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(画像=Freedomz/Shutterstock.com)

7月に改正相続法が施行され、相続預金の新しい仮払い制度が始まります。この制度により、遺産分割前の一部払戻しがしやすくなります。金融機関は、この制度に基づいた払戻依頼に適切に対応しなければなりません。

本特集では、相続預金の新しい仮払い制度の内容や対応の流れ、担当者が留意すべき点などを解説します。

※なお、「相続預金の仮払い」とは「改正相続法における遺産分割前の相続預金の払戻し」のことをいいます。

Q1 なぜ相続預金の仮払いの制度が創設されたの?

A かつては、預貯金債権を有する者が死亡した場合、その預貯金債権は、法定相続分に応じて各共同相続人に当然に承継されると理解されていました。

このような理解によれば、預貯金者が死亡し、共同相続人のうち1人から、法定相続分に応じた預貯金債権の払戻しを求められた場合、金融機関としては、これに応じなければなりません。

しかし、金融機関は共同相続人間の紛争に巻き込まれることを避けるために、共同相続人全員の同意がない限り払戻しに応じないという実務対応をしていました。ところが、この対応は、法的な根拠がなく、窓口における説明に苦慮してきたところですし、訴訟になると敗訴せざるを得ない状況でした。

しかし、2016年12月19日の最高裁判所大法廷決定は、預貯金債権は相続開始と同時に当然に法定相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になると判示をしました。

この決定により、かつての理解は変更され、預貯金者が死亡した場合は、遺産分割までの間は、各共同相続人は、自らの法定相続分に相当する範囲であっても単独で預貯金債権を行使することはできず、むしろ共同相続人全員により預貯金債権を行使しなければならないこととなりました。これにより、共同相続人全員の同意がない限り、払戻しに応じないという金融機関の実務対応に法的な根拠が生まれることとなりました。

不都合な状況があった