製造業は顧客ニーズの多様化や製品の複雑化、コストや品質の管理、タイムツーマーケットの短縮など、さまざまな要請への対応が常に求められる。その中で、消費者が最初に目にする製品のデザインから、強度、製造費用に至るまで、様々な要素を定義することになる重要な業務が設計だ。コンピューターを用いたCAD(Computer-Aided Design)などによる高度化が進んできたが、複合現実(MR:Mixed Reality)の採用をはじめ、デジタル化によりさらに次の段階へと進もうとしている。

フォードが描くMRを用いた革新的な業務フロー

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(写真=khoamartin/Shutterstock.com)

設計現場を驚かす技術の1つがMRである。MRは専用メガネのレンズにホログラムを投影することで、高層建築物などの実現イメージを仮想的に把握できるようにする技術だ。

MRを自動車の製造現場に取り入れたのが米フォードだ。フォードは米マイクロソフトのMR技術「HoloLens」を導入し、設計レビューを実施した。HoloLens上でCADモデルを表示することで、あたかも実物が目の前にあるようにモデルを確認できる。これにより、設計上の問題点をすばやく発見できるようになった。例えば、サイドミラーのデザインが運転者の視界にどう影響を与えるかについて、ほんの数分で検証できる。

以前なら数週間かかることもあった作業だ。というのも、通常はPCのディスプレイ上に表示された設計データや工業用粘土を使うクレイモデルなどを用いてレビューするが、実物大の模型をつくるという作業はどうしてもMRを用いる場合よりは時間がかかるからだ。

MRへの期待は、自動車部品の組み込みイメージを描くといったさまざまな使い方を含めて膨らんでいく。部品単体のデザインが優れていても、それが内装と調和しないといった時に、デザインの変更にもすぐに対応できる。さらに、世界中にいる設計者同士が、3Dモデルを共有しながらリアルタイムでレビューし、必要があればすぐに設計変更できるようにしている。

リアルタイムシミュレーションで設計検証を迅速化

この数十年にわたり、プロセッサなどのハードウェア性能が劇的に向上したことによって、製品の強度などを検証するシミュレーション技術(CAE:Computer Aided Engineering)も進化している。高度な計算でなければ、ほぼリアルタイムでシミュレーション結果が得られる。

例えば、CAE大手のANSYSは、形状を柔軟に変更できるCAD機能と連携して、瞬時に3Dシミュレーションの結果が得られる製品を提供する。形状、材料物性などを入力すると、製品の強度を計算する構造解析、製品の内部を流れる空気の挙動を再現する流体解析、発熱部品などが製品に及ぼす影響などを計算できる熱解析をすぐに実行し、データを取得できる。

複雑な製品開発を進める上で、設計案が製品の強度に影響を与えないか、熱の影響を受けないかといった事柄を、人間の頭の中で想像するだけでは不十分だ。しかし、計算時間が余計にかかるのでは、設計フローの中でシミュレーションを組み込むのは難しくなってくる。ここで、その解決策としてリアルタイムシミュレーションが挙がる。

GPUを用いた並列処理で複雑な流体計算も可能に

シミュレーションには、リアルタイムで完結しない高度なものもある。特に、液体が激しく挙動する自由界面の計算は、流体解析の中でも難しい。物質を混ぜる際の攪拌槽(かくはんそう)内部の状況などは、従来のアルゴリズムや計算リソースを考えると再現が難しかった。

しかし、自由界面の計算もアルゴリズムとハードウェアの進化によってシミュレーションできるようになった。東京大学発のベンチャー企業であるプロメテックソフトウェアは「Particleworks」を展開。流体を粒子で扱う手法を実装したことで、攪拌やエンジンオイルのかき上げなど飛沫(ひまつ)の再現が容易になった。

自由界面の計算は高性能な計算機が必要でリソースの確保に課題があった。しかし、近年はGPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェアの性能も向上。流体解析ソフトウェアであるParticleworksも、GPUを活用することでリソースを増強し、計算時間を短縮化した。

最新技術を設計フローに組み込む

MRを用いた設計レビューやリアルタイムシミュレーション、GPUによる高度なシミュレーションなどは、一昔前までは考えられなかった技術だ。ハードウェアやアルゴリズムの進化は、画期的な製品の開発につながる。

設計フローのデジタル化推進には、現状の業務フローの問題点を正しく理解することが不可欠になる。工数や金額の見積もりが不適切ではないか、デジタル化で効率化できる範囲を、組織で見直す。設計のデジタル化によって、世の中が驚くような製品の誕生を期待したい。

(著者=山田 雄一朗)

(提供:MUFG Innovation Hub

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