遺産相続の際に必要な手続きとは?

遺産相続の手続き
(画像=PIXTA)

遺産相続とは、故人の財産を次の世代に引き継ぐことである。遺産相続においては、まずは相続人同士が話し合い、故人の財産をどのように分けるか決める必要がある。これを遺産分割という。

遺産分割が終われば、相続税の申告や不動産の登記といった、税務・法的手続きを行うことになる。各種手続きには法定期限があるため、滞りなく終わらせなければならない。

遺産相続を本気で考えるべき理由

遺産相続というと、資産家だけに関係する話だと思っている人がいまだに存在している。

しかし、2015年1月1日より、相続税の基礎控除が大きく縮小された。基礎控除とは、相続税のかからない範囲のことである。遺産が基礎控除の範囲内に収まっていれば、相続が発生しても相続税の申告をする必要はない。

基礎控除が縮小されたことで、相続税の申告が必要な人が大幅に増加した。昔ながらの感覚で「相続税の申告は必要ない」と思っていると、税務署から連絡が来て、多額の相続税の納付を求められるといった事態になりかねない。

相続税対策を怠ったがために、遺族が借金をして相続税を納付するような事態も発生しているという。早めに家族で相続について話し合い、遺産分割や相続税の申告について、意見をすり合わせておくことが大切だ。

遺産相続の対象になる財産

遺産相続の対象になる財産というと、現預金や不動産をイメージする人が多いだろう。遺産相続の対象になる財産は、主にプラスの財産・マイナスの財産に分けられる。

それぞれ、例として次のようなものが該当する。

プラスの財産
・現預金
・有価証券
・土地・建物・山林・田畑などの不動産
・金
・貸付金
・特許権・著作権・借地権
・ゴルフ会員権

マイナスの財産
・住宅ローン・自動車ローンなどの借入金
・家賃や光熱費などの未払金
・保証債務(連帯保証人の地位)

そのほか、自動車や宝飾品、絵画や骨とう品も遺産分割の対象となる。相続人同士で遺産分割の話し合いをする前に安易に持ち出してしまうと、後々トラブルに発展するケースがあるため、注意が必要だ。

また、退職金や生命保険金は遺産分割の対象にはならないが、相続税の課税対象になることも押さえておきたい。

誰が遺産を相続する?

続いて、相続人について詳しく解説していく。

●法定相続人の相続順位と法定相続分

遺産相続で故人の財産を受け取れる人は、法定相続人として民法で厳格に定められている。法定相続人とは、配偶者と血族のことだ。民法で定められたそれぞれの相続順位・法定相続分は、下記の通りだ。

第1順位:配偶者・1/2 子ども・1/2
第2順位:配偶者・2/3 父母や祖父母などの直系尊属・1/3
第3順位:配偶者・3/4 兄弟姉妹・1/4

例えば、妻と子どものいる男性が亡くなった場合、第1順位の妻と子どもが法定相続人となり、遺産を相続する。その場合、男性の父母や兄弟姉妹は法定相続人とはならない。

亡くなった男性に子どもがおらず、妻と父母がいた場合、第2順位の妻と父母が法定相続人となる。この場合も、兄弟姉妹は法定相続人にはならない。兄弟姉妹が法定相続人になるのは、子どもも直系尊属もいない場合のみだ。

遺産相続に関しては、誰が法定相続人なのかをきちんと確認し、共通認識を持って話し合いを進めることが大切だ。

●法定相続人と相続人は違う

民法では、法定相続人や相続順位、法定相続分が定められているが、法定相続人にしか財産を遺せないというわけではない。詳しくは次章で解説するが、遺贈という手段を使えば、法定相続人以外にも遺産を遺すことができる。

また、法定相続分は相続税や遺留分の計算のために定められているが、実際の遺産分割では、話し合いによって誰がどのぐらい遺産を相続するかを決めることになる。必ずしも法定相続分のとおりに遺産分割しなければならないというわけではない。

法定相続人はあくまで民法で定められた相続人のことで、これとは区別して、実際に遺産を相続した人のことを、相続人と呼ぶ。

●遺贈という手段もある

遺贈とは、遺言を遺すことで、特定の人に遺産を渡す手続きのことだ。遺言できちんと指定すれば、法定相続人以外の親族や、血縁関係がない相手にも遺産を遺すことができる。

例えば、内縁の妻や子どもの配偶者、養子縁組していない再婚した配偶者の連れ子、お世話になった友人などを指定するケースがある。また、法定相続人が第1順位の妻と子どもになる場合も、遺贈によって父母や兄弟姉妹に遺産を遺すことができる。

ただし、故人の遺志であったとしても、法定相続人の遺留分を侵害して遺産を遺すことはできない。遺留分については、後の章で詳しく解説する。

●代襲相続と法定相続分の計算方法

代襲相続とは、本来相続すべき人が亡くなっている場合、その人の子どもが相続人となることをいう。代襲相続が発生するのは、子どもと兄弟姉妹に限られている。

例えば、妻と子どものいる男性が亡くなったとする。その男性が亡くなるより先に、子どもが亡くなっており、子どもは生前に男性にとっての孫を2人生んでいた。

こういったケースでは、子どもの代わりに孫2人が男性の代襲相続人となる。法定相続分は、本来の子どもの法定相続分となるため、孫が2人いたとしても、1/2となる。つまりこのケースでは、妻1/2・孫1/4・孫1/4が法定相続分となる。

遺産相続の流れと手続き

相続が発生した際には、必要な手続きを行わなければならない。具体的には、まず死亡診断書を受け取って死亡届を役所に提出する。その後、葬儀や年金受給停止の手続きを行う。

あわせて生命保険金の受取手続きをし、健康保険・介護保険の資格喪失手続きなどを役所で行う。また、公共料金や電話料金の解約、金融機関への連絡も必要だ。

その後、遺言書の有無を確認し、遺産分割に移る。遺産分割協議を行い、内容を遺産分割協議書にまとめる。遺産分割が終われば、その結果をもとに不動産の登記手続きなどを行う。

また、被相続人が確定申告をしていた場合は、死亡後に相続人が準確定申告をしなければならない。さらに、遺産総額が基礎控除を超える場合、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内に、相続税の申告をする必要がある。

遺産分割の方法

続いて、遺産分割の方法について詳しく解説していく。

●遺言書の有無を確認する

遺言書があれば、内容に従って遺産分割を進めるケースがほとんどだ。遺言書がない場合、法定相続人同士で話し合って遺産を分割する。

遺言書は、誰かに託している場合もあれば、金庫に保管している場合もある。また、公証役場で遺言書の検索を行うことも可能だ。

●遺産分割協議をする

遺言書の有無を確認したら、遺産分割協議に移る。

遺産分割の方法には、現物分割や代償分割といった方法がある。例えば、次のような遺産構成で、ABCという3人の子どもが法定相続人である場合を考えてみよう。

・遺産構成
現預金3,500万円
自宅不動産1,500万円
有価証券1,000万円

A……現預金2,000万円
B……自宅不動産1,500万円、現預金500万円
C……有価証券1,000万円、現預金1,000万円

これは遺産をそのままの形で分割する、現物分割に該当する。一方、ある遺産を相続した人が他の相続人に自分の財産を渡す方法を、代償分割という。例えば、下記のようなケースだ。

・遺産構成
現預金2,000万円
投資用不動産4,000万円

A……投資用不動産4,000万円
B……現預金1,000万円
C……現預金1,000万円
AはB・Cに現預金を1,000万円ずつ渡す。

不動産など分割しにくい遺産がある場合、平等性を保つため代償分割を活用することがある。

話し合いで遺産分割が決まったら、遺産分割協議書を作成して遺産分割の内容をすべて記載し、法定相続人全員が署名捺印する。

遺産分割の注意点

続いて、遺産分割の注意点について解説する。

●相続放棄と限定承認

遺産分割の前に、相続放棄や限定承認について相続人の間で話し合う必要がある。

相続放棄とは、プラスの財産・マイナスの財産を含めて、一切の遺産を相続しないという手続きをいう。例えば、現預金以上に借金がある場合、相続放棄をすれば返済義務を負う必要がなくなる。

限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ手続きだ。ただし、相続放棄が個人で手続きできるのに対し、限定承認は相続人全員で手続きをする必要がある。

相続放棄も限定承認も、家庭裁判所で手続きをすることになる。相続の開始を知った日から3ヵ月以内に手続きしなければ認められないため、早めに遺産の内容を確認しておきたい。

●遺留分とは

遺留分とは、法定相続人に認められる、最低限の遺産相続の権利のことをいう。遺留分が認められているのは、配偶者・子ども・直系尊属のみだ。兄弟姉妹は遺留分が認められていない。遺留分の効力が及ぶのは遺産の半分だが、直系尊属のみの場合は遺産の1/3になる。

例えば、4,000万円の遺産を持つ妻と子どものいる男性が亡くなり、生前に愛人にすべての遺産を託すと遺言書に記載していたとしよう。その場合も、遺産の半分、つまり2,000万円は遺留分の対象となる。2,000万円を法定相続分に沿って分割すると、次のとおりだ。

妻 1/2 1,000万円
子ども 1/2 1,000万円

つまり、妻と子どもはそれぞれ1,000万円ずつを法律に則って請求することが可能だ。これが遺留分であり、たとえ遺言であっても、遺留分を侵害することはできない。

相続対策のポイント①遺産分割に備える

相続対策には、いくつかのステップがある。相続対策をするなら、まずは遺産分割に備えることが大切だ。

●財産情報を整理しておく

いざ相続が発生してから、財産状況を確認するのは相続人にとって大きな負担になる。

生前に情報を整理し、通帳や印鑑、保険証券や土地の権利書などをひとまとめにして保管しておくようにしたい。使っていない口座がある場合は、手続きを済ませておくと混乱が生じにくい。

財産状況を整理するときは、プラスの財産とマイナスの財産を洗い出し、一覧にしておくとよいだろう。

●遺言書を作成する

財産状況を整理したら、遺言を遺すかどうかを決める。遺言を遺す場合は、自筆証書遺言か公正証書遺言かを選ぶ。

自筆証書遺言とは、自分で作成するタイプの遺言のことだ。作りやすい反面、作成方法に不備があると、無効にされてしまうケースがある。

公正証書遺言とは、公証人に作成してもらい、公証役場で保管するタイプの遺言を指す。手数料などが発生するが、無効になりにくいというメリットがある。

●家族で財産について話し合う

遺言を遺す場合も残さない場合も、遺産についてはできるだけ家族で話し合いの場を設けておくようにしたい。お互いにコミュニケーションをとっておくことが、後のトラブルを防ぐことにつながる。

準確定申告の仕組みと申告期限

被相続人が事業などを行っていて毎年確定申告をしていた場合、相続人が準確定申告をしなければならない。準確定申告の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から4ヵ月以内だ。手続きを怠ると、期間に応じて延滞税などのペナルティが課されるため、注意が必要だ。

準確定申告で控除できる医療費は、死亡の日までに被相続人が支払った医療費に限定される。相続人が支払った医療費を準確定申告で控除することはできない。

また、妻を扶養していた男性が亡くなって準確定申告をし、その後、妻が息子の扶養となった場合、息子の確定申告や年末調整でも重ねて扶養対象とすることが認められている。

相続税の仕組みと計算方法

続いて、相続税の計算方法について解説する。

●相続税の計算の流れ

相続税を計算する場合、まずは基礎控除を計算する。基礎控除は、600万円に法定相続人の人数をかけ、3,000万円を足して算出する。遺産総額が基礎控除の範囲内であれば、相続税の申告をする必要はない。

次に、遺産を法定相続人が法定相続分に従って分割した場合の相続税率をかけて各人の相続税額を算出する。そのうえで、算出された相続税額を合算し、実際の遺産の取得割合に応じて相続税額を按分する。

相続税の計算は複雑なので、税務署に出向いて直接相談するか、税理士などの専門家に任せたほうが安心だ。

●配偶者の税額軽減

相続税には、配偶者の税額軽減という制度が存在する。被相続人と一緒に財産を築いてきた配偶者が遺産を相続する場合、相続税額が大幅に減額されるという制度だ。

配偶者が遺産を相続する場合、1億6,000万円までは相続税が課税されない。ただし、遺産分割がまとまらなければ税額軽減を適用することはできないため、くれぐれも早めに遺産分割に取り掛かることが重要だ。

●小規模宅地の特例

配偶者など特定の親族が被相続人が住んでいた自宅に引き続き住む場合、面積に応じて小規模宅地の特例という制度を適用できる。小規模宅地の特例を適用すれば、相続税は大幅に減額される。

自宅以外に、事業用の土地を、事業を引き継いだ相続人が引き続き事業用として使用する場合なども、小規模宅地の特例を適用できる。

相続税の税務調査

続いて、相続税の税務調査について解説していく。

●調査官は何を見ている?

税務署は登記情報を法務局から取り寄せている。また、保険金を支払ったとき、保険会社は税務署に報告を行う義務がある。このような事情により、税務署は不動産や保険金については、正確な情報を得ているということを知っておく必要がある。

また、税務署が照会をかければ、金融機関は情報開示の義務がある。そのため、過去10年の通帳をさかのぼって、不審点がないかチェックしているというケースもある。預貯金の動きに不自然な点があれば、調査で確認されることになるだろう。

税務署は、被相続人の所得税の申告書などから、被相続人の所得状況を把握している。所得税の申告書として提出された所得状況と、相続税の申告書に記載された財産情報にあまりにもかい離があれば、税務署に不審に思われることになるだろう。

●3年以内の贈与に注意

生前に贈与した財産であっても、相続開始前3年以内の贈与については、相続財産に含めて計算する必要がある。相続財産に含めて計算する時点で、一度支払った贈与税は差し引かれるため、二重課税にはならない。

相続税を計算するときは、過去3年以内の贈与について、きちんと相続財産に含めているか確認しておくようにしたい。

相続対策のポイント②相続税を節税する方法

相続対策のポイントとして、ステップ①では遺産分割に備える方法を紹介した。続いては、相続税の節税方法を紹介する。

●生前贈与で財産を移転する

通常、財産を贈与すれば贈与税が課税される。しかし、毎年110万円までの贈与であれば、贈与税はかからない。生前贈与で子どもや孫に財産を移転しておくことは、シンプルだが確実な相続税対策になる。

住宅取得資金や教育資金、結婚・子育て資金などを贈与すると、一定の金額まで非課税になる制度もある。銀行を通して手続きする必要があるが、うまく活用すれば一気に財産の移転を進められるだろう。

●生命保険の非課税枠を活用する

死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となる。しかし、法定相続人の人数に500万円をかけた金額までは、非課税枠として相続税の課税対象にはならない。

非課税枠を計算してもしまだ余裕があるようなら、保険に加入するだけで相続税を節税することが可能だ。

●二次相続を踏まえて考える

相続税対策は、二次相続を踏まえて行うことが非常に大切だ。一次相続とは、両親のどちらかが亡くなり、配偶者と子どもが遺産相続をするケースだ。二次相続とは、さらに遺された親が亡くなり、子どものみが遺産相続をするケースをいう。

一般的に、二次相続のほうが相続税が高くなる傾向がある。一次相続で配偶者への遺産の振り分けを大きくすると、配偶者の税額軽減を適用できるため、その時点での相続税額は小さくなる。しかし、そうすると二次相続で多額の相続税を負担しなければならなくなる。

相続税対策をする場合は、二次相続も踏まえてきちんとシミュレーションし、もっとも望ましい遺産の分割方法を検討するようにしたい。

民法改正で何が変わる?

2018年には、相続に関する民法の大改正が話題になった。改正内容のうち、主なものを2つ紹介する。

●配偶者居住権

これまで、配偶者が被相続人の自宅に住み続けるには、配偶者が自宅を相続する必要があった。しかし、自宅の評価額が高額な場合、配偶者は預貯金など他の遺産を相続することができず、結果的に生活苦に陥ってしまうケースがあった。

今回の改正で、自宅の所有権を他の相続人が相続したとしても、配偶者は配偶者居住権を得ることができるようになった。これによって、自宅だけでなく生活のために必要な預貯金も相続できるようになると予想される。

配偶者居住権については、2020年7月12日までに施行される予定だ。

●自筆証書遺言の方式緩和

これまで、自筆証書遺言を作成する場合、全文を自筆で書く必要があった。しかし、財産目録を自筆で作成するのは大変な作業で、現実的に作成が進まないというケースも見られた。

今回の改正で、財産目録は自筆で作成しなくてもよいこととなった。パソコンでも作成できるため、自筆証書遺言を選びやすくなったと言えるだろう。自筆証書遺言の方式緩和は、2019年1月13日から施行されている。

相続対策のポイント③納税資金の準備

相続対策の最後のポイントは、納税資金の準備だ。特に不動産や自社株など、現金化しにくい資産が大きな割合を占めている場合、納税資金の確保は最重要事項となる。

極端に預貯金の割合が低いなら、不動産を売却して、預貯金の割合を上げておくことが大切だ。そのうえで、預貯金を子どもや孫に贈与すれば、納税資金の準備とあわせて相続税の節税効果も期待できる。

相続時の負担を軽減する遺言代用信託とは

相続が発生すると、被相続人の預金に関しては、入出金が停止されることになる。そのため、葬儀費用などをそこから引き出せないといった不都合が生じていた。

入出金の停止を解除することも可能だが、そのためには相続人全員の戸籍抄本や遺産分割協議書などが必要になり、現実的には解除が難しいケースが多かった。

こういった問題を解決するための方法として、遺言代用信託がある。

遺言代用信託とは、万一の場合にあらかじめ指定しておいた受取人に資金を一括で渡せるという商品だ。配偶者や子どもを受取人にしておくことで、いざというときも手続きに苦労せず、スムーズにお金を引き出すことができる。

相続が発生したときは、各種手続きや葬儀の準備などで何かとお金が必要になる。万一の場合に備えて、あらかじめ準備をしておくと安心だろう。