リーマンショック後の米国の金融業界は絶望的な状況でした。

米国政府は70兆円もの公的資金を投入し、金融機関の救済をしたのです。

その当時、政府の資本が入らなかった金融機関はほとんどありません。

あのゴールドマンサックスですら、バフェットの会社バークシャー・ハサウェイから50億ドルの出資を受けなければ存続できないほどだったのです。

この当時、米国の金融機関に対する嫌悪感はピークに達しました。

なぜなら、顧客を忘れて荒稼ぎをして、バブルが弾けたら税金で救済されることに対する、米国民の不満が噴出したからです。

そして、この嫌悪感こそ、フィンテック企業の台頭を世論が後押ししたと言われています。

既存の金融機関に変わる存在を求め、そこで新たに登場した「ペイパルマフィア」が注目を集めたのです。

リーマンショック
(画像=Getty Images)

ペイパルマフィアとは

1998年に誕生したペイパルは、米国におけるフィンテック企業の代表的な存在です。

このペイパルは、個人と個人、または個人と小規模企業との取引を仲介する際に、相手に銀行やクレジットカードの支払い情報を知らせる必要のない、革新的な決済サービスを生み出した会社です。

ペイパルは2002年にイーベイに買収されましたが、現在も世界最大級の決済サービスとして成長を続けています。

そしてイーベイに買収された際に多くの「元ペイパル」の優秀な人材が流出し、その人材たちがネットワークと資金力を生かして、次々と新たな会社が生まれていきます。

そうした元ペイパルの社員たちをまとめて「ペイパルマフィア」と呼んでいるのです。

その代表格が、テスラやスペースX、ソーラーシティの会長を務めるイーロン・マスク。

ペイパル創業者であり、ペイパルマフィアの人材に次々と惜しみない投資をするピーター・ティール。

Youtube創始者でありYoutubeとペイパルのロゴ設計をしたチャド・ハーリー。

全米を網羅した地域情報サービスYelp。

ビジネスに特化したSNS「LinkedIn」を立ち上げたリード・ホフマン。

このように躍進するスタートアップ企業の背後にはいつもペイパル出身者がおり、実際、ペイパルマフィアが立ち上げた企業は現在7社がユニコーン企業に成長しているのです。

ペイパルの企業文化が現在のフィンテックの技術を前進させているのです。

ペイパルの哲学

ペイパルの哲学は創業者でありペイパルマフィアのリーダーであるピーター・ティールの哲学でもあります。

彼の哲学がまとめられた書籍「ゼロ・トゥ・ワン」のなかで次のように語っています。

「新しい何かを作るよりも、在るものをコピーする方が簡単だ。見慣れたものが増える。けれど、新しい何かを生み出せば0が1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる瞬間と同じく1度きりしかないし、その結果、まったく新しい、誰も見たことがないものが生まれる。この難事業に投資しなければ、アメリカ企業に未来はない。現在、どれほどの大きな利益を上げていようと、最適解は絶えず変化し続ける。つまり、新しく、試されていないことこそベストなのだ」

こうした理念からペイパルは「競争を避け、独占を目指す」ことを探求し続けているのです。

フィンテックの台頭によるゴールドマンサックスの進化

リーマンショック後に台頭したフィンテックですが、必ずしも新興フィンテック企業が全てを独占したわけではなく、既存金融機関のゴールドマンサックスもデジタルトランスフォーメーションに着手して、積極的にデジタル領域で成果を上げています。

ではゴールドマンサックスについて3C分析( Company,Customer,Competitor)していきます。

まずCompanyですが、ゴールドマンサックスにはリーマンショックを経ても、金融の世界では圧倒的なレピュテーションとブランド力を保持しています。

そのため、極めて優秀なトップオブトップの人材のみ採用することが可能です。

次にCustomerですが、ゴールドマンサックスはこの10年でトレーディング部門を縮小させ、それと変わるように株式や債券、M&Aのアドバイスなどの業務を拡大しています。

このように時代の変化と合わせて事業構造を変化させているのも大きな特徴でしょう。

なぜならCompetitorにおいて明確にライバルは「GAFA」であることを明言しており、デジタルトランスフォーメーションを進化させていかなくては生き残ることが出来ないことを、しっかりと認識しているのです。

またゴールドマンサックスは業務におけるAI化についても話題になりました。

わかりやすい例として、かつてはトレーディング業務に携わる人材は500人前後いたものの、現在はたったの3人です。

顧客にとってはより効率的なサービスを提供できるようになった一方、エンジニアの数は9000人を超えており。

AI化による新たなリスクに対応するべく、人材の配置も変化しているのです。

これについてデービッド・ソロモン社長は「マシンラーニングと市場がどのように機能するのかを巡る、過去の経験に基づく予測に莫大な投資を行っている」と述べ、企業としてのあり方を変化させていく決意を示しています。

なぜなら、リーマンショック後に少なからずゴールドマンサックスというブランドや伝統に陰りが見え始めているからです。

フィンテックの台頭後、ビジネススクールの卒業生は投資銀行や戦略コンサルティング会社への就職を目指していた時代から、現在ではGAFAなどをはじめとしたテクノロジー企業への就職を目指すことが主流となっているからです。

そのような背景があり、デジタル戦略として「データレイク」や「マーキー」という手法を使っています。

データレイクとは、取引や市場調査だけでなくメールやSNS、ブログのログなどあらゆるデータを一箇所に集約するものです。

それをAI分析を行いクライアントへ提供しています。

こうした膨大なデータ情報量を持ち、クライアントが連絡したくなる状況こそゴールドマンサックスの付加価値なのです。

次に「マーキー」ですが、社内利用していたリスク管理や分析ツールを法人顧客へ提供するプラットフォームです。

トレードに必要なアプリを提供し、透明性とスムーズな取引を実現させています。

そして、1番興味深いのが「マーカス」ですが、次の項目で説明します。

デジタル銀行マーカス

2016年10月にゴールドマンサックスが始めたデジタル銀行マーカスは、オンライン金融プラットフォームです。

これは従来のグローバル企業だけを相手にしてきたオリジネーション業務だけでなく、リテール業務への参入を意味し、業界内で衝撃が走りました。

もちろん、一部の資産1000万ドル以上の超富裕層向けにプライベートバンキング業務は行っていたものの、マーカスでは一般消費者を対象としており、無担保個人融資と貯蓄口座を主な業務としています。

これは最大4万ドルまで融資するもので、返済期間は3年〜6年。

手数料はゼロの固定金利ローンです。この金利は個人の信用度で異なり、6.99%〜24.99%に設定されています。

このマーカスはゴールドマンサックス自身の将来を左右するほどに重要なプロジェクトとして始動しています。

全てがオンライン上で行えることと、消費者に優しく返済しやすいことから人気を集めています。

また、1ドルから貯蓄できる口座の金利は全米平均0.06%なのに対してマーカスでは2.25%(2019年3月時点)という高金利を実現しており、徹底した消費者目線から急成長を続けています。

富裕層からリテールまで裾野を拡大し、新興のフィンテック企業のように、従来の金融機関のディスラプターとなれる存在として、その価値を拡大しているのです。

そして2019年3月25日、アップルが発行するクレジットカードの「アップルカード」をゴールドマンサックスが発行会社とする計画を発表しました。

発行会社としては実績のないゴールドマンサックスをアップルが選んだことは、何よりも信用力とブランド力があることが要因でしょう。

これはゴールドマンサックスにとっても、アップルの顧客との接点を持つことができる大きなメリットがあります。

現在はクレジットカード業界において最後発ではあるものの、今後はどのように業界の勢力図が変化していくのか、消費者にとっては便利でとても楽しみな展開が続くことが予想されます。

米国の変わらない金融哲学

金融機関は政治や経済だけでなく、社会全体に大きな影響力を持っています。

米国において現在までGAFAなどは銀行を持っていないのも、金融機関による政治力の側面があるという指摘もあります。

つまり米国では中国のアリババやテンセントのようなメガテック企業が既存の金融機関の役割を奪う形ではなく、ゴールドマンサックスなどの米国を代表する金融機関がデジタルとAI化を進めていくなかで、金融に関わる米国のフィンテック企業などと垂直に統合が進むことが予想されます。

例えるなら米中貿易戦争下において、中国企業が中国内でサービスを展開できても米国では難しいように、GAFAが自社サービスの促進についての金融サービスは実現できても、ゴールドマンサックスと直接競合するような事態は今後もしばらくは阻止されることが予想されます。

なぜなら米国では事業会社が投資銀行を設立するには、あらゆる規制が持株会社やグループ企業全般に及ぶことが大きいからです。

とはいえ、米国は現在も世界経済をリードする国であり、シリコンバレーに代表されるベンチャーマインドは普遍的な精神として脈々と受け継がれています。

絶えず革新を続けていく姿勢は変わらず、それは次世代金融サービスの時代においても変わらないはずです。

米国企業の変わる部分と変わらない哲学、その両輪から私たちは多くのことを学ぶ必要があるのです。(提供: The Motley Fool Japan


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