安倍政権の経済政策「アベノミクス」は株式市場に様々な恩恵をもたらしてきた。最近では「働き方改革」をテーマに関連銘柄が活況を呈する場面も度々見られる。だが、その一方で「働き方改革」のために急落した銘柄も存在する。日本郵政 <6178> はその一つで、時価総額ベースで約6000億円が吹き飛ぶ結果となった。「働き方改革」は本当に私たちの生活を良くすることにつながるのだろうか……。今回は日本郵政株にネガティブ・インパクトをもたらした「働き方改革」のダークサイドを見てみよう。

株価は約11%下落、時価総額6000億円が吹き飛ぶ

日本郵政,株価
(画像=PIXTA)

日本郵政は同グループの持株会社で傘下に日本郵便(未上場)、ゆうちょ銀行 <7182> 、かんぽ生命保険 <7181> がある。ちなみに、2018年3月期の経常利益の88%はゆうちょ銀行とかんぽ生命によって占められている。

そんな日本郵政の株価が急落したのは5月半ばのこと。直接的な引き金となったのは同15日の決算発表だった。同社の2018年3月期の経常利益は15%増の9161億円と事前予想(8900億円)を上回ったものの、2019年3月期については「28%減益の6600億円」と大幅減益予想となり、これが株式市場で売り材料となった。日本郵政といえば4%を超える「高配当銘柄」であったが、その配当も57円から50円に減配する見通しが示されたことも投資家の失望を招いたようだ。

翌16日の日本郵政株は売り気配で始まり、3.8%安の1283円で取引を終了。その後も下げ止まらず、6月22日には1200円と年初来安値を更新している。決算発表前の5月7日には年初来高値(1344円)を付けていた日本郵政株であるが、発表後は一転して1200円まで急落。下落率は約11%に達し、時価総額で約6000億円が吹き飛んだ。

日本郵便が「働き方改革」で大幅減益へ

ちなみに、今期の経常利益予想(28%減益、6600億円)をセグメント別で見ると日本郵便が33%減の570億円、ゆうちょ銀行が26%減の3700億円、かんぽ生命が29%減の2200億円となる見通しで、日本郵便の減益率が一番大きい。

日本郵便は前期中に郵便料金を一部値上げしているものの、それでも大幅減益となる見通しである。同社はその背景について、郵便物数の減少のほか、労働需給のひっ迫等に伴う人件費単価の上昇及び「社員の処遇改善のための費用計上」が影響するとの見解を示している。

日本郵政ショックを招いた「働き方改革」

今期の減益予想には「伏線」があった。4月13日、日本郵政が「正社員の待遇を引き下げる」と大手新聞が報じたのだ。原則として転居を伴う転勤のない条件の正社員(約2万人)のうち、住居手当を受けている約5000人の手当について今年10月に廃止するというものだ。

安倍内閣の掲げる「働き方改革」は、正社員や非正社員に関係なく同一労働同一賃金を盛り込んでいる。日本郵政グループ労働組合(JP労組)は正社員だけに認められている住居手当、扶養手当など5つの手当を非正社員にも支給することを求めていたのであるが、会社側は「年始勤務手当」を非正社員に認める一方で正社員の「住居手当」の廃止を決断したのである。

JP労組は約24万人の組合員を抱える日本最大級の労働組合で、その約半数が非正社員とされている。実に約12万人の非正社員の待遇改善となれば労務コストが重くのしかかることは想像するまでもないだろう。その負担を少しでも軽減する措置が「正社員の待遇引き下げ」だったのかもしれない。

文字通り「働き方改革」のダークサイドと呼ぶべき今回の出来事であるが、懸念されるのは今後同じことが他の企業で繰り返される恐れがあることだ。そもそも安倍政権は「1億総活躍プラン」として「働き方改革」こそが労働生産性を高める最良の手段と位置付けていた。生産性向上の成果を働く人に分配することで賃金の上昇、需要の拡大が見込めると考えていた。ところが、現実はどうだろうか?

筆者の周りでも「働き方改革」で残業が大幅に減り、手取りが実質減少した人が何人もいる。彼らからは「(収入減で)消費を増やすどころでない」との声も多く聞かれる。「働き方改革」は本当に私たちの生活を良くすることにつながるのだろうか……今回の「日本郵政ショック」を見るにつけ、そんな疑問が湧いてくる。

「第3次政府株売り出し」を控えるが…

ところで、日本郵政は2015年11月のIPO(株式公開)後、2017年9月に「第2次売り出し」を行った。政府は民営化で保有する日本郵政株の3分の2を早期売却することが義務付けられており、2018年度予算にも東日本大震災の復興財源として「日本郵政の第3次売却」を盛り込んでいる。

ちなみに、日本郵政株の第1次売り出し価格は1400円、第2次が1322円である。このままでは第3次は厳しい内容になると考えざるを得ない。冒頭でも述べた通り、「働き方改革」は株式市場で有望なテーマの一つと見られがちであるが、一方でネガティブ・インパクトをもたらす「ダークサイド」に留意する必要がある。

平田和生(ひらたかずお)
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。