テクノロジーの進化による影響は、「死後(Life After Death)のビジネス」にも徐々に浸透しはじめている。

他界した後もデジタルクローンとして永遠の命を手に入れるサービスや、オンラインで簡単低価格で作成できる遺言状、家族や知人と共有可能な「死後の望み」など、デジタル時代ならではの新たなサービスが続々と登場している。

永遠の命をもつアバターが遺族や友人と交流を図る——Enternime

生前に必要事項を登録しておくと、自分の死後、指定人にネットでメッセージを届けてくれる「Dead Man's Switch」や[SafeBeyond 」、「人生の記録」を永遠に残すことができる「Chronicle of Life」「Digi.me」、自動的に訃報通知、料金の決済、解約、メールやSNSアカウントの削除、指定者へのアカウント、あるいはアカウント情報の転送などを行ってくれる「Capsoole」など、死後のビジネスが新たな産業として注目を浴びている。

そんな中、単に自分のデジタル記録を残すだけではなく、分身をアバターとして存続させるサービス「Enternime 」の登録者数が3.8万人を突破した。

Enternimeはマサチューセッツ工科大学の起業家養成プログラムから生まれたプロジェクトで、登録後SNSプロフィールへのアクセス許可をあたえると、アルゴリズムがFacebookやTwitterなどへの投稿や交流をひとまとめにしてプロファイルを構成してくれる(CNET2017年4月17日付記事より)。 アルゴリズムはそこから登録者の人格や性質、行動パターンなどを学び、登録者のデジタルクローンを作成してくれるというわけだ。残された遺族や友人はデジタルクローンと交流が図れる。

Enternimeの設立者、マリウス・ウーザッシェ氏 は、現在マサチューセッツ工科大学国際起業家養成プログラムのメンターを務めるかたわら、起業家向けのオンラインツール「DEツールボックス」も運営している(Linkedin2018年1月21日データ )。

ウーザッシェ氏が「永遠の命をもつアバター」と称するデジタルクローンの発想自体は、けっして新しいものではないという。肉体と知性の関連性は永遠のテーマといったところだろうか。

サービスは年内の開始を予定しており、現在は登録者の受けつけ段階だ(http://eterni.me/)。 家族や友人をおどろかせないために、あらかじめ予告しておいた方がよいだろう(BBC英国版2017年8月22日より )。

死後の望みを家族や友人と共有 メモ感覚で気軽に更新——ケーキ

「自分のお葬式は自分で演出したい」「死後もSNSのアカウントを削除しないでほしい」といった人生最後の望みをかなえてくれるのは、ロサンゼルスを拠点とするケーキ(Cake)。

財産分与などは遺言状や信託を利用するのが一般的だが、より個人的な望みを伝えるのは難しい。ケーキはデジタル・プラットフォームから簡単にプランを設計して、家族や友人と共有できる点が画期的なサービスだ。「他界後はこうして欲しい、こうなったらいいな」というアイデアをノートに書きとめる感覚で、好きな時に更新できるのも嬉しい。

デジタル・プラットフォームというと若い世代をターゲットにしている印象を受けるが、若い層ほど「死後の計画」とは縁遠いのでは—という疑問も残る。これに対し、ケーキの共同設立者、女性起業家のスリン・チェン氏は「デジタル世代にこそ利用して欲しい」と語っている(BBC英国版2017年8月22日付けより )。

死を予告するのは不可能だが、死後になにが起こるかをコントロールすることは可能である。ケーキのようなサービスを利用して年齢に関係なく死後の計画を立てておくことで、残された遺族の精神的負担を少しでも軽くするという配慮も、最後の愛情表現だろう。
https://www.joincake.com/welcome/

50ドル、15分でオンラインから遺言状作成——フェアーウィル

「遺言状の作成は高くつく、手続きや更新が大変」という遺言状の常識をくつがえすフェアーウィル(Fairwill)。わずか50ドルの格安遺言状(法人は85ドル)を、所要時間15分でオンラインから作成できる。法的に有効であるだけではなく、法律家による電話・チャットサポートも受けられる。

作成した遺言状は法律家がチェックし、あとはプリントアウトして署名するだけという手軽さだ。内容の変更もオンラインから簡単に行える。
https://farewill.com/

死後のビジネスの失敗例「チャットボットに寿命末期プランを相談」——ライフフォルダー

シリコンバレーの起業家ハジェ・ジャン・ケンプス氏とコリン・リオッタ氏が2017年に立ち上げたライフフォルダー(LifeFolder)。「チャットボットに寿命末期プランを相談できるサービス」で話題を呼んだが、サービス開始からわずか1年で閉鎖となった。

こちらも主にデジタル世代の25〜45歳をターゲットにしたサービスで、チャットボット「エミリー」が医療的な質問や必要となる関連書類について回答し、臓器提供や事前指示書を含む寿命末期プランを作成するサポートをしてくれるというもの。ウィスコンシン州の96%の住民が寿命末期プランを立てているというニュースに、ケンプス氏が感化を受けたところから始まった。

通常は病院の看護士が個別にサポートしてくれるが、対応に時間を要する。知りたいことをチャットボットがその場ですぐに回答してくれれば、死期がせまってからあわただしく準備をすることも、死後に身内を困惑させることもなくなる(デイリー・デモクラット2017年3月7日付けより )。

一見理論的なビジネスアイデアではあったものの、ライフフォルダーは大きな壁にぶち当たることとなる。1年足らずでエミリーの利用者は1500人、そのうちプランを完了させたのは30%強。ビジネスとしては成立しない数字だったという。

AARP イノベーション・チャンピオン・アワードのセミファイナリストに選ばれるなど華々しい活躍の裏側で、需要が伸び悩むというジレンマに苦しんだライフフォルダーは、「いくら世界最高のソリューションであっても、人々が問題に取り組む準備ができていないのなら意味がない」と判断し、撤退を決めた経過をニュースサイト「ミディアム」で 明かした。

ライフフォルダーの失敗例も含め、死後のビジネスは多くの人々にとって禁忌の領域である。しかしテクノロジーの進化によって、死と直面する準備がより容易に整えられる時代になりつつあるのも事実である。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)