営業における新規開拓や既存取引先の与信管理など、様々な場面で活用される帝国データバンクの「信用調査報告書」。掲載されている情報は多岐にわたり、読み解き方次第で企業の実情を深く知ることができる。
この報告書を作成するための信用調査は、どのように行われているのか。調査員は企業のどこに注目しているのか。こうした疑問について、これまで2000を超える企業の調査を行ってきたという帝国データバンクの営業推進部 営業開発課課長 北野信高氏に話を聞いた。第1回は実際の調査の流れについて説明してもらった。
平成12年、帝国データバンク入社。内勤を経て、調査部門で延べ2000社の信用調査業務を行う。本社営業推進部に異動後、金融機関をはじめとする大口顧客の課題解決サポートを主な活動とする。

調査の善し悪しを決めるのは「事前準備」
――最初に、実際の調査の進め方を説明していただけますでしょうか。
前提として、調査は企業からの調査依頼に基づいて行われます。「どの企業から依頼を受けたのか」については、「依頼者非開示の原則」があるため、調査員には知らされません。
訪問してから1〜2時間の取材ですべての情報を聞き出すことは困難なので、調査結果の善し悪しは事前準備で決まります。
そのため、調査員は事前に当該企業の商業登記や不動産登記、ウェブサイトなどをチェックします。新聞記事や官報、企業が倒産した際に裁判所に届けられる債権者名簿といった様々な情報を確認した上で、訪問を行います。
――事前に網羅的に資料を収集した上で、訪問調査に行っているということですね。
そうですね。事前調査を行なった上で、企業に電話をして「信用照会が入ったので、取材に伺いたいのですが」とアポイントをとり、訪問するという流れです。
実際に取材に行くと、だいたい訪問先の社長から、「どこから調査の依頼を受けたの」と聞かれます。先程お話しした通り、調査員も知らないので、「どこなんですかねえ」という感じで、アイスブレイクしながら本題に入っていくことになります。
ちなみに、海外の場合、訪問して取材するというやり方はそれほど一般的ではないようです。海外は、デスクリサーチ型という形で、公開されている情報を収集、整理して、報告するというスタイルがほとんどです。
日本と韓国だけは、対面で調査を行うという習慣が根付いている珍しい国のようですね。
――アポイントはスムーズに取れるものなのでしょうか?
基本的に社長もしくは役員にご対応いただくことになるので、なかなかつかまえられないということもあります。しかし、私の場合はだいたい、8割5分とか9割ぐらいの確率で面談することができましたね。
――訪問前にはある程度の情報を把握しておくとのことですが、具体的にはどのような情報を押さえておくのですか。
商業登記と不動産登記といった情報は必ず事前に確認しておくことが社内でルール化されています。また、初回の調査でない限り、過去の調査結果も社内にストックされているので、その内容にも必ず目を通します。
さらに当該企業の業種も重要な確認事項の一つです。細かく分類すると日本には、1400種類程度の業種があり、それら業種ごとに商慣習も違えば、決済のやり方も異なります。そうした業界ならではの慣習を確認していくことは非常に重要なので社内においてもノウハウとして蓄積されています。
――事前準備の大切さは、どの業種でもある程度共通のものだとは思いますが、御社の場合、かなり体系化されているわけですね。
確かに事前準備は、どの業種でも重要ですが、実際に行うのは大変です。
そのため、弊社には情報収集を専門にやっているスタッフがいます。官報などに記載されている情報は、公開時にはまったくの無価値でも、半年後、調査を実施する際に必要になることもあります。そうした場合でも、情報が企業ごとに管理されているため、必要な情報を必要な時に取り出すことができるのです。
また弊社では、調査したデータを個社単位のみならず、マクロ視点でもどのように活用できるかという研究を行っている総合研究所があり、現在、一橋大学や滋賀大学などと提携して、データの活用方法の研究にも取り組んでいます。
「従業員の対応」「ポスト」‥調査員はここを見ている
――北野さんが調査する際、着目するポイントはありますか。
たくさんありますね。
これまで2000社以上の企業を調査してきた経験からすると、会社に入った瞬間、あるいは電話をしただけで、ある程度どんな会社かが分かることもあります。信じてもらえないかもしれませんが(笑)。
――具体的にはどのようなやり取りで判断できるのでしょうか。