6月30日、西日本旅客鉄道(JR西日本) <9021> とサンリオ <8136> がコラボした「ハローキティ新幹線」がデビューした。白いボディをピンクのリボンで包み込むようなデザインには、地域を「つなぐ」「結ぶ」という思いが込められている。「Hello Kitty Shinkansen」のロゴもクールだ。すでに海外でもネット上で話題となっているようであるが、日本の「KAWAII」文化を世界に発信し、ブレイクする可能性を秘めているのではなかろうか。筆者は株式市場に長年携わる中で、JR各社の成長を見守ってきたが、「ハローキティ新幹線」は変革に取り組むJRグループの象徴の一つと受け止めている。

今回は世界的に株価が不安定となる中、ディフェンシブ銘柄としても注目されるJR西日本を見てみよう。

日本の新幹線と「KAWAII」が融合した!

JR西日本,株価
※画像はイメージです。(画像=JR西日本 ニュースリリースより)

ハローキティ新幹線は、こだま730号(博多発6:40〜新大阪着11:13)とこだま741号(新大阪発11:29〜博多着15:38)の1日1往復で運行している。初日のイベントには鉄道ファンとハローキティファンが大勢集まり、CBSニュースなど海外メディアも取材に訪れていた。ハローキティは国内はもちろん、海外からの注目度も高いようだ。

先頭車両である1号車と8号車に設けられた「HELLO!PLAZA」は、オリジナルグッズのショップや西日本の地域毎の魅力とふれあえる展示スペースとなっている。7月から9月は「山陰デスティネーションキャンペーン」と題して「鳥取ハローキティ」「島根ハローキティ」が展示される。鳥取キティは梨、島根キティは宍道湖のしじみを抱えている。

2号車は「KAWAII!ROOM」として、シートもフロアも窓のシェイドもすべてキティ仕様だ(画像参照)。また、キティと写真が撮れる「インスタ映え」するフォトスポットも完備。普通のこだま料金で乗車でき、「KAWAII!ROOM」の2号車は自由席だという。

新幹線の流れるようなデザインは海外でも人気が高い。動画共有サービスのユーチューブでは日本を訪れた外国人観光客の撮影とみられる新幹線の動画が多数投稿されている。そんな新幹線と日本の「KAWAII」文化の象徴の一つともいえるハローキティがコラボしたのである。話題にならないほうがおかしいというものだ。

ラッピング車両の「進化の歴史」

ところで、いまでこそラッピング車両は珍しくなくなったが、その歴史は意外と浅い。東京都交通局が石原慎太郎東京都知事(当時)のアイディアで全面広告を貼り付けた「ラッピングバス」を始めたのは2000年のことだ。2002年には東京都屋外広告条例の緩和で鉄道車両へのラッピング広告が可能となり、2009年にはJR東日本が東北、秋田、山形、上越、長野新幹線の200系、E2系、E3系、E4系などにポケモン新幹線のADトレインを導入した。とはいえ、その外観はポケモンのシールを貼った程度のものだった。

JR西日本の山陽新幹線向けの企業とのコラボは、2014年のタカラトミー <7867> とパナソニック <6752> が第1弾だ。新幹線の車内にジオラマを作り、プラレールを長持ち乾電池「エボルタ」で走らせた。子供用の疑似運転台も設置したほか、オリジナルプラレールも発売し話題となった。ただ、外観は通常のE500のままだった。車両の外観に加工を始めたのが第2弾となるエヴァンゲリオン新幹線だった。人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』とのコラボでエヴァンゲリオン初号機風のカラーリングを施し、国内外のファンで人気を集めた。

ちなみに、車両広告は「屋外広告」であり、自治体によって細かく規制されている。多くの県を走り抜ける新幹線は、多くの県の規制をクリアする必要がある。このため、エヴァンゲリオン新幹線の外観はカラーリングとデザインでその世界観を表現したものの、エヴァンゲリオンの文字を入れなかった。第3弾となる「ハローキティ新幹線」では、各自治体の規制をクリアしてハローキティのイラストとロゴを入れているのだが、こうしてラッピング車両の歴史を振り返ってみると「規制」を少しずつクリアしながら「進化」の道を歩んできたのが良く分かる。

「ハローキティ新幹線」イベントも相次ぐ

ところで、今回のコラボでは「ハローキティ新幹線」の運行にとどまらず、数多くのイベントも同時進行している。博多駅ではオリジナル商品を揃えた小売店の「ハローキティ新幹線MARCHE」、レストラン・カフェの「ハローキティ新幹線カフェ」がオープンした。また、JR西日本の通販サイトではハローキティ新幹線のオリジナルグッズの販売も開始している。タカラトミー系のトミーテックでは、ハローキティ新幹線をNゲージ鉄道模型として売り出すほか、中国JRバスでは「ハローキティ新幹線」に合わせたラッピングバスを運行している。

なお、こうしたコラボの収支はディスクローズされていない。広告収入増はセグメント別では「その他部門」での収益増になるのだろうが、JR西日本の2018年3月期の連結ベースのセグメント別売上(営業収益)を見ると運輸業が構成比63%の9508億円、流通業が16%の2398億円、不動産業が9%の1396億円、その他が11%の1700億円となっている。その他の中心はホテルと旅行であり、広告事業はそれほどの比率ではないと見られる。それよりも「ハローキティ新幹線」への集客増が本業の運輸業や物販飲食の収益を押し上げることへの期待が高そうだ。

売上、利益ともに過去最高を記録

JRグループはもともと国営の鉄道で「国鉄(日本国有鉄道)」と呼ばれていた。1987年に東日本旅客鉄道(JR東日本) <9020> 、JR西日本、東海旅客鉄道(JR東海) <9022> など6つの地域の旅客鉄道会社と1つの貨物鉄道会社に分割・民営化された。民営化からすでに31年が経過したが、21世紀の現在は国鉄を知らない社会人のほうが多いのではないだろうか。

この30年間でJR東日本の運輸業の比率は64%、同じくJR西日本は63%、JR東海は73%まで低下している(2018年3月期の業績)。JR東海は東海道新幹線というドル箱を抱えているため、多角化率はJR東日本やJR西日本に比べ進んでいない。ただ、もともと運輸業が苦しい九州旅客鉄道(JR九州) <9142> は多角化に活路を求め、その結果運輸業比率は36%まで低下する一方で、流通業や不動産業を収益の柱に育てている。

7月3日、JR東日本は中期経営ビジョン「変革2027」を発表した。これまでの30年間は鉄道の進化を通じたサービスのレベルアップ、鉄道の再生・復権をテーマに経営してきたが、今後の10年は重層的でリアルなネットワークと交流の拠点となる駅等を活かしたサービスを創造、経営環境の変化を先取りした新たな価値を社会に提供するとしている。これからの時代、日本の人口が減少し、鉄道による移動ニーズの低下を見据えながら、運輸業以外の事業に本格的に取り組む構えだ。具体的には生活サービス、IT・SUICAサービスの事業領域に経営資源を集中するという。

JR西日本も「中期経営計画2022」で鉄道など既存事業の磨き上げと安全性の確保を重視しながらも、事業価値の向上、新たな市場への進出や事業領域への展開、新たな技術の活用等による価値創造を打ち出している。運輸というインフラに加えて、駅前と駅ナカという集客スペースをフルに活用し、収益の多角化を目指す。今回の「ハローキティ新幹線」もそうした収益の多角化を象徴する施策の一つなのだろう。

ちなみに、JR西日本は1996年に上場、公募価格は3570円だった。2018年3月期には多角化部門などの進展で売上、利益ともに過去最高を記録。株価は6月末で8164円だ。世界的に株価が不安定となる中、JR西日本はディフェンシブや配当重視の銘柄と思われがちであるが、この30年で株価は倍以上になっている。JR西日本をはじめとするJR各社の今後の取り組みに注目したい。

平田和生(ひらたかずお)
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。