個人型確定拠出年金(iDeCo・イデコ)の大きな特徴として、転職や離職した時に、それまで運用してきた資産を新しい職場へ移換できることが挙げられる。これは、いわゆる「ポータビリティー」と呼ばれるものである。しかし、ポータビリティーの取扱いは、新しい職場での企業年金制度の有無や、公的年金の被保険者の種別によって変わる。本コラムでは、元々iDeCoに加入していた人が転職・退職した場合の資産の取り扱いについて、紹介していく。

確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(企業型DC)

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(写真=Tiko Aramyan/Shutterstock.com)

2018年現在、企業の退職給付制度として主流となりつつあるのが、確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(企業型DC)である。この二つの違いを見ておこう。

まずDBは、従業員が受け取る「給付額」があらかじめ約束されている企業年金制度だ。会社が運用の責任を負い、運用結果が悪ければ企業が責任をとって不足分を穴埋めする。

この制度による従業員のメリットとしては、①資産運用を会社が行うため、従業員が資産の運用・管理に気を使わなくてもいいこと、②年金額が決まっているため、老後の資金計画が立てやすいこと、③年金形式での受取りを前提としており安定的な収入が期待できること、などがある。

デメリットとしては、①企業業績が長期間低迷した場合給付額が減額になる可能性があること(今受給している人も同様)、②年金の運用成績によっては会社の収益が圧迫され給与やボーナスに影響が出る可能性があること、③運用が会社任せのため自分の受給権を把握しにくいこと、などがある。

次に企業型DCだが、こちらは会社が拠出する「掛金」が確定している企業年金制度である。従業員が資産運用に対して責任を持ち、運用成績によって将来の年金額が変動するのが特徴である。

従業員にとって企業型DCを採用している会社に属するメリットは、①現時点の年金資産の状況をいつでも確認できること、②勤続年数が3年以上あればどのような理由であれ減額されないこと、③個別に口座が分けられており企業業績や他の社員の運用成績等に左右されないこと、などである。

デメリットとしては、①資産運用を自己責任で行う必要があること、②将来の受取り額の見通しが立てにくいこと、③原則として60歳まで受給できないこと、などが挙げられる。

転職先の企業年金制度を確認しよう

転職によりiDeCoの資産を転職先の企業年金制度に移換しようとした場合、転職先の企業がDB、企業型DCどちらの企業年金制度を採用しているかによって、加入の仕方や手続きが異なる。

企業年金制度のパターンとしては、①DBを実施している会社、②企業型DCを実施している会社、そして③どちらも実施していない会社、の3パターンに分けることができる。ポイントとなるのは、企業型DCを実施しているか否かである。

ここではまず、iDeCoの加入者が企業型DCを実施している会社に転職した場合を見てみよう。

iDeCoに加入していた人が企業型DCを実施している会社に転職して、企業型DCの加入対象者になった場合、事業主に申し出て、企業型DCにiDeCoの個人別管理資産を移換することができる。

また、iDeCoの加入資格を喪失する必要があるので、iDeCoの金融機関に対し加入者資格喪失の手続きをしておこう。

なお、企業型DCの規約によっては、iDeCoへの同時加入が認められている場合がある。この場合はiDeCoに加入し続けることも可能だが、iDeCoの掛金の上限は月2万円(DBを実施していない場合)となる。

企業型DCを実施していない会社への転職

まず、企業型DCがない企業に転職した場合は、引き続きiDeCoの加入者として掛金を拠出することができる。

公的年金被保険者の種別によって必要な手続きは若干異なるが、第1号被保険者(自営業者等)が厚生年金保険の適用事業所に転職した場合は、被保険者の種別を変更する必要があるので、事業主証明と共に被保険者種別変更の手続きを取る必要がある。

第2号被保険者(会社員・公務員)の場合は、種別変更は必要無いが、転職により事業所が変わるので、事業主証明だけでなく登録事業所変更の手続きをする必要がある。登録事業所の変更は、iDeCoの金融機関に申し出ることで行うことができる。

企業型DCがない企業の場合、DBを実施しているか否か(=DBも企業型DCもどちらも実施していない)によって、掛金の上限額が異なる。DBを実施している企業でのiDeCoの拠出限度額は月1万2,000円なのに対し、DB・企業型DCどちらも実施していない企業でのiDeCoの拠出限度額は月2万3,000円となる。

また、これらの場合、iDeCoに継続して加入せず、資格喪失届を提出することで運用指図者になることも可能である。

運用指図者とは、掛金の拠出を止めた後も、iDeCo口座に積み立てられた資産の運用だけを行う人のことである。資格喪失届を提出して運用指図者になった後でも、再び掛金を拠出したくなった場合は、所定の手続きをすれば加入者に戻ることができる。

民間企業ではなく公務員に転職した場合は、共済組合員の資格を取得することになるが、この場合は、DBを実施している会社に転職した場合と同じ取扱いになる。つまり、事業主証明と登録事業所変更の手続きをする必要があり、iDeCoの拠出限度額は月1万2,000円となる。

自営業者や専業主婦の取り扱い

iDeCoの加入者が、離職などで国民年金の第1号被保険者(自営業者等)や第3号被保険者(生業主婦(夫)など)になる場合、引き続きiDeCoの加入者として掛金を拠出することができる。この場合は、被保険者種別変更の手続きをするだけでいい。

ただし、変更後の被保険者の種別によって掛金の上限額が異なる。自営業者などの第1号被保険者は月額最大6万8,000円まで拠出できるが、専業主婦や専業主夫などの第3号被保険者は上限が2万3,000円までとされている。

また、この場合でも、資格喪失届を提出して運用指図者になることは可能である。

脱退一時金を受け取れる場合もある

iDeCoは、元々老後資産の形成を目的として設立された制度なので、原則として60歳までは中途解約をして払い戻すことはできない。しかし、次に紹介する5つの要件をすべて満たす場合は、脱退一時金を受け取ることができる。

最初の要件は、国民年金保険料の納付を免除されていることである。保険料免除制度とは、所得が少なく、本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定以下の場合や失業した場合など、国民年金保険料を納めることが経済的に厳しい場合に、本人の申請により保険料の納付が免除される制度である。免除される額は、全額、4分の3、半額、4分の1の4種類がある。

二つ目の要件は、確定拠出年金の障害給付金の受給権者ではないことである。加入者または加入者であった方が、傷病等によって高度障害の要件に該当することとなった場合、障害給付の受給権者となる。

三つ目の要件は、通算拠出期間が3年以下、または個人別管理資産が25万円以下であることである。通算拠出期間には、掛金を拠出しなかった期間は含まれない。しかし、企業型DCや企業年金制度からiDeCoに年金資産を移換している場合、それらの加入期間が含まれる。

四つ目は、最後にiDeCoの資格を喪失した日から2年以内であることである。

最後の要件は、企業型DCの加入者資格喪失時に脱退一時金を受給していないことである。

このように、脱退一時金を受け取るための要件は非常に厳しく、転職で新しい会社に移った場合は、iDeCoを継続するか、あるいは転職先の企業年金制度に移換するケースがほとんどである。

なお、脱退一時金の受給要件は、資格喪失日が2016年12月31日以前の人に対しては、経過措置が設けられている。

これは、もともとiDeCoが自営業者や企業年金のない会社に勤めている方を対象に設けられた制度だったが、2017年1月からは原則60歳未満のすべての公的年金被保険者が加入できるようになったため、2016年12月31日以前とその後では、iDeCoに加入できる人とそうでない人が生じたためである。

2016年12月31日以前に資格を喪失した人の経過措置と、前述の脱退一時金の支給要件との違いは、主に二つある。

一つ目は、「国民年金保険料の納付を免除されていること」という条件が含まれていないことである。これにより、経済的に国民年金保険料の納付が難しい人でなくても、脱退一時金の申請が可能になっている。

二つ目は、個人別管理資産の額が「50万円以下」となっていることである。

この経過措置の期限は、最後に資格を喪失した日から2年以内、つまり2018年12月31日までなので、これらの条件に合致し、かつ現在資金が必要な方は、脱退一時金の受給を検討してみてもいいだろう。

移換時の注意点

iDeCoの加入者が企業型DCを実施している会社に転職する場合、転職先の企業型DCに資産移換の手続きを行う必要があるが、その際に注意しておくべきことが二つある。

まず、iDeCoの資産移換に当たっては、いったんすべて現金化して移換されるということである。つまり、今まで値動きのある商品で運用してきた場合、利益が出ていても損失が出ていても、いったんその損益を確定しなければならないのである。

次に、移換手続き中は運用指図ができないことも意識しておこう。すべての資産が現金化されるので、移換が終了したら、自分で運用商品を新たに選ぶ必要がある。これまでiDeCoで購入してきた運用商品と同じか類似のものでもいいし、他のものを検討してもいい。

まとめ

2017年から原則としてすべての公的年金被保険者がiDeCoに加入できることになったことから、転職や離職で加入資格がなくなる人は大幅に減った。iDeCo加入者が転職・離職した場合、大きく分けると、①そのままiDeCoを継続する、②転職先の企業型DCに資産を移換する、③資格喪失届を出して運用指図者になる、④脱退一時金を受け取る、の4パターンから、状況に応じて自身で選択することになる。現状の経済状況も大切だが、iDeCoは老後の資産を形成していくものなので、自分の将来が最善の結果になるよう、うまく制度を利用していただきたい。(提供:確定拠出年金スタートクラブ

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