かつて携帯電話といえばNTTドコモ(以下、ドコモ) <9437> だった。ドコモのIR資料によると携帯電話の国内契約数シェアは2000年度で59.2%に達し、株価は9140円の高値(分割調整値)を付けていた。当時のドコモといえば1999年にiモードを開発、「携帯電話とインターネットの融合」という技術革新で世界をリードしていた時代だ。

転機が訪れたのは2007年、米アップルのiPhoneが誕生した年である。iPhoneは小型PC端末的な方向性でPIM(パーソナル・インフォメーション・マネージャー)化を進め、あっという間にデファクトスタンダードとしての地位を確立した。「アップル信者」の筆者もドコモの携帯からiPhoneに乗り換えたのは言うまでもない。こうして携帯電話の歴史を振り返るとiPhoneが生まれる以前の時代を「紀元前」、iPhoneが誕生した2007年以降を「紀元後」と表現しても言い過ぎではない、それほどの激変だったように思う。

注目されるのはドコモの株価が7月18日、2909円と年初来高値を更新、2003年9月以来15年ぶりの3000円台(分割調整値)を視野に入れてきたことだ。2003年といえば「紀元前」の高値である。いよいよ携帯電話事業の「レジェンド」が覚醒するのか? 一方、携帯電話事業に新規参入する楽天 <4755> は6月22日に700円と年初来安値を更新、こちらは2013年以来5年ぶりの安値を付けている。今回は株式市場で明暗を分けるドコモと楽天を見てみよう。

営業利益、15年ぶりの「1兆円」に迫る?

NTTドコモ,株価
(画像=TK Kurikawa / Shutterstock.com)

iPhone誕生の「紀元後」ともいえる携帯電話市場で、ドコモは苦しい戦いを強いられた。ドコモの株価は2012年に上場来安値の1119円を記録、過去最高値から88%下落したほか、国内契約数シェアも2015年3月期には43.6%とピークから15.6ポイントの縮小を余儀なくされていた。もっとも、その後の国内契約数シェアは回復傾向にあり、2017年3月期は46%に拡大している。

利益の回復も顕著だ。営業利益は2004年3月期に1兆1029億円と最高益を記録、2015年3月期には6390億円まで減少したが、その後は3期連続の増収益と回復傾向を強め、2019年3月期の予想営業利益は1.7%増の9900億円と「4期連続の増収益」が見込まれている。さらにクイックコンセンサスの今期営業利益は9985億円と会社予想を上回っており、場合によっては15年ぶりの1兆円に迫るかもしれない。冒頭で述べた通り、株価も15年ぶりの3000円大台乗せを視野に入れているのが現在の状況だ。

楽天は携帯参入で株価が低迷?

一方の楽天はどうか。2017年12月14日、同社は携帯電話事業への参入を発表した。今年4月には総務省が携帯電話用周波数の新規割当先として楽天を認可し、1.7GHzの免許が付与されることが決定している。ドコモ、au、ソフトバンクに次ぐ「第4の携帯電話会社」として楽天モバイルは2019年10月にサービスを始める予定だ。

ただし、総務省は楽天を認可した4月の会見で、同社に異例の4つの条件を付け加えている。その4つの条件とは下記の通りだ。

(1)当初はローミングでスタートしてもいずれは独自で展開すること
(2)基地局の設置についても独自で構築に努めること
(3)技術要員を確保して信頼性の担保に努めること
(4)資金の確保や財務の健全性に気をつけること

楽天は携帯参入に約6000億円の設備投資を計画しているが、これはある程度ローミングや基地局などの面で「ドコモとの回線共有」を前提としたコストと見られる。楽天は2014年にMVNO(仮想移動体通信事業者)として格安スマホ事業に参入、ドコモから回線をローミングしており、友好関係を築いていたからだ。ところが、上記の4つの条件が明らかになると株式市場では「6000億円では足りないのでは?」との疑問が広がった。それでなくとも今回は「4Gの認定」であり、今後「5G」を控えて設備投資はさらに膨らむ可能性がある。

総務省の上記発表を受けて日本格付研究所(JCR)は、資金繰りに対する懸念から楽天の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたほか、JPモルガン証券も投資判断を「オーバーウェイト(買い)」から「ニュートラル(中立)」に格下げしている。ちなみに、楽天が携帯電話事業への参入を発表した直後の2017年12月15日の株価は1025円であったが、今年6月には700円の安値を記録、約半年ほどで32%も下落している。

ドコモは「dポイント」の発行額で日本最大級を目指す

ところで、ドコモは2017年4月に発表した中期戦略2020「beyond宣言」において、通信は(1)競争激化でシェアが低下、(2)同時にコモディティ化が進むために収益化は難しい……としたうえで、事業構造の革新に取り組み、成長投資で事業基盤を強化しつつ、5Gで様々な付加価値を融合・進化させることで成長を目指す意志を示している。

具体的に中期戦略の中核となるのが「dポイント」である。「dポイント」は、もともと「ドコモポイント」として主に携帯利用者に利用実績に応じて付与されていたものである。2015年にこのドコモポイントを「dポイント」へ改称し、ドコモ以外の加盟店でも使える共通ポイントサービスへと衣替えした。ドコモは2020年度までにdポイントパートナーを300社以上に拡大し、ポイント発行額で日本最大級を目指す。すでにdポイントパートナーの主力にはローソン <2651> 、日本マクドナルドホールディングス <2702> 、高島屋 <8233> 、マツモトキヨシホールディングス <3088> などが名を連ねている。新たな決済方法としても「d払い」としてバーコードを見せるだけで簡単に支払いが出来るアプリを投入しており、早期に10万店での導入を目指している。ドコモの戦略通りに「dポイント」が普及するようであれば、同社の携帯契約にも追い風となる可能性もありそうだ。

ただ、気になるのはこの分野で楽天が推進している「楽天ポイント」や「楽天ペイ」と競合する点である。一部メディアはドコモと総務省が「楽天潰し」に動いていると報じているが、それが事実かはさておき少なくとも株式市場の「評価」で両社は大きく明暗を分けているのが現状といえる。果たして携帯電話事業の「レジェンド」はかつての栄光をとり戻すことができるのか? 新規参入する楽天に勝機はあるのか? 一つだけ確実に言えるのは、携帯電話事業とポイントサービスの主導権争いはまだ始まったばかりということだ。

平田和生(ひらたかずお)
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。