社会・環境貢献を目的とする「ESG投資」が注目を集めている。しかし、「ESGの概念や目的については、あまりよく分からない」という人もいるだろう。

あらゆる企業や組織にとって、存続の可能性を維持するためのキーワードとされるESGの仕組みや活用方法、最新の市場動向などを紹介する。

現代のキーワード「ESG」とは

Shutter Rich/ shutterstock.com, ZUU online
(画像=Shutter Rich/ shutterstock.com, ZUU online)

環境や社会、経済の成長を維持するための取り組みである、「サステナビリティ(Sustainability、持続可能性)」という概念は、日本を含む多くの国で定着している。これは「企業は利益を追求するだけではなく、社会への還元や責任を果たすことで、組織の存続の可能性を高める」という考えに基づくものだ。

「ESG」は企業が持続可能な成長を目指すために必要な3つの要素、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治ガバナンス(Governance)の頭文字をとったもので、これら3つの要素は、「サステナビリティ分野において、企業や組織、国家の取り組みがどれほど進歩しているか」を評価する指針として活用されている。

こうした指針は、投資家が企業の行動を評価し、その将来の財務パフォーマンスを予測するうえで、非常に重要な意味をもっている。言い換えれば、現在、大きな成功を収めている企業であっても、ESGの概念を理解し、実際の行動に移さない限り、長期的な成長は期待できないということである。

ESG、評価基準と潜在的リスク

ESGについての評価基準や考慮すべき潜在的リスクについては、主に以下の点に焦点が当てられる。

環境――環境面への配慮

事業活動によって生じる環境リスクは、空気や土地、水、生態系、人間の健康に悪影響を及ぼす潜在性である。企業の環境活動には、資源の管理から環境汚染の防止・改善、ESG要因に関する情報の開示などが含まれる。

例:温室効果ガスの削減や廃棄物の管理、省エネ、節水といったサステナビリティポリシーを、どのように実践しているのか

社会――職場・社会地域における責任

企業の活動は、社会の広範囲に影響を与える。従業員や顧客、地域住民の健康と安全の確保から労使関係の促進、人権の保護、生産性と従業員のモチベーション、ブランドロイヤルティ(消費者の忠誠心)の向上まで、多様な社会リスクに対する配慮が必要となる。

例:従業員の人権や労働環境に対し、どのような配慮がなされているか/サプライヤーや顧客、事業を行う地域社会との関係を良好に維持するために、どのような取り組みがなされているか/職場における多様性を促進しているか

企業統治―情報開示、株主の権利を守る責任

ガバナンス・リスクは、企業の運営方法に起因するものだ。取締役会の多様性確保や説明責任の強化、株主とその権利の保護、情報の報告と開示といった企業統治活動を通じ、企業ブランドの独立性と多様性、企業のリスク管理、過剰な役員報酬の抑制などの分野に取り組む姿勢が評価につながる。

例:コーポレート・ガバナンス・システムが明確に定義されており、利害関係者間で利害のバランス調整が行われているか/企業の長期戦略をサポートするツールとして、効果的に活用されているか

ESGが注目され始めた背景

サステナビリティやESGが重視される背景には、「将来の世代の需要を満たす能力を損なうことなく、現在の需要を満たす」という、重要なミッションがある。

環境汚染や自然災害、金融危機、所得格差、高齢化社会など、人類はさまざまな問題や課題に直面している。人類や地球が存続していくうえで不可欠な要素を認識し、課題の解決に向けて取り組む姿勢こそが、持続的な成長につながると考えられている。

「責任投資原則(PRI)」とリーマンショック

こうした意識は、比較的早い段階において、一部の企業間で芽生えていた。1990年代後半には、非営利団体グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)が『サステナビリティ報告書』の初版を発行したのを機に、節電や節水、二酸化炭素の排出量を配慮する企業が増加。しかし、当時はあくまで「組織内部で心掛ける環境への配慮」の域にとどまり、現在のように、企業の存続をかけたミッションというレベルには達していなかった。

決定的に世界に広がるきっかけとなったのは、2006年、国連環境計画(UNEP)ファイナンスイニシアチブと国連(UN)グローバルコンパクトが発表した「責任投資原則(PRI)」だろう。

PRIは、すべての投資家が、ESG問題を投資の意思決定に組み込み、個人的な投資目標を社会全体の目標と一致させるための、フレームワークとなった。

その後、米国のサブプライム住宅ローンを発端に、世界の金融市場を混乱に陥れたリーマンショック(08年)により、資本市場における短期的な自己利益追求の弱点が浮き彫りとなった。この出来事を機に、長期的な利益創出への意識が高まったことも、PRIへの署名の増加につながったものと推測される。

PRIには、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、キッコーマン企業年金、損害保険ジャパン日本興亜株式会社など、日本企業も多数署名しており、18年6月の時点において、署名機関数は2,000を突破している。

ESG投資とは

PRIの発表は、投資家の意識に変革をもたらした。投資家間で、企業にESGを遵守する経営方針を求める声が高まり、投資の意思決定において、従来のキャッシュフローや利益率に関する財務情報だけではなく、非財務情報であるESGも重視する機関投資家が増加した。

これが、「サステナブル投資(Sustainable Investment)」「責任投資(Responsible Investment)」とも称される「ESG投資」といわれる投資法である。

また、社会や福祉、教育分野への投資に、より焦点を当てた「インパクト投資(Impact Investment)」や「倫理的投資(ethical investing)」を含む、「社会的責任投資(SRI)」にカテゴライズされる場合もある。

しかし、SRIが社会的倫理観に焦点を当てているのに対し、ESGは「長期的に企業の価値を高める手段」の要素が強い点が大きく異なっている。

ESG投資の種類

ひとことにESG投資といっても、さまざまな分野や種類がある。サステナブル投資の普及促進につとめる協働組織GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)は、ESG投資を以下の7つにカテゴライズしている。

1.ネガティブ/エクスクルーシブ・スクリーニング(Negative/Exclusionary Screening)

人間や環境にネガティブな影響をおよぼす可能性が考えられる、特定のセクターの企業を投資対象から除外する投資戦略

例:武器、アルコール、タバコ、ギャンブル、化石燃料

2.ポジティブ/ベスト・イン・クラス・スクリーニング(Positive/Best-In-Class Screening)

ネガティブ/エクスクルーシブ・スクリーニングとは対照的に、ESGに優れた企業やプロジェクトに投資する戦略

3.国際規範スクリーニング(Norms-Based Screening)

経済協力開発機構(OECD)、国際労働機関(ILO)、国際連盟、ユニセフが定める国際規範に基づき、最低基準を満たしていない企業の株や債券を、投資対象から除外する投資戦略

例:人権問題、環境問題、児童労働

4.ESGインテグレーション (ESG Integration)

財務情報に加え、ESGに関する情報(非財務情報)を、投資の意思決定プロセスに組み込む投資戦略

5.サステナビリティ・テーマ投資(Sustainability Themed Investing)

サステナビリティに関連するテーマに沿った、ファンドに投資する戦略

例:クリーンエネルギー、グリーンテクノロジー、持続可能な農業

6.インパクト/コミュニティ投資(Impact/Community Investing)

社会的または環境的な問題の解決に取り組む、企業やコミュニティー、プロジェクトに投資する戦略

社会的弱者や十分な支援を受けていない地域や事業などを、対象とする場合が多い

7.エンゲージメント・議決権行使型(Corporate Engagement And Shareholder Action)

1~6の投資戦略とは異なり、株主の権利である議決権を行使し、ESGに関連する企業の行動や意思決定に働きかける戦略

SRIからESG投資へ、日本の潮流

日本においてサステナブル投資、あるいはESG投資が活発となった要因は、複数挙げられる。

欧米諸国で環境への配慮や企業の社会責任に対する意識が高まった1990年代、日本においても、社会的責任投資(Socially Responsible Investment)という概念が広まった。99年には、国内初のSRIファンドとして、「日興エコファンド」が設立されている。

同ファンドの運用資産総額は、設立わずか4ヵ月で1,000億円に達し、国内の投資家による環境配慮への関心の高さを示した。しかし、従来のSRIは社会的要素が強く財務リターンが低い傾向が強かったことから、徐々に下火となった。

2015年、PRIにGPIFが署名したことが転機となり、安倍政権が経済成長戦略の一環として、継続的な民間投資を喚起。17年には、金融庁や経済産業省、環境省がESGの促進を支援する、ガイドラインや行動規範を続々と発表した。

こうした追い風を受け、ESG投資のイメージは、「財務リターンの低い投資」というネガティブなものから、「社会や環境を考慮することで、より大きなリターンを生みだす投資」という、ポジティブなものへと一新されつつある。

日本が世界3位のサステナブル投資市場に

近年のポジティブな潮流は、サステナブル投資市場の動向にも反映されている。

GSIAの調査によると、世界全体のサステナブル投資は、16~18年にわたり、5つの主要市場(米国、欧州、日本、カナダ、オーストラリア/ニュージーランド)で34%増加し、18年には総額30.7兆ドル(約3,355兆8683億円)に達した。

いずれの市場もサステナブル投資の運用資産は増加傾向にあるが、日本の成長は目覚ましく、2年間で運用資産307%増という、桁違いの成長を記録。総額2兆1,800億ドル(約238兆2,894億円)に達し、世界3位のサステナブル投資市場となった。

世界最大のサステナブル投資市場である欧州は、14~16年に比べると、成長速度に失速が見られるものの、運用資産総額は14兆750億ドル(約1,540兆786億円)と過去最高となっている。

欧州に続くサステナブル投資規模を誇る米国は、14~16年より5ポイント増の11兆9,950億ドル(約1,312兆7,996億円)を記録した。

地域により異なるESG投資動向

ESG投資で圧倒的な割合を占めるのは、ネガティブ/エクスクルーシブ・スクリーニングだ。16~18年の成長率は31%と堅調で、全体の19.8兆ドル(約2,166兆9,538億)以上が、ネガティブ/エクスクルーシブ・スクリーニングに投じられている。

続くESGインテグレーションは、過去2年間で69%増加し、運用資産総額は17.5兆ドル(約1,915兆3,811億円)。

エンゲージメント・議決権行使型の運用資産総額は9兆8,340億(約1,076兆1,954億円)、成長率は17%と、上位2つの戦略に比べて小規模ではあるものの、日本においてはもっとも優勢なESG投資戦略となっている。

日本のESG投資トップ3

地域により、ESG投資に対して異なる特色が現れる点も興味深い傾向だ。

欧州においては、国際規範スクリーニング、エンゲージメント・議決権行使型、ネガティブ/エクスクルーシブ・スクリーニングの順番に、投資に占める割合が高くなっている。これに対し、米国においては、サステナビリティ・テーマ投資、インパクト・コミュニティー投資、ESGインテグレーションという順番となっている。

日本のトップ3は、エンゲージメント・議決権行使型、ESGインテグレーション、国際規範スクリーニング。企業と株主がお互いに理解や信頼関係を深め、両者間の建設的な対話や情報の開示といったエンゲージメントを通し、「企業価値の向上と持続的成長をともに目指す」という考え方が、日本では強いものと考えられる。

サステナブルトップ企業

具体的に、「サステナブルな企業」とは、どのような企業を指すのだろうか。

ダウ・ジョーンズが発行する週刊投資金融情報専門紙バロンズ(Barron's)が、18年に発表した「サステナブル企業トップ100」でトップ5に輝いた企業は、世界最大のコンピュータネットワーク機器開発企業シスコ・システムズ(Cisco)、クラウドコンピューティング・サービス企業セールスフォース・ドットコム(salesforce.com)、大手家電量販店ベストバイ(Best Buy)、財務・経理・税務ソフトウェア企業イントゥイット(Intuit)、大手電子機器企業HP(旧ヒューレット・パッカード)。

このランキングは、米国に本社を置く、市場価値が上位1,000社の株式公開企業によるESG関連の取り組みを、300のパフォーマンス指針に基づき評価したものだ。

「世界一サステナブルな企業」シスコの取り組み

1位のシスコは、07年からスコープ1(直接排出量、例:自社工場・オフィス・車両など)、スコープ2(エネルギー起源間接排出量、例:自社の消費エネルギー)の、温室効果ガス排出を41%削減し、電力の80%を再生可能エネルギー源から得ている。

さらに、国内で第2の規模を誇る、ノースカロライナ州リサーチトライアングルパークのキャンパスでは、20年会計年度までに100%再生可能エネルギー、廃棄物ゼロ、ウォーター・ニュートラリティー(製品に使った量と同じ量の水を、自然に還元する取り組み)の実現を目標に掲げている。

ポジティブな影響力をもつサステナブル・ターゲットを積極的に設け、着実にクリアしていくという姿勢は、ESG向上を目指す世界中の企業の模範となっている。

個人投資家向けESG投資

機関投資家に比べると、情報量やネットワーク、資本が限られている個人投資家にとって、いざESG投資を行うとなると戸惑うことも多いだろう。そうした人々のために、個人投資家向けの具体的な投資法を紹介する。

ESG指数を活用する

ESG指数は、企業のESGパフォーマンスを評価し、数値化したもの。

代表的なものでは、S&PグローバルBMI2500銘柄から、ESG分野で優れた企業を選定するダウ・ジョーンズの「サステナビリティ・ワールド・インデックス(DJSI World)」や、ロンドン証券取引所傘下FTSE Russellが日本企業を評価する「FTSE Blossom Japan Index」など、さまざまな指数がある。

企業理念やESG活動について、リサーチする

統合報告書や年次報告書、ホームページ、データサービスなどを通し、企業理念やESG活動、ポリシーなどをリサーチすることもできる。

日本においては、統合報告書を作成する企業が年々増加傾向にあるほか、環境省が「環境情報開示基盤」と呼ばれる、企業と投資家のESG対話プラットフォームの実証事業を行っている。投資の判断材料として、可能な限り幅広いリソースを活用し、質の高い情報を入手するとよいだろう。

ESG関連ファンドに投資する

投資の専門家に、銘柄選択から運用まで一任できるファンド(投資信託)は、投資について一から学ぶ時間のない投資初心者に、最適な資産運用法の一つだ。

「損保ジャパン・グリーン・オープン(愛称ぶなの森)」「朝日ライフSRI社会貢献ファンド(愛称あすのはね)」「女性活力日本株ファンド」など、ESGの視点を重視した豊富なファンドから、自分の理念や目標に合ったものを選ぶと良いだろう。

ESG投資の注意点

自分と企業の価値観を一致させる

自分が理想とするESGの取り組みと企業のESG価値が一致し、初めて価値のある投資となる。単に、ESG関連の銘柄というだけで投資するのではなく、「ESG投資から何を求めているのか」「どのように社会や環境に貢献したいのか」など、自分の中の価値観を明確にする必要があるだろう。

バランスのとれたポートフォリオを心掛ける

ESGを優先事項とする企業や投資家が増えているとはいえ、従来の投資商品と比較すると、選択肢が狭い場合もある。例えば、ESGに焦点を当てたミューチュアルファンドやETF(上場信託投資)の多くは、大型株を中心に構成されているため、多様性に欠けるというデメリットがある。

ESGを重視するあまり、ポートフォリオのバランスが悪くならないよう、注意が必要だ。

ESGは、企業が健全な経営を維持すると同時に、社会と人間により良い環境作りを支援するうえで欠かせない理念として、今後ますます拡大していくものと予想される。それとともに、ESG投資も加速していくだろう。