ロレックス、オメガ、IWC、タグ・ホイヤーなど、スイス製の高級時計はその「手工芸」「職人技」や「精巧な機械式ムーブメント」のイメージがあり、世界中の裕福層に愛用されています。これらの企業は長年の歴史を持つものが多いのですが、近年わずか10年ほどで価格や人気において高級時計の頂点に立ったブランドがあります。

「F1世界モータースポーツ選手権や航空宇宙産業において使用される最新技術や素材を厳選し、完璧さを追求した唯一無二の製品」を訴求点に熱心なファン層を獲得したリシャール・ミルです。

同社は自前の工場を持たず、信頼できるパートナーに開発と製造を委託する一方、「過酷で極限の環境にも耐える素材と設計」のコンセプトの下、身体に装着した腕時計がまるでフォーミュラカーや宇宙船を凝縮した存在に思えるようなマーケティングを行い、大成功をおさめています。

そこには、創業者リシャール・ミル氏の絶妙な「コンセプト作り」の技が隠されています。商品のクオリティは勿論ですが、コンセプトを売る熟練の技にビジネスパーソンが学ぶことが多いのではないでしょうか。

ライバルの「敵失」をチャンスに

高級時計,リシャール・ミル,コンセプト設計
(写真=andersphoto/Shutterstock.com)

リシャール・ミルは具体的にどのような工夫をこらして自社ブランドを、既存ブランドに伍する存在に育て上げたのでしょうか。第1の背景として、大手の既存ブランドが利潤を上げるために、手作業による少量生産体制から、大量生産の工業化へと舵を切った「敵失」が、手作業と素材にこだわるリシャール・ミルの希少性と評価を高めたことが挙げられます。

大手ブランドの「時計製造労働者」とは違い、リシャール・ミルには「時計職人」が残っています。同社工場には、大手時計企業が隠したがるロボットはおらず、加工が難しい素材を職人が時間と手間をかけて「手工芸品」に仕上げているのです。

そのため、ほとんどの製品は数百万円から一千万円以上と高額であり、全て限定品で、入手が困難です。リシャール・ミルは妥協を重ねたライバルとの差別化を図り、「21世紀の職人技」という新しいコンセプトを創造することに成功したのです。

また、リシャール・ミルは、レ・ブルルーの村に拠点を構える職人集団のオロメトリー社とモントル・ヴァルジン社に開発や生産を委託して、自社は「コンセプト作り」のみに徹していることが、人気を高めています。職人技は伝統職人に任せているところが、信頼を勝ち取るからです。

最先端素材で伝統の再構築

リシャール・ミルのコンセプト作り成功の第2の背景は、従来のスイス高級時計にはあまり見られなかった、テクノロジーの最先端素材をふんだんに使用していることです。同社は、「コンセプトが部品を決定するのであり、部品がコンセプトを決定するのではない」と明言しており、その姿勢には一貫性があります。

たとえば、リシャール・ミル製品にふんだんに使用されるチタンは、「エレクトロ・プラズマ酸化処理を施すことによって、航空宇宙材料規格AMS 2488Dに応じるだけの硬度、摩擦係数、摩耗と腐食への耐久性を発揮」するもので、「航空宇宙、自動車、医療などの産業部門で使用される」ことが強調されています。

同様に、カーボンコンポジットは「高分子複合材料で、スチールの200倍耐久性に優れ、しかも軽い」ことから採用され、新合金の斜方晶系チタンアルミナイドの使用は「米航空宇宙局(NASA)が超音速機の翼の心材として使うための研究を行ったことが発端だ」と、リシャール・ミルは説明しています。

このように、従来型のスイス高級腕時計には見られなかった斬新な素材を採用し、競合が持たない最先端テクノロジーと超耐久性のイメージをユーザーの間に植え付けることに成功したのでした。「職人技」の伝統は残しつつ、これまでにない新しさを演出するという離れ業をやってのけたことが、コンセプト設計の核心であったといえます。

売れるモノやサービス作りには、このような訴求に関する工夫が欠かせません。リシャール・ミルの希少な腕時計は、その大きなヒントをビジネスパーソンに与えているのです。(提供:ANA Financial Journal

【おすすめ記事 ANA Financial Journal】
「お金持ちは長財布」はもう時代遅れ?
日本は借金大国?世界の債務残高はどのくらいのか
ビジネスセンスが現れる!差がつく「手土産」3選
サービスで選ぶエグゼクティブのカード
プラチナカードの審査の仕組みとは