持続可能な企業経営戦略として、ESGに注力する日本企業が増えている。ESG経営を目指す企業が配慮すべきESGの指針や、成功例である丸井グループの取り組みを参考に、ESG経営戦略で成功するポイントなどを紹介する。

持続可能な企業経営戦略ESGとは

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環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字で構成されるESG。この単語は、幅広い分野において、長期的かつ持続可能な成長の原動力となる、重要なキーワードとなっている。

ESG経営戦略とは、「長期的かつ持続的なESG価値の追求は、短期的な成果のみならず、長期的かつ持続的な企業価値を生む」という観点に根差している。

ESGの要素を重視する投資家や消費者が増加傾向にある近年、企業のESGに対する意識や取り組みは、直接的あるいは間接的に、収益やブランド価値に反映されるといっても過言ではないだろう。

こうした潮流を裏付けるかのような、調査結果も報告されている。ダウ・ジョーンズが発行する週刊投資金融情報専門紙バロンズ(Barron's)の調査によると、同誌の「サステナブル企業トップ100」に選ばれた企業の2017年の平均収益は29%と、S&P500インデックス企業の平均を7ポイント上回った。

ESG経営戦略を打ち出す日本企業が急増

日本においても、ESGを企業経営戦略の一部とみなし、企業価値創造についての方針と戦略を投資家に明示する「統合報告書」を発行する企業が急増している。

ディスクロージャー&IR総合研究所の調査によると、18年12月の時点で、統合報告書を発行した日本企業は465社に達し、そのうち9割が英語版も発行している。5年前には100社にも満たなかった事実を考慮すると、ESGへの取り組みに関する意識が、日本企業間で急激に広がっていることは間違いないだろう。

それにともない、ESG投資に強い関心を示す投資家も増えている。実際、日本はサステナブル投資市場で世界3位に位置することが、GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)による18年の調査報告書から明らかになった。

同調査によると、5つの主要市場(米国、欧州、日本、カナダ、オーストラリア/ニュージーランド)における18年のサステナブル投資総額は、30.7兆ドル(約3,355兆8,683億円)。日本のESG投資総額は、2兆1,800億ドル(約238兆2,894億円)に達している。

企業は、こうした投資家の意識や関心の高まりを経営戦略に反映することで、存続や成長の可能性をさらに高めることができるだろう。

ESG経営戦略の指針

具体的にESGに配慮した経営戦略とはどのようなものなのだろうか。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を参考に考えてみる。

これは、世界中で活用されているESGガイダンスで、気候変動や貧富格差、イノベーション、ダイバーシティ(多様性)、持続可能な消費、教育と福祉、平和と正義など、すべての人々が平和で幸せに暮らしていくうえで、解決すべき課題への取り組みを提案するものだ。

持続可能な開発に向けた17のグローバル目標と169のターゲットで構成されており、現在だけではなく、将来生じ得るリスクと機会の予想にも有効である。

環境保全への取り組み(Environment)

自社の事業活動が環境に与える影響を配慮し、ネガティブな影響を軽減・改善するための対策

例:温室効果ガス削減、生物多様性、省エネ、再生資源化、有害物質管理、スマートエネルギーなど

持続可能な社会の成長支援(Social)

安全性確保および生産性やダイバーシティ、ワークライフバランス向上への取り組み、社会・コミュニティーへの参画、エンプロイー・エクスペリエンス(従業員が組織や会社の中で体験する経験価値)向上への取り組み

例:顧客の需要に基づく商品・サービスの開発、戦略事業領域における業容拡大、成長分野の強化、ビジネスの国際化に応える、ワンストップソリューション(1ヵ所ですべての作業が完了する)の推進、身体障害者や女性技術者の採用、女性管理職の増加、長時間労働の抑制、育児休業取得の推進、大学、研究機関とのオープンイノベーションや地域活動への参加、次世代リーダーや若手技術者の育成など

企業統治(Governance)

コーポレートガバナンス・コードに準拠した経営、事業関連法規の順守、グループ企業統治体制の確立

例:BCP対策の推進・リスク対応力強化推進・情報セキュリティー活動の推進、教育の継続実施など

ESG経営を実現させるための4つのポイント

ESG経営への転換は、一夜にして成し遂げられるものではない。特に、これまでESGに無関心だった企業にとっては、組織全体の意識改革から構造改革まで、それ相応の時間と労力が必要だ。

経営を実現させるうえで重要な4つのポイントを押さえ、堅硬な基盤づくりから始めてみてはいかがだろうか。

価値の創造に焦点を置く

ESGにかかわる変革の目標は、企業のバリューチェーン全体、さらには社会全体に変化をもたらすことで、新たな価値を創造するだ。

しかし、社会や環境への還元を漠然とイメージするだけでは、ESG活動を行う目的や目標が、ステークホルダー(従業員から株主、消費者、取引先、地域社会まで、企業の利害に関係するすべての人々)に正確に伝わらない可能性もある。

そこで、「ESG活動を通し、どのような分野で、どのような価値を創造するのか」という点を明確化することが、最初の重要なステップとなる。 組織全体の目標を設定後、具体的な取り組みに関するガイダンス作成やプロジェクトの立案など、価値の創造に焦点を置いたアプローチが必要だ。

取締役会がESGに積極的に関与する

企業の取締役会が、ESG関連事項のモニタリングや決定プロセスに積極的に関与し、社会の声とも言えるステークホルダーの声に耳を傾け、自社のESG活動に反映させることが重要である。

世界28ヵ国、3万人以上を対象に実施された信頼度調査「エデルマン・トラストバロメーター」によると、投資家の66%は「投資の意思決定や推薦を行う前に、企業の取締役会を信頼する必要がある」と述べている。投資家の信用を得る意味でも、取締役会が重要な役割を担っていることは明らかだ。

また、サステナビリティ評価を役員報酬に組み込むなど、成果を目に見えるかたちで表すことも、モチベーションの向上につながる。

事業戦略とESG戦略の統合

事業戦略とESG戦略を個別のカテゴリーとしてとらえるのではなく、ESG活動を事業戦略の一部として組み込むことで、より調和のとれた有益な戦略を立案・展開できる。実際、ESGの観点から、中~長期の目標や課題を定め、経営・事業戦略に組み込む企業が、日本でも増えている。

ESG活動を通した競合他社との差別化など、統合思考を意識した戦略のフレームワーク作りが必要となるだろう。

また、リスクマネジメントにESGを組み込むことで、ESG活動によって生じるチャンスを最大限に生かし、損失を最小限に抑えることが可能となる。

ESG戦略を組織全体に浸透させる

取締役会やマネジメント層など、組織の一部がESGを意識しているだけでは、真のESG経営の実現は困難だ。トップから新入社員まで、組織全体がESGの倫理とESGに対する自社のアプローチや目標、価値観を理解し、一丸となって取り組む姿勢が成功のカギをにぎっているといっても、過言ではない。

ESG戦略を組織全体に浸透させるためには、定期的に質の高い研修を実施するなど、組織内部でESGリテラシー教育を充実させる必要がある。

ESG経営成功事例、丸井グループの三層構造とは?

ESG経営を成功させている日本企業例として、「健康経営銘柄(健康経営に優れた上場企業)」や「なでしこ銘柄(女性活躍に優れた上場企業)」、「新・ダイバーシティ経営企業100選プライム」など、数々のESG銘柄に選定された実績をもつ、丸井グループの取り組みを見てみよう。 丸井グループは、ESG投資と長期投資の加速を予測し、15年頃から本格的にESG経営への取り組みを開始している。

「情報開示」「取り組み」「企業文化」という三層構造を、同時進行させる手法を採用しており、情報開示の強化により、取り組むべき課題や目指すべき方向性が見えるようになれば、それが企業文化の見直しにもつながるという発想に基づいている。

開示情報の質の高さが、企業価値に反映する

情報開示分野では、すべてのステークホルダーとの価値創造を目的とする「共創経営レポート」や「共創サステナビリティレポート」といったさまざまな報告書の発行、ESG推進部の設置など、サステナビリティを基盤とする、グループのビジネスモデルと未来像を明確にしている。

開示情報が質の高いものであればあるほど、社会からの評価が高まり、企業価値の向上に貢献するという好循環を生みだしている。

顧客と従業員のインクルージョンを推進

また、「インクルージョン(包括)」を取り組みのメインテーマとし、顧客のダイバーシティやインクルージョンの推進に向け、年齢や性別、国籍、身体的な特徴の壁を打ち砕く戦略を展開している。

定期的な研修の結果、ほとんどの店舗社員が、高齢者や障害者、ベビーカー利用者、外国人などさまざまな人々への気遣いやコミュニケーションスキルを習得する「ユニバーサルマナー検定」を取得しているという。

従業員の「ワーキング・インクルージョン」の向上も、同社にとっては重要な課題だ。17年には従業員1人当たりの年間残業時間を42時間とし、退職率を6.8%から2.3%へと改善。女性の活躍推進というグローバルな課題対策として、女性の上位職志向を促進するためのプログラムを希望者に提供している。

健康経営にも積極的

さらに、近年注目を集めている「健康経営」にも積極的に取り組んでおり、収集した労働環境に関するデータの可視化・共有に努めているほか、上層部を対象とするレジリエンス・プログラムの実施や、健康マスター検定受検を推奨している。

「健康経営」とは、従業員の心身の健康の維持・増進を支援することで、生産性や業績、しいては企業価値の向上につなげるという、経営戦略の一つと言えるだろう。

優秀なESG銘柄の地位を確立

特記すべきは、これらの取り組みに関するプロジェクトの指揮を、希望した従業員がとっている点だ。上から命じられて行動するのではなく、自らの意思やアイデアに基づいて行動することにより、情熱をもってプロジェクトに取り組めるシステムが構築されている。

こうした数々の有意義な取り組みが功を成し、GPIFが選定する3つのESG指標(『FTSE Blossom Japan Index』『MSCI ジャパンESGセレクト・リーダーズ指数』『MSCI 日本株女性活躍指数(WIN)』)のすべてに、3年連続で選ばれる快挙を成し遂げたほか、「健康経営銘柄(健康経営に優れた上場企業)」や「なでしこ銘柄(女性活躍に優れた上場企業) 」「新・ダイバーシティ経営企業100選プライム」としても知名度を上げるなど、国内外に限らず、多方面から高評価を得た。

持続可能な企業経営戦略としてのESGとは、投資家をひきつける手段にとどまらず、ESGを企業文化そのものに取りこむことで、長期的にわたり価値のある利益を生みだすための原動力なのである。