MMT(現代貨幣理論)の教科書
日本は借金し放題?暴論か正論かを見極める
日本は借金し放題?!驚愕の新理論の正体を知ろう!賛成派・反対派どちらにも肩入れしない新理論の教科書
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近頃、わが国において、財政をはじめとする経済の運営に関する、興味深いアイディアが関心を集めています。

それが、「現代貨幣理論(MMT、Modern Monetary Theory)」です。

MMTが関心を集める背景には、わが国の中央銀行が経済に大規模にお金を供給しているにもかかわらず、金利が上昇していないことがとても強く影響しています。「金利が上がらないなら、政府がもっと国債を発行して景気刺激策を進めればよい」と感じる人は多いでしょう。確かに、政府が積極的に歳出を増やせば、一時的には景気が上向くでしょう。

一方、MMTには、裏付けが乏しいと考えられる部分がかなりあります。

歴史を振り返ると、政府が借金を膨らませ、インフレが進行するだけでなく、社会が大きく不安定になったことは少なくありません。経済学者や中央銀行関係者の多くが、MMTに関して懐疑的な見方を持っています。

それではまず、MMTの定義を確認しましょう。MMTとは、自分の国のお金(通貨)で債券を発行できる(借金をする)国は、デフォルト(債務不履行、借りたお金(元本)およびその利息を約束通りに支払えなくなることがデフォルト)に陥ることはなく、政府は財政の悪化をそれほど気にせず積極的に国債を発行して景気刺激策を進めることができるという財政(国のお財布事情)の運営に関する理論です。簡単に言えば、自国の通貨で国債を発行できる国は、国債の発行によって財源を確保して雇用などを生み出し、望ましいと考えられる経済の状況を目指すことができるという主張です。MMTの条件には、①経常黒字(わが国が外国との経済取引(貿易、海外への投資、海外子会社からの配当金受け取りなどで)生じた収支がプラス)である、②自国通貨建ての国債の発行ができる、③インフレが起きていないことがあります。

「そんな都合の良い話はない」という指摘もあるでしょう。ですが、MMTを主張している人たちは、自分たちの主張に根拠があり、MMTが必要だと信じています。その根拠を「机上の空論だ」という人もいます。MMTを支持するか、支持しないかは人それぞれです。まずは先入観を取り除いてMMTを考えてみましょう。

MMT(Modern Monetary Theory)は、政府が国民から税金を徴収する力=徴税力を持っていることを前提にします。MMTを支持する人たちは、自分の国の通貨で国債を発行できる国(政府)は、必要に応じてお札を刷れるから借金の返済に行き詰まることはないと考えます。徴税力を裏付けに、お札を自由に発行できるという考え方です。

MMTは、M(新しい)M(貨幣、お金の)T(理論)ということです。モダン(Modern)とは、現代的である、今風であるということです。つまり、従来とは異なる新しさがあるということです。次に、貨幣(Monetary)とは、わたしたちが日常的に使うお金(紙幣)などをイメージすればよいでしょう。なお、MMTを現代金融理論と訳する人もいます。この場合の金融とは、お金の融通(企業が銀行からお金を借りる)ではなく、国による資金の調達を意味します。

MMTの歴史は、さほど長くはありません。何人かの経済の専門家がMMTの教科書を出版するまで、理論が統一されているわけでもありません。経済の専門家の間でも、賛否両論、様々な見解があります。歴史が浅い分、研究者は少なく、MMTは経済学の中でも異端視されているようです。

借金はだれかの資産になる

MMTは、これまでの経済学が想定してきた「常識」と異なる発想を前提にしています。皆さんは国の借金についてどう考えますか?「借金はなるべくしてはいけない」「借金は困ったときに仕方なくするもの」という考えは当然です。

わが国の財政法第4条第1項は、『国の歳出は原則として国債又は借入金以外の歳入を持って賄うこと』と定めています。同時に、但し書きにて公共事業費などを行う際には、例外的に国債(建設国債)を発行できることが記されています。国債とは、国が財政赤字(歳出―歳入がマイナス)を賄うために発行する債券です。建設国債を発行しても歳入が不足する場合には、特別の法律を定め「特例国債(赤字国債)」を発行することができます。

一方、MMTの支持者は、借金の問題を怖がらなくてよいと考えています。そのかわり財政政策を通して政府は、必要とされるだけの雇用を生み出し、雇用を保障すべきと考えています。

もし皆さんが、「皆さんは働いて、お金を稼ぐ力を持っています。その力を裏付けに、自由にお金を借りることができます。返済の問題を気にする必要はないから、どんどんお金を借りて、食事でも旅行でも、好きなことを思う存分楽しんでください」といわれたとしましょう。

皆さんがそれを信じると仮定すると、多くの人がお金を借り、消費や投資を行います。その結果、モノやサービスを提供した人は収入を手にします。企業の儲けも増えるでしょう。これは、借金が資産を生むことを意味します。

これと同じようなことを、MMTの専門家たちは国単位で実施しようと考えています。「国は徴税力を裏付けに、自分の国の通貨で自由に債務を発行できる。通貨の発行は思うがままにコントロールでき、借金を返済できなくなることは心配する必要はない」と主張しています。その上で彼らは、借金が経済の活動を活発化させ、国民の資産(富)を増加させ、望ましい経済環境を達成できると考えます。

「好きなだけ借金をしていい」といわれると、皆さんはどう感じるでしょう。真っ先に頭の中には、「えっ? 借金をしておきながら返済の問題を気にしなくていいなんて、そんなうまい話があるわけがない」という考えが浮かぶに違いありません。

借金は、必ず返さなければならないというのが、わたしたちの「常識」です。加えて、借金はただではありません。お金を借りると、そのレンタル料として金利を貸し手に支払わなければなりません。借りたお金を返すことができないと、わたしたちは周囲から信用されなくなってしまいます。

ただ、現在のわが国では、金利が非常に低い水準で推移しています。2019年6月上旬、10年物国債の流通利回り(長期金利)はマイナス0・10%程度です。それに加え、物価もほとんど上昇していません。わが国の経常収支は黒字であり、海外から多くのお金を受け取っています。企業は多くの現金を持っています。

経済にお金を供給しても金利が上昇しないのであれば、政府は自国の通貨で国債を発行してより強力に景気を刺激し、望ましい経済環境を目指すことができるというのがMMTです。

政府が物価をコントロールする

物価に関しても、MMT主張者は従来とは異なる考えを重視します。

MMTを支持する専門家らは、「物価の上昇を怖がるな」と説いています。インフレのリスクを怖がると、政府の財政政策が慎重になってしまい、結果的に景気の回復が思うように進まなくなってしまうからです。MMTでは、政府には物価をコントロールする能力があると考えます。

例えば、政府が大規模に債券を発行して、インフラ投資などの公共事業を進めたとしましょう。公共事業が始まり、多くの人が建設現場などで働けるようになりました。コンクリートやアスファルト、橋などの建設に使われる鋼材など、多くのモノが必要とされます。モノが必要とされることを「需要」といいます。より多くのモノが必要とされる場合、景気が回復する中で、需要が高まりモノの価格が持続的に上昇する。これが、インフレです。

MMTでは、政府が望ましいと考える物価の水準を定め、その水準が達成されるまで財政支出を進めればよいと考えています。

もし、政府が適切だと考える水準を超えて物価が上昇し続ける恐れがあると考えられるのであれば、あらかじめ財政の運営に関する法律に支出を抑制する条項を盛り込めばよいとMMTの専門家は主張します。

現在、世界的に、物価は低い水準で推移しています。わが国をはじめ米国、ドイツなどの主要国では、物価が上昇しづらい状況が続いています。かつてインフレに悩まされてきた中国などの新興国においても、物価は上昇しづらくなっています。その現実をもとに考えると、物価の上昇はさほど怖がらなくてよいという考えは人々の共感や支持を得やすくなっています。そうした社会心理の変化がMMTへの関心、支持を増やしているのでしょう。

金利が上がりづらく、物価も上昇しづらい中で景気を押し上げるためには、政府が積極的に財政の支出を増やすべきであり、そのために自国の通貨で国債を発行できる国は債務のリスクを気にすることなく財政政策を進めればよいというのがMMTです。