「金融界の池上彰さんになりたいんですよ」

Good Moneygerの設立者で社長の清水俊博さんは、2008年4月にリーマン・ブラザーズ証券会社に入社し、新卒時代にリーマン・ショックを経験しました。
様々な経済指標から、リーマン・ショックのような危機は予測できたはずだった、とあとになって気付いたそうです。
「マーケットの動きを完全に予測することは難しいけれど、『比較的上がりやすい状況』『比較的下がりやすい状況』を判断することはできる。もっと多くの人に社会の仕組みを学んでほしい」とカードゲーム「Asset Allocation(アセットアロケーション)」を開発しました。
2017年、日経平均株価は25年ぶりの高値を記録し、一種の「バブル」ではないか、とも言われました。
今がバブルなら、2018年もしかして「崩壊」の可能性も……?っていうか、相場ってどうやって判断するの?
今年こそは資産運用を始めよう。でも、まずは世の中の読み解き方をぜひ知りたい。
そう思う投資初心者を代表し、東京・茅場町にあるビルを訪ねました。
カードゲーム「Asset Allocation」の遊び方

ーーまず、清水さんが開発したカードゲーム「Asset Allocation」の遊び方を教えてください!
手順はざっくりこんな感じです。
- 参加者に「商品カード」と「上昇/下落」カードを配る
- イベントカードをめくって1枚、表にしてその場に出す
- 場に出されたイベントカードに合うよう、手持ちの中から「商品カード」と「上昇/下落」カードを組み合わせて出す
- より早く、正しいカードを出した人が勝ち
実際にやってみましょう。まず、それぞれ3枚の商品カードと、3枚の「上昇」「下落」カードを配ります。

ーー(手元に「不動産」「日本株」「日本国債」の商品カードと、「上昇」「上昇」「下落」のカードが配られる)
では次に、「デフレ」というイベントが起きたとします。そうすると、持っている商品の中で、関係するものはどれでしょう?さらにそれは上がるでしょうか、下がるでしょうか?
ーー(「不動産」カードと「下落」カードを出す)これでどうでしょうか?
正解です。ただ、このゲームのもう一つのポイントは「早い者勝ち」であること。今回は僕の方が早かったですね。(清水さんは「日本株」「下落」を素早くその場に出していた)

ーー後出しはダメなんですか?
ダメです。なぜかというと、長時間考えることではないからです。ニュースを観たときに、「今、景気がいいんだな。じゃあこの商品が上がるな」っていうのを反射的に考えられるようになってほしいんですね。
ーーなるほど。今、清水さんが勝ちました。するとどうなりますか?
カードに書いてある点数が僕の得点になります。例えば、今回は僕が出した「日本株」の点数が「3」なので、僕に3点入ります。
この数字は何かと言うと、その商品の「ボラティリティ」を表しています。ボラティリティとは、価格の変動幅が大きいかどうか、ですね。「日本株」は3点ですが、「不動産」や「金」は2点、「日本国債」は1点になっています。
逆に言うと、もし僕がこれで間違えて、「デフレ」に対して「日本株」「上昇」っていうカードを出すと、マイナス3点になります。
相場も同じですよね?早い者勝ちであるということ。そして、相場が上昇しているのに、空売りしてしまうとマイナスになるということ。

ーー商品カード、イベントカードには他にどんなものがありますか?
次のようなものがあります。
商品カード:日本株・不動産・日本国債・金・穀物・ドル
イベントカード:景気回復・景気後退・インフレ・デフレ・金融緩和・金融引締・バブル経済・バブル崩壊・円安・円高・戦争・天災
「天災」が起きると、どうなる?

ーーちなみになんですが、「天災」が起きるとどうなりますか?
「天災」は、アメリカのハリケーンなどを想定しています。アメリカにハリケーンが上陸すると、「株」や「不動産」といった商品が下がって、比較的安定資産だとされている「金」などが上がる傾向があります。あとは、「穀物」も上がることがありますね。
例えば2017年に発生したハリケーン・ハービー、ハリケーン・イルマ、ハリケーン・マリア。一説には、これらのハリケーンによる被害総額は1500億米ドルとも、2000億米ドルとも言われています。アメリカのGDPはおよそ19兆米ドル1なので、被害総額はGDPの約1%って考えると結構大きいですよね。
ーーAsset Allocationで遊んでいると、これらのイベントが起きている時、株や国債、不動産などの商品が上がりやすいか、下がりやすいか、がわかるようになるんですね。
そういうことです。どちらかの手札が無くなった時点で1回のゲームは終了します。1回にかかる時間は5分程度だと思うんですけど、それでだいたいのことはわかるようになりますよ。
カードゲームを開発した理由

ーーなぜ、このようなカードゲームを開発したんですか?
僕はリーマン・ブラザーズに入社したとき、新卒でいきなりリーマン・ショックを経験しました。そのとき、結局、投資で損をするのはこういう「ルール」を知らない人なんじゃないかなと気付いたんです。
不動産なんかもそうで、株式投資などはしないけれど、、投資用の不動産を買う人がいます。不労所得が欲しいとか、なんとなくそういう動機で不動産を買うけれども、相場環境をあまりよく知らずに、何となく買っている人も多い印象です。
例えば、安心のために「金」を買っているご年配の方もいらっしゃるかもしれません。現物資産はなんとなく安心、と思っているかもしれませんが、ちゃんと世の中の流れを知って、いま、金相場はこういう風に動いているっていうことを知っている人は多くないでしょう。
もちろん、相場は「ルール」通りに動くわけではありません。でも、基本的な経済のルールを頭の中にいれておくだけでもだいぶ違うと思います。
ーーこのカードゲームはどういう人にウケるんですか?
「資産運用をしてみたいけど、やっぱり怖い」という人、もしくは「ちょっと資産運用してみたけどあまりうまく行かなかった人」ですかね。
資産運用が怖いと思っている人は、マーケットについて「知っている人が勝つ、知らない人は負けるんじゃないか」と、ちょっとギャンブルっぽく感じているのではいかと思います。「無知ゆえに下手をうって損をしたら嫌だな」といった具合です。
そんな人はぜひ、投資の基本的なルールをこのカードゲームで学んでもらえたらいいなと思います。自動車の教習所だと「こういう時は周囲を確認して慎重に進みましょう」「こういう場合は一旦停止しましょう」と教えてくれますよね。それと同じことです。
金融機関の社員教育にも活用
ーー実際、どのような場で活用されていますか?
主に2パターンあって、教育系企業とコラボするケースや、企業や学校で講演するケースがあります。
教育の場で活用される目的に関して言うと2つ狙いがあり、一つは中高生の「生きる力」、つまり「社会のことを知りましょう」という教育の一環として。もう1つは、留学をする場合です。海外の生徒とのディベートで、日本って景気悪いよね、日本って借金がすごく多いよね、って言われたときに、「なぜかわからないから英語で反論できない」という現状があるんです。そういう課題を克服するためにも、しっかり教育していきたいと思っています。
ーー企業ではどのように活用されていますか?
「確定拠出年金(かくていきょしゅつねんきん、略称:DC)」ってありますよね。企業型のDCをやっている企業では、従業員に対して金融教育を実施する「努力義務」があるのですが、金融教育のネタがない、単なる勉強会だと誰も参加したがらないといった課題があるんです。そこで、社員向けの金融教育の一環としてAsset Allocationをやらせていただいたりしています。
あとは、金融機関で教えることもありますね。
ーー金融機関ですか?
金融機関は「債券チーム」「為替チーム」「株チーム」など、分野によってチームが細分化されているので、「こういうとき債券ってどう動くの?」「こういうとき株ってどう動くの?」というのを一気通貫でわかっている人ってそんなに多くないんですよ。
プロでもそうなんだから、一般の人にわからないのも仕方がないなとは思います。でも、最低限の基本的なルールだけでも知っておいた方がいいと思います。
先ほども言いましたが、このルールは完璧ではありません。「絶対に儲かる」「絶対に損する」ということはマーケットで予測することはほぼ不可能です。ただ、「よくわからずに投資をする」ということだけは避けることができると思っています。
――なるほど。Asset Allocationの開発の背景には基本的なルールを知らずに投資で失敗する人を減らしたい、という清水さんの思いがあることがよくわかりました。「投資での失敗」について、清水さんのお考えをもう少しお聞きしてもよろしいでしょうか?
はい。僕は、投資で失敗する人には2種類あると思っています。それは……。
next>【中編】投資で失敗する2つ目のタイプ「ルールを守れない人」<外部サイトへ飛びます>
くすい ともこ
DAILY ANDS編集長。北陸の地方紙で5年間記者として勤務後、Web編集者に。「無理のない範囲でコツコツ」をモットーに資産運用を実践中。
(提供:DAILY ANDS)
【あわせてよみたい DAILY ANDS】
・読者アンケートご協力のお願い
・第1回 ゆるキャラが解説!「投資信託」基本のき
・長く投資を続けたい人にとって、積立NISAの登場がうれしい理由
・「バランス型」って実際どうなの?投資初心者におすすめの選び方を教えて!
・【中編】投資で失敗する2つ目のタイプ「ルールを守れない人」