金融セールスにとって富裕層は重要な顧客群だ。富裕層の執事とも呼ばれるプライベートバンクではどのような資産管理が行われているのだろうか。本特集では『プライベートバンクの嘘と真実』の著者であり、株式会社アリスタゴラ・アドバイザーズ代表取締役の篠田丈 氏に聞く。(編集構成:ZUU online 編集部 菅野陽平)※本インタビューは2018年11月16日に実施されました

『プライベートバンクの嘘と真実』の著者が語る富裕層の資産管理
(画像=PIXTA、ZUU online)
『プライベートバンクの嘘と真実』の著者が語る富裕層の資産管理
篠田 丈(しのだ・たけし)
株式会社アリスタゴラ・アドバイザーズ代表取締役。1985年に慶応大学を卒業後、日興証券ニューヨーク現地法人の財務担当役員、ドレスナー証券(ドイツ大手金融機関)及び ING証券(オランダ最大手金融機関)でエクイティ・ファイナンスの日本及びアジア・オセアニア地区最高責任者などを歴任。直前はBNPパリバ証券(フランス最大手金融機関)東京支店の株式派生商品本部長として、日本でのエクイティ関連ビジネスの責任者。トレーディング部門の経験が長い。2011年4月から現職。著書に『プライベートバンクの嘘と真実』(幻冬舎)。※画像をクリックするとAmazonへ飛びます

――先ほどレバレッジの話が出ましたけども、プライベートバンクを利用するメリットとして証券担保ローンを挙げる人もいます。たとえば「劣後債を買って、それを担保に、また違う劣後債を買って、7%の利回りが9%まで上がりますよ」とか「ハイイールドETFを買って、それを担保に入れて、別の種類のハイイールドETFを買う」のような「レバレッジを効かせられるのがPBのメリットだ」という話も聞きますけども、スイスのPBでは、そういうことはしないのですか?

しないですね。もちろん無理に頼めば絶対やらないってわけじゃないですよ、オーダーメイドですから。お客さんが強い気持ちを持って言えば。ただ、基本的には「NO」ですよね。銀行側からは絶対に勧めてこないです。とにかく長期で資産保全、資産を守る事が目的なので「なんでわざわざリスクを増やすの?」っていう発想ですよね。

稼ぐ事が目的じゃないので、彼らは。守ることが目的ですから。その発想が元々違うのでね。これがシンガポールなどに行けば、レバレッジ大好きで、それはリスクの好きな顧客が多いっていう理由もありますけれど。最初の提案から「保険を買って、どうのこうの…」「劣後債を買ってどうのこうの…」と真っ先に言ってきて、とにかく利回りを強調します。「これだけリターンが上がりますよ」と。そこにはもう、そもそも「リスクをきちんと説明する」っていう気持ちもないし。

その点、スイスの人たちは、とことんリスクを嫌うので「絶対やらない」と言っている銀行もあります。同業者同士で話している中でも言うので、もうそこは本当に違いますね。実際、リーマンショックのとき「どのぐらいドローダウンしたか?」を見てみると、きちんとした数字が出ているわけではないですけど、アジアのプライベートバンクは、スイスの同じ名前のアジア拠点も含めて平均20%〜30%損しているんですね。つまり10億預けていたら8億とか7億に減っているんですね。100億だったら80億70億に。

しかし、スイスに預けていた人は10%〜15%で済んでいますね。これは多分、レバレッジを掛けている、掛けていないという差が現れたのだと思います。もちろん、顧客層のマインドの違いというのもあるでしょう。 「中国の人はリスクをとるから、こういうサービスをしている」と、当社のシンガポールオフィスの社員もよく言います。でも当社のシンガポールオフィスのヘッドのほうが、多くの顧客よりずっとお金持ちです。数百億円くらい持っていますからね(笑)

その彼は「一切リスク取りたくない」と言っていますから。もうレバレッジどころか「エクイティだって嫌だ」というぐらいで。だから、本当のお金持ちは、中国人でも、誰もリスクなんかとりたくないと思っていますよ。表現が正しいか分かりませんが、中途半端なお金持ちが、リスクをとって早く増やしたいと思っているだけで。