金融とITの融合領域であるFinTech(フィンテック)が話題に上るようになって久しい。金融の一分野で長い歴史のある保険も例外ではなく、技術革新の波が押し寄せている。FinTechにちなんで名付けられたInsurTech(インシュアテック)という分野があるが、FinTechと比較すると、まだ広く認知されているわけではない。本記事では、InsurTechの概要とInsurTechのトレンドに触れ、今後InsurTech分野がどのように発展していくのかを展望する。

InsurTechとは

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(写真= MUFG Innovation Hub編集部)

InsurTechとは、保険を表すinsuranceと技術を表すtechnologyを組み合わせた造語で、保険分野の業務やサービスを革新的な情報関連技術で効率化することを目指す。

ITによる保険の効率化というと、まだInsurTechはおろかFinTechという言葉も聞かれなった2006年にインターネット専業の生命保険会社の先駆けとしてライフネット生命保険が誕生し、割安で明瞭な保険の提供を開始し、業界に衝撃を与えた。

現在注目を集めるInsurTechはインターネットを使ったコスト削減や効率化からさらに一歩先を行くものだ。キーワードはモバイル、ビッグデータ、AI(人工知能)だ。2000年代からインターネットが浸透し、2000年代後半にはスマートフォンが普及し、これまでにない規模の人の嗜好(しこう)や行動に関係するデータが蓄積されるようになった。

AIやその基礎となるニューラルネットワークについては、はるか昔から研究が進んでいたが、ビッグデータの登場により、新たな局面を迎えることになった。ビッグデータがAIの学習や評価データとして活用され、AIの研究と実用が一気に進んだのだ。例えば、保険分野でAIはリスクの予測において威力を発揮、過去の膨大なデータを分析することで、取引が詐欺に該当するかどうかを確率論で特定するといった使い方ができる。このように、保険会社がAIやビッグデータといったテクノロジーを駆使して柔軟に保険商品を設計できるようになることで、加入者は最適な価格で個々の状況に応じた保険を選べるようになる。

世界のInsurTechのマーケットについてはディール数や投資額、スタートアップの創業件数などさまざまな統計が公開されているが、時代的な背景やFinTechが引き続き注目を集める中、急成長分野とまでは言えないものの、底堅く、100百万ドル(2018年12月のレートで113億円)を超える大きな投資も出てきている。国や地域では、アメリカ、ヨーロッパでの投資が活発で、コンサルティングファームのKPMGはFinTech投資に関するレポート「The Pulse of Fintech 2018」の中で、InsurTechはアジアでは未発達の分野だとして。矢野経済研究所は国内の市場規模は順調に成長を続け、2021年度には2017年の600億円から約3倍の2,000億円に拡大すると予測している。

InsurTechのトレンド

アメリカのOscar Health、Hippo Insurance、Lemonadeは最近1年で100百万ドル規模またはそれを大きく上回る規模の大型の投資を受けた注目のInsurTech企業だ。Oscar Healthは医療保険を、Hippo Insuranceは住宅保険を、Lemonadeは家財保険を提供する。

日本では国民全員が国民健康保険または社会保険の公的医療保険に加入するが、このような皆保険制度は世界では一般的ではない。医療保険はInsurTechの一大分野で、Oscar Healthはニューヨーク州など数州で健康保険を提供しており、加入者はスマートフォンのアプリを使って遠隔医療を含めたサービスを受けることができる。ドイツでは日本と同様に皆保険とされているが、民間医療保険が公的医療保険の一部を代替しており、公的医療保険に加入義務のない人は民間医療保険との間で選択する権利が与えられている、というのが実態だ。保険は旧態依然としたサービスが多い中、ドイツのInsurTechのスタートアップottonovaはスマートフォンのアプリでサービスを提供し、モバイル世代の高所得層を取り込もうとするなど、FinTechらしい新たなビジネスを打ち出している。

最も技術的に先端を走っているのは損保分野におけるLemonadeで、スマートフォンのアプリで契約ができてサービスを受けられるのはもちろん、AIアシスタントと契約を作成し、何かが壊れたり盗まれたりしたらAIアシスタントとチャットをしながら保険料を請求できる。請求はアプリ経由で3分もあれば完了し、保険会社による現地調査はない。効率化された迅速なサービスはAI活用の境地と言える。Lemonadeはソフトバンクグループから投資を受け、同グループは主要株主の一社でもある。

先端技術を駆使したモバイルベースの保険と合わせて、途上国の市場に目を向ける動きもある。Fintech Globalの調査によると、2014年から2018年の5年間でInsurTech分野に投資件数ベースで最も活発に投資したのはアメリカに拠点を置くPlug and Playで、同社のウェブサイトでは途上国へのInsurTechのインパクトを示唆し、少額の保険を扱う保険会社が国連のサポートを得た事例を挙げている。途上国で急速に普及を見せるモバイルデバイスがユーザー端末として利用されるのは想像に難くない。実際モバイルマイクロインシュアランス、関連するモバイルヘルスケアと呼ばれる分野があり、デジタル化や自動化で低価格の保険が実現できるようになったことで、より多くの人への保険提供が可能になってきている。

次の世代のInsurTech

前項で紹介したLemonadeはある未来的なイメージのサービスだが、ここからどのようにInsurTechは発展していくのだろうか。次の一歩につながる技術としてIoT(Internet of Things)やブロックチェーンがある。

IoTデバイスというと家庭内のインターネットにつながった機器を想像しがちだが、インターネットにつながった車から屋外に設置されたセンサーまであらゆるものがIoTデバイスだ。今後、より多くのデータが収集されることになり、保険商品の設計や請求の検証プロセスで生かされることが考えられる。

ブロックチェーンは多数の利害関係者が関わるような保険商品でデータ交換のためのプラットフォームとして活用されていくだろう。医療保険分野では、個人が病歴や受診の履歴を管理し、必要に応じて本国、保険会社、医師にデータを開示し、サービスを受けるといったモデルにシフトしていくことで、効率や正確性だけでなく、プライバシーも担保したサービスが可能になる。また、共通のプラットフォームでデータが共有されると、より多くのデータをAIに学習させることができ、保険商品や請求の妥当性判定の精度向上にも寄与するだろう。

ブロックチェーンについては他にも大きな可能性がある。スマートコントラクトによる自動化された保険商品だ。前出のLemonadeは、ユーザーがバーチャルな互助グループを構成する仕組みを採用しており、P2P保険をうたっている。しかし、実際にはサービスの中心にLemonadeの存在があり、真のP2P保険ではない。

Lemonadeは、現実的な価格で便利なサービスを提供すると共に、余剰金を利用者の希望するチャリティ団体に寄付する仕組みを通じ、社会に貢献している。これらの点は評価すべきだが、Lemonadeの迅速かつ自動化されたプロセスを目の当たりにするにつけ、今後ブロックチェーンやスマートコントラクトが洗練され、数年のうちに完全に自立分散型のP2P保険が出てくることを考えずにはいられない。2018年仮想通貨は大暴落の一年となったが、基盤技術であるブロックチェーン技術は確実に進歩し、スマートコントラクトを実行できるプラットフォームとしてはこれまでEthereum一強だったところにEOSが登場した。

金融インフラが整っていない途上国では、ブロックチェーンが仮想通貨との組み合わせで保険に応用されることも考えられる。ブロックチェーンや仮想通貨は、法定通貨では考えられない極少額を扱うマイクロファイナンスとの相性は良いと言える。

おわりに

FinTechに注目が集まる中、保険業界でも確実にデジタル化や自動化が進み、InsurTechが業界を大きく変えようとしている。不確実性を織り込んだ金銭補償の契約という保険商品の性質から、InsurTechはAI、ブロックチェーン、スマートコントラクトとの相性が良く、この先これら技術の進歩とともに今後大きくInsurTechが進化することが期待される。成熟期にさしかかっているFinTechの中で、今後開拓が期待される途上国市場での動向も合わせてInsurTechは注目したい一分野と言えよう。

署名: Aki T.

(提供:MUFG Innovation Hub

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