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2017年11月11日、V・ファーレン長崎はJ1昇格を決める。歓喜に沸くサポーター席に向けて、背広の下の“昇格Tシャツ”を見せる髙田社長(写真提供:V・ファーレン長崎)

※本稿は2018年07月06日、ライフネットジャーナル オンラインに掲載されたものです

J1「V・ファーレン長崎」の社長に

──髙田社長といえば、日本中のお茶の間に、これほど声と言葉が浸透している社長さんは他にいらっしゃらないと思います。テレビ通販の先駆けとなった、ジャパネットたかたのラジオショッピングがNBC長崎放送で始まったのが、28年前の1990年……。

髙田:そして、テレビショッピングを始めたのが1994年です。出張だったり、旅行だったり、全国をお散歩する番組だったりで、たくさんの方との出会いがあるんですが、みなさんから「このカメラを買ったよ」「テレビもジャパネットで買ったよ」とよく声を掛けていただくんです。 それだけ、全国津々浦々まで多くのみなさまにジャパネットの商品を買って頂いていることは、うれしいですね。

──2015年、会社をご長男の旭人(あきと)さんに譲られて、顧問にも会長職にも就かずに、翌2016年にはテレビショッピング番組からも完全に引退されました。「テレビで髙田社長を見なくなって淋しいなあ」と思われている方も多かったと思いますが、JリーグのV・ファーレン長崎の社長をされていたとは思いもよりませんでした。

髙田:2017年4月25日に、当時J2だったV・ファーレン長崎をジャパネットたかたの子会社化して、代表取締役に就任したんです。以前から、ジャパネットがメインスポンサーをしていましたが、クラブの経営状態が悪化して、「このままでは倒産してしまうかもしれないので、何とかしたい」と現社長で息子の旭人から相談を受けました。それでジャパネットの社長を退任していた私が、畑違いですが、サッカーチームの社長を引き受けた次第なんです。

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J1昇格を喜ぶ選手と監督、チームスタッフと髙田社長(前列中央)。シーズン後半、V・ファーレン長崎は13試合負けなしを記録。「長崎の奇跡」と評された(写真提供:V・ファーレン長崎)

──通販番組を引退されて、V・ファーレン長崎の社長に就任されるまでの間は、何をしていらっしゃったんですか。

髙田:ジャパネットは完全引退しましたが、何かそのうち新たなやりたいことが出てくるだろうと思って、3、4人の会社を作りました。「A and Live(エー・アンド・ライブ)」です。名前は、生き生きとした世の中にしたいという想いから付けたのですが、私的には辞めても「明はまだ生きてるぞ」という気持ちを込めたんです。そうしているうちに、講演のご依頼をいただくようになりました。

軽い気持ちでお引き受けしていたら、それが忙しくなり、年間100か所以上も全国を周るようになったんです。私が講演活動なんて身の丈にも合っていないんでけど、あっという間にその合計回数は300回にもなってしまったんです。

──300回も!すごいですね。JリーグはJ2からJ1に上がるのが非常に難しいと言われますが、髙田社長が就任されたのが4月、半年後の11月には、みごとJ1に昇格しました。存続が危ぶまれるような状態にあったチームの経営を立て直し、J1に押し上げた社長の手腕が高く評価されています。

髙田:J1に昇格を決めたとき、私は「長崎の奇跡」と呼んだんです。昨年の8月以降は13試合負けなしで自動昇格を決めることができたんですからね。でも、私が成し遂げたのではありませんよ。V・ファーレン長崎に関わるスタッフだけでなく、多くの方の熱い想いが「長崎の奇跡」を起こしたんです。

ただ、社長になって一つだけ伝えたことは、「経営は私が何とかしますから、選手のみなさんは安心して、試合に集中して下さい」ということでした。 いろんな不安から解放されて、「試合に全力で集中する」。要は人間は心の持ち方を変えれば、情況も変わるし、結果もついてくるんだと思います。

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2018年3月3日、J1になって初めて迎えたホームでの試合は、サガン鳥栖との“バトルオブ九州”。あいにくの冷たい雨だったが、JRからの徒歩移動をアピールするため、朝から電車で移動し、JR諫早駅からスタジアムまで徒歩30分の距離を、お客さんたちと一緒に歩いた。(写真提供:V・ファーレン長崎)

──その心とは?

髙田:「僕も、私もきっと出来るはず」と信じる心です。

仕事の優先順位はどうつけるか?

──このライフネットジャーナルは、20代・30代の若い方が読者層の中心です。職場では現場の主力として働いている人が多いのですが、若い方たちに向けて、ビジネスマンの大先輩としてのアドバイスもうかがっていきたいと思います。V・ファーレン長崎を引き受けられたとき、問題が山積みだったと思いますが、どこから手をつけるか、優先順位はどう付けられたのでしょうか。

髙田:何事もそうなんですが、問題には、必ず原因があるはずです。時には20、30の問題を抱えていることもあるでしょう。解決するためには、まず問題点に優先順位を付けて書き出してみます。そして、もっとも大きな問題点を頭から2つ、3つ選び出し、その2、3に集中して解決策を見出すためにみんなで議論すると良いですね。その大きな問題が解決されれば、意外と他の問題は大した問題でなくなるんです。

V・ファーレン長崎の場合、一番最初に思い浮かんだのは、駐車場問題でした。本拠地の(長崎県)諫早(いさはや)市のトランス・コスモススタジアムは最寄りのJR諫早駅からは徒歩30分、周りに駐車場が少なくて……。J1になれば、いらっしゃるお客さまの数がまったく違ってきますので、まずそれを手当てすること。

2番目はチケットの収益構造の悪さ。スタジアムの席と価格の設定がいい加減だったのでそれを変えました。ここまで大きな問題をつぶしたら、後はほとんど大した問題じゃないんです。

──根本的なことから手をつけるということですね。

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2018年4月25日、対ジュビロ磐田戦ヤマハスタジアムでの「出張グルメ」のブースにて。長崎ちゃんぽん、角煮バーガー、角煮まんじゅうを皆さんにPR(写真提供:V・ファーレン長崎)

髙田:そうです。引き継いだV・ファーレン長崎の赤字体質からの脱却には、限りなく問題が山積する中で、何が優先すべき問題かを見出すことが重要でした。 収入と支出のバランスがめちゃくちゃでしたので、まずはどうすれば収入を増やせるかを考え、優先順位は第一にスポンサー収入を増やす努力、第二に入場者数を増やすことだと思いました。新規のスポンサー様を集める、既存のスポンサー様へさらなる応援をお願いする。結果として大変なご協力をいただくことができました。

次に、強いチームにするためには、新しい選手を獲得するよりも、所属している選手の取り組む覚悟と情熱を引き出すことでした。経営は我々が責任を、試合は監督・コーチと選手たちが責任を、と語り伝えることで一気にそれぞれの目標に必死で向かうことに集中し、結果として自動昇格でJ1の座を勝ち取ったと思います。 優先順位はすごく大事ですね。「どこから手をつけるか」という選択肢は限りなくありますからね。でも、そこをやっているうちに次の課題が見えてくる。中途半端にやっていても、次のものは見えてきません。

一番怖いのは「つもり」です。何年たっても成果が出ないのは、「やっているつもり」になることです。私は、「今を生きる」という言葉が大好きです。しかも「今を一生懸命に生きる」。そうしていくうちに見えるものが多くなり、だんだんできるようになっていきます。

本気でやるから、次の一手が見えてくる

──一日一日、精一杯やっていなければ、次の一手の手がかりが出て来ない。

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社長に就任して2か月足らずの頃(2017年6月11日、J2ロアッソ熊本戦)。髙田社長の迅速な改革により、この5か月後、倒産しかけていたチームは見事、J1に昇格することになる(写真提供:V・ファーレン長崎)

髙田:そうです。2001年に佐世保市に自社スタジオ「ジャパネットスタジオ242」を作る前に、6年ぐらい佐世保から福岡のスタジオに収録のため通い続けました。朝6時すぎに佐世保を出て、何本分も収録して、夜の10時すぎに帰ってくる。最初は月に1度だったのが、テレビショッピングの業績が伸びるにしたがって、最後には週に1度になり、「もうこのやり方では無理だ」と思い始めました。

体はきつくなかったんですよ、そのときはまだ若かったから。でもやっているうちに、「これは佐世保にスタジオを作らんといかんな」とひらめいた。ひらめいたら、もうできる、できないは、全く無視です。ただ、「やろう」と思いました。周りはみな「大変だよ」「無理だよ」と言いましたけど、全然、意に介さなかったです(笑)。難しさについて考えたのは0パーセント。そうしたらスタジオができたんです。

どんな仕事でも同じだと思いますが、やっていれば、要所要所で「これだ!」と思うことがあります。ネットショッピングであれば、それが売れたら、また次は何をやろうかと考える。でも、本気で考えていなかったら、ひらめかないんです。日々一生懸命やっている中にヒントが自分の内から出てきて、目の前の課題を乗り越えようとエネルギーが湧いてくるんですよね。

自分を正しく自己評価するために

──今の若い世代の労働環境は一昔前からすると大きく変化しました。長時間労働など「働き方改革」が大きな課題です。反面、生産性の向上など求められるのも大きくなっています。そんな中で新入社員が2、3年ですぐに会社を辞めてしまうとか、転職を繰り返す方も多くなっていますね。

髙田:私が現役の時も、新卒以外の色々な経歴の方を採用していました。いまは転職する方が結構多いですよね。「この仕事には私に向いていない」と考えて、自己の更なる成長と志のために転職される方々は、それはそれで素晴らしいことだと思います。 問うてみたいのは、「どれくらい瞬間、瞬間をどこまで本気でやってみましたか」ということ……やってみての結論だったら、それはもうわかるんです。10年でも3年でも1年でも半年でもいいんです。要は、どれだけ本気でやってみた上での結論なのかどうか。

ほとんどの会社のサラリーマン生活で、偉くなっている人は本気でやってきた人だと思います。本気でやってきた人が実績につながり、周りも評価して、評価されることによって課長になり、部長になり、役員になり、社長になるということだと思います。本気で向き合ってこそ、自己の長所も短所も分かるようになり、自己改革ができる。「正しい自己評価」はキーワードですね。

世間一般に転職する節目は大体3年ぐらいと言われますが、いまは3年のうちに、新入社員の半分以上が辞めるんでしょう?

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髙田明さん(写真提供:V・ファーレン長崎)

──そうですね。1年以内というケースも増えていると聞きます。

髙田:それが習慣化してしまったら、一生、そういう習慣が出来てしまうように思います。自己評価を間違うと、自分では「できている」と思っているんです。 でも、評価は人がするものです。逆もしかりで、できているのに自信がない、自信がないから過小評価する……これもだめです。自分が信念をもってやっていることに対しては、しっかりとした自信をもつべきですし、足りないところは、真似してでも謙虚に教わることが大事です。

能の世界の世阿弥(ぜあみ 1363~1443)の『風姿花伝(ふうしかでん)』の教えの中にもありますが、“まことの花”と“時分の花”の違いも、そういうことかと思います。

──社長は能の基本を説いた『風姿花伝』の大ファンでおられて、『髙田明と読む世阿弥 昨日の自分を超えていく』という本を、今年の3月に出版されていますね。

髙田:ええ、世阿弥はここ数年、私のメンターになっています。能の世界を説きながら、世阿弥の教えには、経営や営業の基本でもある人の心を捉える術の根源が書かれているからです。

「時分の花をまことの花と知る心が、真実の花になほ遠ざかる心なり。ただ、人ごとに、この時分の花に迷(まよひ)て、やがて花の失(う)するも知らず」──一時的な花をまことの花であるように思い込むと、真実の花になる道からなおさら遠ざかる。にもかかわらず、人はこの一時的な花を本物と思い間違いをしてしまって、やがて花が散ってしまうことに思い及ばない。

自己評価が正しくできるためには、本気でやってない人は絶対に正しい自己評価はできないです。本気でやっていると、絶えず自分の真実の姿を見出そうとするので、正しく自己評価ができるようになってくる。そうすれば、何を変えたらいいかがわかってくるから、自己を更新することができます。

いまは時代が変わっていますので、「石の上にも三年」とか「和を以(もっ)て貴しと成す」と言っていた昔と、必ずしも同じでなくていいと思いますが、自分の仕事を「本気でやってみたかということ」と、「正しく自己評価するということ」の重要性は、今も昔もずっと変わらないと思いますよ。

(つづく)

<プロフィール>
髙田明(たかた・あきら)
1948年長崎県生まれ。機械メーカーで海外駐在を経て、平戸で実家が営むカメラ店に入社。1986年、佐世保に自社を設立。社長自らラジオやTVで商品を明るくPRするスタイルで、日本一有名な通販会社に。2015年、社長を退任し、2017年、サッカークラブ「V・ファーレン長崎」社長に就任した。
●V・ファーレン長崎公式ホームページ
●Jリーグチケット

スパークス,阿部修平,ソロス,バフェット

『髙田明と読む世阿弥 昨日の自分を超えていく』
(髙田明著、日経BP社)
髙田社長の近著は、世阿弥(ぜあみ)の『風姿花伝(ふうしかでん)』に経営&ビジネスへの姿勢や考え方を学ぶユニークな1冊。毎日、初心に還り、新しいことに挑戦し続ければ、つねに「自分史上最高」が実現できる。人と比べて、くよくよすることもないと読者を励ます。

<クレジット>
取材・文/樋渡優子
写真提供/V・ファーレン長崎

転載元:ライフネットジャーナルオンライン