日本企業はバブル崩壊後、米国企業の経営モデルを導入してきましたが、近年、強さが際立っている欧州企業が注目を集めています。

リストラなど大胆なモデルチェンジを繰り返し、「選択と集中」に特化した欧州企業を中心に、今回はその背景について見ていきましょう。

欧州企業

好調な欧州企業の背景と強さの秘密

ここ10年で欧州の名門企業は大きな躍進を遂げています。

フィリップス(オランダ)やシーメンス(ドイツ)、食品大手のネスレ(スイス)や化学のBASF(ドイツ)などはその代表格です。

この4社は2018年度の営業利益率がおおむね2桁で推移しており、同業の日本企業と比較すると大幅に上回る利益を生み出しています。

株式市場の評価で見ていくとその差は大きく、例えばフィリップスの売上高はパナソニックの約4分の1に過ぎないものの、時価総額ではフィリップスが1.7倍大きく、重電業界のシーメンスの時価総額に至っては、最高益を達成した日立製作所の約3倍。

ネスレに至っては日本の食品最大手の明治ホールディングスの約25倍の評価を市場から得ています。

このように欧州企業は、多岐にわたる成長性の高い分野で確固たるポジションを築いているのです。

その他にも2018年度の営業利益率では電力会社のイベルドローラ(スペイン)が15.5%、製薬会社のロシェ(スイス)が24.8%など、様々な分野で日本企業を圧倒しているのが現状です。

ではなぜ欧州企業が好調なのかというと、大きな要因は構造改革を決断して実行したことです。

先ほど挙げた企業各社はこの10年で会社の中心事業すら売却しているのです。

それに伴い活発なM&Aをして、ときにはドラスティックなリストラも断行し、既存の会社から脱却して全く新たな事業会社になったといっても過言ではない会社も存在します。

こうして「選択と集中」がビジネスの現場で実行出来たからこそ、成長の限界を打ち破ることに成功したのです。

躍進するフィリップス

成長著しい欧州企業の中でも代表格な存在がフィリップスです。

かつては家電メーカーであった面影はなく、ヘルスケア事業に完全移行し躍進が続いています。

現在のような事業構造になったきっかけは、2011年にフランス・ファン・ホーテン氏がCEOに就任してからと言われています。

ホーテン氏の最初の仕事はテレビや音響事業の売却をすることでした。

さまざまな分野に広がりをみせるフィリップスの事業を大胆に事業整理したのです。

そして売却益を元手にヘルスケア関連の企業を次々に買収していきます。

こうして2018年ごろになると、ほぼ全ての事業をヘルスケア関連へと様変わりさせることに成功しています。

この選択が飛躍のきっかけとなり、フィリップス社におけるヘルスケア事業の比率が増加するのに比例して収益性が向上しています。

2018年度の営業利益は前年比の13%増を達成し、売上高営業益は9.5%に達しています。

勝ち続ける事業の見極めが出来たのも、ホーテン氏の手腕が大きいといえるでしょう。

なぜなら手放した照明事業も赤字だった訳でなく好調で世界1位のシェアを占めていました。

しかし今がピークの時と見定めて見事売り抜けたのです。

もちろん既存事業に思い入れのある従業員からの反発もあったはずですが、新たな役員を10名投入し古参役員4名の影響力を弱めるなど、経営判断を貫けたことにより、現在のフィリップスがあるといえるでしょう。

会社を変える真のリストラとはなにか。シーメンスの場合

どうすれば会社が変わるのか、リストラによって再生した企業には独自の哲学があります。

例えば風力発電事業のシーメンス(ドイツ)の経営の軸は「ピクチャー・オブ・フューチャー(P0F、未来の絵)」と呼ばれる今後10年先の長期予測に基づいた経営戦略です。

その予測によって事業の大胆な入れ替えを検討しているのです。

事実、風力発電以外にIOT分野へ事業展開するためにソフトウェア企業を次々と買収して事業ポートフォリオを組み替えてきました。

そのベースとなっているのがPoFで描いた「絵」なのです。

このPoFはシーメンスの命運を握っており、膨大な労力を注いでいます。

例えば、技術部門の出身者からなる10人以上の専属チームを発足し、策定には半年から9ヶ月近くの時間をかけるといわれています。

PoF作成には5つの段階があります。

  1. PoFチームが分野ごとに情報収集して数百以上に及ぶ世界中のトレンドを整理します。ここには都市ごとのライフスタイルや地球全体のエネルギー需給、ITの進化など、さまざまな事柄が網羅されていると言われています。
  2. PoFで整理したトレンドを基に、事業対象の市場をさらに細かく精査します。
  3. 「2.」で精査した仮説を、投資家や大学教授、政府や消費者に至るまで、国内外問わず様々な人材と検証していきます。
  4. 仮説をまとめてPoFチームが1枚の絵を描きます。
  5. その絵を基に最終的な判断をシーメンスCEOや役員などによって経営決断を下します。

こうして描かれた1枚の絵によって、会社は迷うことなく事業撤退やリストラを決断できるのです。

また「選択と集中」という観点から見てもとても合理的でしょう。

現代は多数の事業を抱えたコングロマリット型経営ではなく、専門的な会社の方が環境変化への適応力や事業スピードも速いのです。

真のリストラとはときに残酷かもしれませんが、会社の生存戦略として誰かが優先順位を付けなければならないことも事実であり、ときに会社経営は民主的ではない側面があるのです。

事業撤退こそ真価が問われる

今は好調でも先行きが長くないと判断した事業は撤退することになります。

事業撤退は買い手がいない場合は解体することになり、売却する場合はいかに足元を見られずに高額で売るか、解体する場合は社会的な影響やリスクをいかに抑えられるか真価が問われるところです。

また拠点の閉鎖は必ず痛みが伴います。

欧州の優秀な企業は閉鎖自体を事業化し、従業員の能力開発や新たな職場に移る準備期間としたのです。

実際、世界の電力会社のベンチマークといえるイベルトローラは、2012年に閉鎖したスペイン・ラダ発電所にいた社員約90人のほとんどを、イベルトローラ内の新事業や他の事業所へ移し、従業員の多くは現在も仕事を続けています。

マイナスイメージがつきまとう撤退作業にまつわる有形無形コストをどう軽減するかも、その企業が強くなるためのポイントといえるでしょう。

まとめ 保身のために事業を抱えない強さ

日本も欧州のように成熟したマーケットが存在し、どちらも労働者を簡単に解雇できない文化的な特徴を持っています。

しかしリストラをせずに決断を遅らせ競争力が弱くなると、企業の生存も危ぶまれる可能性が高くなります。

現状維持ではなく、日本経済がさらなる成長を目指すひとつのヒントが欧州にあるのではないでしょうか。

そして、いかにして優秀な経営者を育てていくのか、国としての在り方が問われているのかもしれません。(提供: The Motley Fool Japan


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