットキャップというサイトには1600通貨程度紹介されています。載っていないコインまで入れたらもう数えられないでしょう。作ってもその後放ったらかしのままのコインもありますし。マイニングさせる、させないも選べますから。

ビットコイン以上に優れた通貨が誕生して、ビットコインがメジャーでなくなる日が来るのでしょうか。

橋谷田 ありえる話です。基軸通貨たりえるかどうかは、キャッシュインからキャッシュアウトまでできるかどうかです。今はどうしてもビットコインの値段のすごい上がり方にばかり目が行きますが、ビットコインがすごいのは出口までが全部そろっているところなんです。

仮想通貨って、町おこしへの活用の可能性が提案されているように、経済活動を促したり、貧困地域に対策を講じたり、何にでも対応できます。アフリカでお金を投じようと思ったら、まず両替しなければいけないけど、コインならその必要もないし、もちろん行かなくても、アドレスが分かっていてネットでつながっていればいい。

今後の展望 AIの活用で実現したいこととは

仮想通貨が今ほどメジャーになる前から関わられ、取引所、トレード、マイニングのほかマイニングのチップ製造を手がけているとのことですが、今後はどういう展開、方針を考えてらっしゃいますか?

橋谷田 AI(人工知能)を活用した「クリプトエンジン」というツールを公開します。ただこのツールを使って投資してもらいたいというよりは、AIを導入することで仮想通貨の可能性を広げ、あらゆる分野で仮想通貨やブロックチェーンが活用される社会をつくりたいですね。先ほど述べたように貧困対策などにも活用できるのではないでしょうか。

別に中央銀行に寄らない仮想通貨を広めるからといって、世界の体制や政治と戦おうというつもりはまったくありません(笑)。最初のサトシ・ナカモトの論文の通りではないけど、中央銀行にも政治にも関与されない、自分たちで自分の資産を守ろうという思想をもとにしつつ、AIをつかって進化させた技術を導入して、ビジネスやサービスの可能性を広げていきたい。そういう思想や未来像がちゃんと伝われば、ビットコインに対する見方も変わるんじゃないかなと思います。

AIの活用はトレードのみならずいろいろな分野で進んでいますね。

橋谷田 ブロックにせよ取引所のセキュリティにせよ、技術が進んで人間が解読できるレベルを超えはじめていますから。ただ今回、便利なツールを出したからみなさんトレードしてください、とかいうつもりはないんです。AIはあらゆるものの可能性を広げると思います。

トレードと聞くと、FXのトレーディングツールを思い浮かべがちですが、ビットコインの相場を予測するとか、そういったミクロな話ではないんですね。今日お話をうかがって、仮想通貨やブロックチェーンについて、私もあいまいだった部分がかなりクリアになりました。先日のようなカンファレンスを開かれ、こうしてメディアに出ることで、仮想通貨の啓蒙をしつつ、この分野で広くビジネスを展開されていこうということですね。

橋谷田 昔から技術者としてかかわっているこの分野への正しい理解を広めていきたいですね。

(写真・森口新太郎)
(写真・森口新太郎)