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MMTの目的は景気を回復させること

MMTの目的は、景気を支えることです。見方を変えれば、多くの人が、自分自身のこととして経済の成長を実感したいという思いを強めているからこそ、MMTが注目されるのです。「これまでの経済政策では、一人一人が満足できるだけの成長を感じることができなかった。だからそれに代わる、より強力な政策を進めて景気を回復させ、成長を心から楽しみたい」という一種の欲望が、MMTへの関心を高めているように思います。

経済が成長するということは、その国が生み出す付加価値の合計額が増えることを意味します。それは、企業の収益と就業者の給与が増加することにほかなりません。当たり前ですが、より多くの給料が手に入るなら、多くの人が喜びます。MMTは短期的には効果は期待されますが、長期的には経済に弊害を与える可能性があることは軽視できません。今の状況がいつまでも続くとは限りません。常にこの点を念頭にMMTを考えるべきです。

経済が成長することは、わたしたちにとってとても大切なことです。なぜなら、経済が成長すると、自然と気持ちの中に将来への「希望」が湧いてくるからです。それは、人生を充実させるために欠かせません。

人々が成長を実感し、明日への希望をかみしめるためには、富ができるだけ公平に分配されることが望ましいでしょう(所得の再分配)。同時に、資本主義社会では競争原理を発揮し、市場原理に基づいて効率的に経済資源を配分することが重視されます。競争や環境の変化に適応できないと、思ったように所得を増やし、資産を形成していくことは容易ではありません。わたしたちが生活を営む経済のメカニズム上、経済的な格差が発生することは自然なのです。同時に、格差から這い上がろうとして新しいことにチャレンジする人がいるからこそ、さらに競争が進み、経済が成長します。

ポイントは、これまでの経済政策が、人々に希望や、チャレンジする勇気を与えられるだけの成長を実現できたか否かです。

希望と勇気を与えられない経済政策

では、実際にリーマンショック後の世界経済の状況がどうなっているかを確認します。図7のグラフを見てください。

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(画像=ビジネス教育出版社)

2000年代前半、世界経済は全体として好況を謳歌しました。それを支えたのが、中国やインド等をはじめとする新興国における工業化です。工場の建設、生産機械の導入などが大規模に進み、中国は世界の工場としての地位を確立しました。

それによって、世界の人々は従来より低い価格でモノを購入できるようになりました。それに加え、2002年頃からは米国の不動産市場において住宅バブルが発生しました。この結果、米国の家計は住宅価格の高騰やそれに支えられた株価の上昇に熱狂し、借り入れを増やして消費を行ったのです。世界最大の経済大国である米国が住宅バブルの熱狂にわき、新興国経済の高成長が続いた結果、世界経済全体でも5%を超える高い成長が実現できました。

しかし、2008年9月のリーマンショックの発生と、その後の世界的な金融危機の発生を境に、世界経済の成長率は、がくん、と落ち込んでしまいました。

特に、世界経済の成長を支えた新興国の減速は顕著です。中国経済の成長率の低下は、その大きな原因です。長めの目線で考えると、世界経済は徐々に停滞に向かっているように見えます。

ユーロ圏ではギリシャなどで財政危機が発生しました。ドイツは財政の緊縮を各国に求め、景気は低迷しました。その状況の中で、人々は為政者や政府への不満を募らせました。それに反比例するように、将来への希望や、チャレンジするスピリットは高まりづらくなっています。

固定化する格差問題

背景には、富の偏在が進んでいることがあります。2011年、米国の金融街であるウォールストリートでは、「わたしたちは99%だ」というスローガンのもと、若者たちによる米国の政財界に対する抗議運動が発生しました。彼らが主張したことは、1%の人が大半の富を手にして経済格差が拡大している、政府は社会全体の不公平感が高まる状況を是正し、その他大勢の経済的な弱者に配慮せよということでした。世界全体で見ると、上位1%の最富裕層が半分以上の資産を保有しているというレポートまであります。

それを放置すると、格差が固定化されかねません。格差が固定化されてしまうと、チャレンジしようとしても、できない、挑戦が難しくなってしまう恐れが出てきます。勉強をしたいがお金がないから高校に行くことができないという状況は、格差の固定化の一例です。また、格差の固定化を理由「どう頑張っても、所得を増やすのは難しい」と思い込み、はじめからチャレンジすることを放棄する人も増えるでしょう。

それらは、経済の成長にとってマイナスです。また、格差が固定化すると、経済成長率が高まったことへの喜びを感じるよりも前に、一部の富裕層が株価や不動産価格の恩恵を独り占めしているといった不満が先行しやすくなってしまいます。

これは深刻な問題につながっています。米国では、オピオイド系の鎮痛剤の中毒に陥る人が増え、中毒死する人も増加しています。深刻な事態を受けて、トランプ大統領も「全国的な公衆衛生の非常事態」を宣言しました。

オピオイド中毒問題の一因は、米国の景気が回復したにもかかわらず、個々人のレベルでは生活が楽にならない、希望が持てない、幸せを感じられない状況にあると考えられます。働いても、生活が楽にならないことへの不満、孤独感、失望など、つらい現実から逃れるために薬物に手を出してしまう人が多いのです。

その問題は、米国の労働市場にも影響を与えた可能性があります。FRB元議長のジャネット・イエレンは、米国の労働参加率が低下している一因として、オピオイド中毒問題が関係している可能性があるとの認識を示しています。

MMTに対する期待

この結果、MMTを実践して景気を支え、一人一人が成長をより実感できる環境を目指すべきだという考えが、多くの人の共感を獲得しやすくなっています。MMTの提唱者は、政府が雇用に責任を持ち、債務発行により公共事業の財源を調達して雇用を生み出していくべきだと考えています。

成長が実感できないことへの不満や、チャレンジする意欲を低下させてしまった人にとって、こうした考え方は将来への希望を高めるよりどころになっているのでしょう。そうした感情の変化が、FRBの信用供与によってMMTを実践し、グリーンニューディール政策を進めようと主張するアレクサンドリア・オカシオ=コルテス米下院議員への人気につながっています。いつの時代も、わたしたちは経済の成長を求めています。それを持続的な形で実現していくことが大切です。