転職は一大イベントだ。社会保険の切り替えや勤務先変更にともなう各種登録情報の変更など、やることもいろいろある。確定拠出年金に加入しているのであればやることがもう一つ増えることになる。知らずに放置してしまうとせっかくの確定拠出年金で損をすることになるかもしれない。しっかり確認しておきたい。

転職先に合わせて資産の移管を

確定拠出年金,転職
(画像=PIXTA)

確定拠出年金というのは加入者が月々の掛け金を積み立て(拠出し)、それらを運用した収益を老後の備えとする制度であり、さまざまな税制優遇措置も受けることができる。確定拠出年金には個人型(iDeCo)と企業型の2種類があり、それぞれ加入条件が設定されている。転職をした場合には、転職先がどのような企業年金制度を取っているかを把握し、それに合わせて自分の確定拠出年金の資産を移管する(移し替える)必要があるのだ。

転職後の資産移管のパターン

・個人型確定拠出年金を継続する
・個人型確定拠出年金から転職先の企業型確定拠出年金(DC)に資産を移管する
・企業型確定拠出年金から転職先の企業型確定拠出年金に資産を移管する
・確定拠出年金の掛け金の拠出を辞めて運用指図者になる

運用指図者というのは、掛け金の拠出(積み立て)はできなくなるが、それまで拠出してきた資産を使って金融商品の売買をすることができる状態の人を指す。必要十分な資産を作ることができた場合や、月々積み立てるのが厳しくなった場合などに運用指図者になることで、60歳まで確定拠出年金を維持することが可能だ。

それでは次から具体的な事例について見ていこう。

個人型確定拠出年金に加入していた場合

ケース1:転職先が確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金のどちらも導入していない

この場合、考えられる選択肢二つだ。月々の掛け金の上限は2万3000円までとなる。

・個人型確定拠出年金を継続する
 必要なもの:種別変更届または加入者登録事業所変更届、事業主証明書
・運用指図者になる
 必要なもの:資格喪失届

転職先が企業年金制度を導入していなければ個人型確定拠出年金を継続することが可能になる。ただし、何もしなくて良いわけではない。自営業から会社員になった場合は国民年金の種別が変わるため「種別変更届」が必要になる。会社員から会社員への転職でも「加入者登録事業所変更届」を運営管理機関に提出する必要がある。

どちらの場合でも転職先の「事業主証明書」を運営管理機関に提出する。個人型確定拠出年金を辞めて以降の掛け金の拠出をせずに、運用指図者になることも可能だ。この場合は「資格喪失届」を提出する。

ケース2:転職先が確定給付企業年金を導入している

企業が確定給付企業年金だけを導入しているのであれば、個人型確定拠出年金も利用することができる。よって、この場合の選択肢はケース1と同様だ。ただし、掛け金の上限は1万2000円までとなる。

ケース3:転職先が企業型確定拠出年金を導入している

この場合の選択肢は3つある。

・個人型確定拠出年金から企業型確定拠出年金に資産を移管する
 必要なもの:資格喪失届、企業への移管手続き
・個人型確定拠出年金を継続する(掛け金上限は2万円)
 ※転職先の企業型確定拠出年金規約で個人型確定拠出年金への同時加入が認められている場合のみ
必要なもの:種別変更届または加入者登録事業所変更届、事業主証明書
・運用指図者になる
 必要なもの:資格喪失届

基本的には個人型確定拠出年金(iDeCo)を企業型確定拠出年金に移管することになるが、一部の企業では規約によって企業型と個人型の併用が認められていることがある。この場合は個人型を継続することが可能だ。

ケース4:公務員になった

この場合の選択肢はケース1と同様だ。ただし、掛け金上限は1万2000円となる。

ケース5:専業主婦(夫)になった(国民年金の第3号被保険者)

この場合の選択肢は二つある。掛け金上限は2万3000円となる。

・個人型確定拠出年金を継続する
 必要なもの:種別変更届
・運用指図者になる
 必要なもの:資格喪失届

専業主婦(夫)は個人型確定拠出年金を継続可能だ。この場合は加入している運営管理機関に種別変更届を提出すれば良い。また、専業主婦(夫)は収入の減少が見込まれるため運用指図者になることも選択肢になるだろう。この場合は資格喪失届を提出する。

ケース6:自営業になった(国民年金の第1号被保険者)

この場合の選択肢はケース5と同様だ。掛け金上限は6万8000円となる。企業年金を利用できない自営業者は確定拠出年金でより多くの資産を運用することができる。

また、この掛け金上限は国民年金基金と個人型確定拠出年金の合算額となる。国民年金基金への加入も考えている場合は配分を考慮する必要があるだろう。

企業型確定拠出年金に加入していた場合

ケース1:転職先が確定給付企業年金、企業型確定拠出年金のどちらも導入していない

この場合、考えられる選択肢は二つだ。掛け金の上限は2万3000円までとなる。

・個人型確定拠出年金に資産を移管し、加入者となる
 必要なもの:個人別管理資産移管依頼書
・同じく個人型確定拠出年金に資産を移管し、運用指図者になる
 必要なもの:資格喪失届

転職先が企業年金制度を導入していない場合、個人型確定拠出年金に切り替えることが可能だ。この場合、自分で新しく選んだ運営管理機関に対し個人別管理資産移管依頼書を提出する必要がある。

ケース2:転職先が確定給付企業年金制度を導入している

この場合、ケース1と同様だ。ただし、掛け金の上限は1万2000円までとなる。

ケース3:転職先が企業型確定拠出年金を導入している

企業型確定拠出年金を導入している企業間の転職であれば何もしなくて良いというわけではない。企業ごとに運営管理機関は異なるので資産を移管する必要がある。そのため選択肢は二つだ。

・企業型確定拠出年金に資産を移管する
 必要なもの:企業への移管手続き
・個人型確定拠出年金に加入する(掛け金上限は2万円)
 ※転職先の企業型確定拠出年金規約規約で個人型確定拠出年金への同時加入が認められている場合のみ

ケース4:公務員になった

この場合、選択肢は二つある。掛け金の上限は1万2000円となる。

・個人型確定拠出年金に資産を移管し、加入者となる
必要なもの:個人別管理資産移管依頼書
・個人型確定拠出年金に資産を移管し、運用指図者となる
 必要なもの:資格喪失届

ケース5:専業主婦(夫)になった

この場合、ケース4と同様になる。ただし、掛け金の上限は2万3000円となる。

ケース6:自営業になった

この場合、ケース4と同様になる。ただし、掛け金の上限は6万8000円となる。

転職後の確定拠出年金を放っておくとどうなる?

このように、転職後は転職先によって必要となる手続きが変わってくる。しかし、これらの手続きをしないで放置した場合はどうなるのだろうか。何も手続きをしないままでいると、資格喪失後6カ月が経過したタイミングで「自動移管」が行われてしまう。

自動移管とは

放置された資産は国(国民年金基金連合会)が預かってしまうのだ。自動移管後は運用の指図もできず、確定拠出年金の加入期間にも加算されない。さらに、移管後4カ月以降は管理手数料(月額51円)まで発生する。

加入期間に加算されないというのはそれだけでデメリットだ。確定拠出年金は加入期間の長さによって受給開始年齢が決まっている。10年以上加入していれば60歳からの受け取りが可能だが、10年未満だと受取開始まで待つ必要があり、それだけ受給開始年齢が遅くなる。

しかし、注意してほしいのは自動移管になったらおしまいというわけではないということだ。自動移管された資産は、手数料は発生するが、個人型確定拠出年金や企業型確定拠出年金に資産を移管することが可能だ。ほかにも希望すれば脱退一時金として受け取ることもできる。

必要となる手数料は以下の通りとなる。

・個人型確定拠出年金へ資産移管:
 (特定管理機関へ)1080円+(国民年金基金連合会へ)2777円=合計3857円
・企業型確定拠出年金へ資産移管:(特定管理機関へ)1080円
・脱退一時金の受取:(特定管理機関へ)4104円
(特定管理機関とは、自動移換された人のの記録を管理する機関のこと。)

要するに、放置していると運用されることもなく、管理手数料や移管手数料を取られるのみであるということだ。何も良いことがないので転職後は必ず適切な手続きを取るようにしよう。

脱退一時金を受け取るには

確定拠出年金の積み立てを辞め、運用指図者にもならず、これまで積み立てた年金資産を「脱退一時金」として受け取ることも可能だ。しかしこれには条件があり、すべての人が受け取れるわけではない。脱退一時金の支給条件は非常に細かく規定されているためここでは説明は省略するが、自分に脱退一時金の受取資格があるのかを確認するにはiDeCoポータルサイトの「脱退一時金支給判定」を利用すると良いだろう。

【関連】iDeCポータル「脱退一時金の請求をする」
http://www.jis-t.kojingata-portal.com/retirement/secession/

ちなみに途中で資産を引き出す「脱退一時金」は確定拠出年金の「老後資産の形成」という目的からそれてしまうため、確定拠出年金受取時の税制優遇(退職所得控除)は受けることができない。脱退一時金を受け取った場合は一時所得としてすべて課税対象になるので注意が必要だ。

転職によってお金が必要になることはあるだろう。確定拠出年金は自分の資産をいつでもチェックすることができるため、つい引き出したくなる気持ちに駆られるのも分かる。しかし、ここで引き出してしまって老後で受け取ることができる資産を無くしてしまうのは非常にもったいないのでよく考えるべきだろう。

しかも、「今」引き出す資産と「老後」に引き出す資産では運用次第ではまったく違う金額になっている可能性が高い。老後にお金を作るのは大変だ。現状の窮地をしのぎ、老後への資産を確保しておきたいところだ。(ZUU online編集部)