2015年の相続税法の改正以来、相続税の納税義務がある人は大幅に増加した。従来の感覚で「相続税はかからないだろう」と対策を怠った結果、遺族が大きな負担を抱えることになるケースは少なくない。今回は相続税の計算方法を解説し、対策のポイントを紹介する。

相続税とは?

相続税
(画像=PIXTA)

相続税とは、相続や遺言によって財産を受け継いだときにかかる税金のことである。相続税の税率は10%から55%まであり、取得した相続財産が大きくなるほど高い税率が適用される。

相続税の納税義務があるのはあくまで相続財産を取得した人だ。親族であっても、相続財産を取得しなければ相続税の納税義務は発生しない。

相続税には、基礎控除と呼ばれる「相続税のかからない範囲」が存在する。相続が発生しても、相続財産の評価額が基礎控除の範囲内であれば、相続税を納める必要はない。

そのため、「うちには相続税がかかるほどの財産はないだろう」と考えてしまう人も少なくない。しかし、相続発生後に自宅不動産などを評価した結果、基礎控除を超えていて相続税が発生してしまったというケースが多発している。

こうした事態が発生する背景には、2015年の相続税法の改正がある。改正により基礎控除が縮小されたことで、相続税を支払わなければならない人の対象が拡大した。5年以上前に一度相続税の試算をしたという人も、改正後の相続税法で改めて計算し直す必要があるだろう。

相続税は金額が大きいからこそ、相続税対策の有無は納税額にダイレクトに影響する。相続税対策を怠ったがために、数十万円から数百万円近く納税額が多くなってしまったというのはよくある話だ。

早めに財産状況を確認し、家族で話し合いながら相続税対策を進めるようにしたい。

相続税の計算の流れ

続いて、相続税の計算の流れを解説する。まずは次の①から③の手順が重要だ。

①法定相続人を確定し、基礎控除(相続税のかからない範囲)を計算する
②相続財産の一覧を作成し、おおよその評価を行う
③相続財産の総額が基礎控除の範囲内かどうかを確認する

ここで相続財産が大幅に基礎控除を下回るようであれば、相続税対策は必要なく、相続発生後も相続税を納める必要はない。遺産分割の方針だけ家族で話し合っておけば十分だろう。

基礎控除にギリギリおさまっている、もしくはギリギリ基礎控除を超えているという場合は、相続税対策によって安全ラインまで相続財産を圧縮することが望ましい。そうすれば、相続税を納税する必要なくなり、遺産分割だけですむ。

基礎控除を大幅に上回るようなら、きちんと相続税を計算し、計画的に相続税対策を進めていく必要がある。

相続税の基礎控除

相続税には、「相続税がかからない範囲」である基礎控除が存在する。基礎控除の計算式は、下記のとおりだ。

3,000万円+600万円×法定相続人の数

例えば、夫・妻・子ども2人の4人家族で、夫の相続における基礎控除を計算する場合、法定相続人は妻と子ども2人の合計3人となる。そのため、基礎控除は4,800万円だ。

預貯金や有価証券、不動産などをすべて合算した金額が基礎控除である4,800万円以下であれば、相続税を納める必要はない。しかし、4,800万円を超える場合は、相続税の申告が必要となる。

相続税を計算する前の下準備

相続税の計算をする前に、計算の根拠となる情報を確定しておく必要がある。計算前に整理しておきたい情報は、主に法定相続人・相続財産・分割方法の3つだ。

法定相続人を確定する

相続財産は、誰もが受け取れるわけではない。財産を受け取る権利のある人は、法定相続人として民法で定められている。

法定相続人には、配偶者と血族が該当する。配偶者はどんな場合も法定相続人になるが、血族には下記のように優先順位が定められているため、血族だからといって必ずしも法定相続人になるわけではない。

第1順位:子ども
第2順位:父母や祖父母などの直系尊属
第3順位:兄弟姉妹

例えば、夫・妻・子ども2人の家族構成で夫の相続が発生した場合、法定相続人は妻と子ども2人となる。父母や祖父母、兄弟姉妹がいたとしても、法定相続人にはならないため注意が必要だ。

子どもがおらず夫・妻の2人家族で、遠方に夫の両親がいた場合、夫の相続が発生したときの法定相続人は妻と夫の両親となる。兄弟姉妹が法定相続人となるのは、子どもも父母・祖父母もいない場合に限られる。

ただし、法定相続人でなければ相続財産を一切受け取れないというわけではない。本人が遺言を遺しておけば、遺留分に注意する必要はあるが、法定相続人以外に相続財産を引き継がせることもできる。血族でなくとも、友人など縁の深い相手に財産を遺すことも可能だ。

相続財産の一覧を作成する

法定相続人が確定したら、相続財産の一覧を作成する。相続財産には、預貯金などの資産と借入金などの負債があり、どちらも相続財産として遺族に引き継がれることになる。

資産に該当するものには、預貯金・不動産・有価証券・貴金属などがある。また、宝飾品や美術品なども資産価値が高ければ相続財産に含めなければならない。その他、著作権や貸付金、自社株など目に見えない資産も相続財産として評価する必要がある。

負債に該当するものは、住宅ローンや自動車ローンなどだ。また、連帯保証人になっていた場合、連帯保証人の地位も引き継がれることになる。

もれがないよう相続財産をピックアップし、一覧にしてまとめておくことが大切だ。こうしておくだけで、相続発生後の家族の負担は大きく軽減される。

相続財産を分割する

相続税の計算結果は、どのように遺産を分割するかによって違ってくる。そのため、相続財産をどのように分割するか、ある程度方針を固めてから相続税を試算する必要がある。

自社株は事業を行っている長男に、投資用不動産は次男に、自宅不動産と預貯金は配偶者に、といった方針を大まかにでも定めておくようにしたい。シミュレーション上の分割方法は何度でも見直せるため、複数の遺産分割のパターンを作成しておくのもいいだろう。

相続財産の評価方法

相続税の計算において、財産は相続税法にのっとって評価することになる。現預金や借入金は残高がそのまま評価額になり、有価証券や金は時価評価を相続税評価として用いる。

多くの人が悩むのは不動産の評価額だ。建物の場合はシンプルで、毎年5月ごろに自宅に届く固定資産税評価明細に記載されている評価額がそのまま適用される。

土地の場合は、毎年国税庁から発表される路線価を用いて評価することになる。路線価とは、その道に面する土地の1平方メートル当たりの評価額のことだ。

路線価に土地の面積をかけることで、おおよその土地の相続税評価額を知ることができる。

ただし、土地の形状が複雑な場合や、道に面していない場合などは、調整率をかけて計算しなければならない。厳密な評価額を知りたいときは、専門家に相談するようにしたい。

相続税を計算するときの注意点

法定相続人を確定し、相続財産を洗い出したところ、基礎控除の範囲内だった。相続税対策は必要ないだろう……。

そう考えていたところ、退職金や生命保険金などであっさり基礎控除を超えてしまい、結局多額の相続税が発生してしまうというケースもある。そのため、相続税を計算するときに注意したいポイントを紹介する。

退職金や生命保険はみなし相続財産になる

在職中に亡くなった場合、死亡退職金が支払われることがある。また、生命保険に加入していた場合は、配偶者や子どもが保険金を受け取ることもあるだろう。

じつは死亡退職金や保険金も、みなし相続財産として相続税の対象となる。ただし、全額を相続税の対象とすると、遺族の生活を脅かしてしまう可能性があるため、それぞれ非課税枠が設けられている。

非課税枠の計算式は下記のとおりだ。

500万円×法定相続人の数

つまり、夫・妻・子ども2人の家族構成で夫の相続が発生した場合、法定相続人は妻と子ども2人の合計3人なので、非課税枠は1,500万円となる。死亡退職金、生命保険金それぞれ1,500万円までなら、相続税の対象にはならない。

3年以内の贈与財産は相続財産に含める

相続開始前3年以内に、相続人に財産を贈与していた場合、贈与した分は相続財産に含めて計算する必要がある。

例えば、夫から子どもに500万円を贈与し、その2年後に夫が亡くなり、子どもは相続で1,000万円の財産を取得した。このケースでは、500万円を相続財産に含めて相続税を計算することになる。

500万円の贈与を受けた際に納付した贈与税は、子どもの相続税から控除されるため、二重で税金を徴収される心配はない。

3年以内の贈与は無効とされることをよく理解し、元気なうちから早めに相続税対策をしておくことが重要だ。

相続税の計算手順

最後に、相続税の計算手順を簡単に解説する。実際に相続税の申告が必要な場合は、税務署に直接相談するか、専門家に依頼するようにしたい。

相続財産全体にかかる相続税を計算

相続税の計算では、まず民法が定める法定相続分に従って相続財産を割り振り、相続税額を計算する。このステップでは、実際に誰がどのぐらいの相続財産を取得したかは関係ない。

民法が定める法定相続分は下記のとおりだ。

配偶者1/2、子ども1/2
配偶者2/3、父母・祖父母などの直系尊属1/3
配偶者3/4、兄弟姉妹1/4

配偶者と子ども2人という場合、配偶者1/2、子どもはそれぞれ1/4が法定相続分となる。

相続財産を正確に評価したら、債務や葬式費用を控除し、基礎控除を差し引く。その後、法定相続分に従って各法定相続人に相続財産を割り振る。

各法定相続人の取得金額が出たら、相続税率をかけて税額を計算する。最後に、各法定相続人の相続税額を合算して、相続税の総額を出す。

各人ごとに負担する相続税を計算

民法の法定相続分に従って相続税の総額を計算したら、その後実際の相続財産の取得割合に応じて、相続税を按分することになる。

相続税の総額に、相続財産の取得割合をかけて各人の相続税額を算出する。

3年以内の贈与があった場合、以前納めた贈与税を控除する。また、配偶者または一親等の血族以外が相続財産を取得した場合、2割加算が発生する。

さらに、配偶者が相続財産を取得した場合、1億6,000万円までなら相続税がかからない。こういった調整項目を各人ごとに計算し、最終的な相続税額を計算する。

特例や控除に注意

相続税には、さまざまな特例や控除が存在する。こういった制度を知らずに活用しないままだと、相続税額が高くなってしまう可能性がある。

代表的なのは、小規模宅地の特例だ。小規模宅地の特例とは、要件を満たせば土地の評価額を最大80%軽減できるという制度だ。

配偶者が引き続き自宅に住む場合や、不動産とともに事業を引き継いだ者が引き続き事業を継続する場合などに適用できる。

小規模宅地の特例は、相続税の申告をしなければ適用できない。小規模宅地の特例を適用すれば相続税が発生しないという場合でも、申告だけは必要になるため、注意が必要だ。

相続税の申告が遅れると不利になる

相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内だ。

しかし、相続発生後は、遺産分割や各種手続きに追われることになる。相続税の申告まで手が回らないと感じる人も多いだろう。

だからといって相続税の申告をしないと、本来払う必要のない税金が発生してしまう可能性が高い。例えば、罰則にあたる加算税や、申告が遅れた期間に応じてかかる延滞税を納める必要が出てくるリスクがある。

遺産分割がまとまらないと、優遇税制を適用できないこともある。申告期限に注意しながら、相続税のことも遺産分割の場で話し合い、お互いにとって不利にならないようにすることが大切だ。

相続税対策は家族の資産を守ることにつながる

基礎控除の縮小によって、相続税は身近な税金の一つになった。相続は、親にとっても子どもにとっても話題にしにくい内容だ。だからといって避け続けていては、家族の誰にとってもいい結果を生まない。

早めに相続について話し合い、相続税を計算して相続対策をすれば、家族全体の資産を最大化することができるだろう。