
私がリーダーを務める渉外課には、目標達成へのモチベーションが低い部下がいます。コミュニケーション能力も高く、やる気を出せばどんどん数字をあげられると思うのですが、本人にはその気がないようです。せっかくの能力を活かしてもらうには、どのような指導が求められますか?
潜在的なものを含めて能力はあるのに、それに見合った実績をあげていない――という若手行職員は珍しくない。ひと昔前は、「同僚に負けたくない」「目標を達成してボーナスをたくさんもらいたい」「同期の中ではトップで昇進したい」などと競争を意識することが普通だった。
ところが最近の若手は、競争から一歩離れたところに価値観を見出し、自分を追い込んで目標に立ち向かう気にはならないようだ。能力があるのにそこそこで推進の手を止めてしまう部下を、目標に向かってどのように動かせるかで、リーダーの評価は決まってくる。
その部下がすでに個人の目標を達成しており、意図的にペースを調整しているのであればともかく、目標未達にもかかわらず途中で投げ出すのは問題だ。かといって「数字をあげてこい!」と叱咤しても逆効果でしかない。
このような若手行職員に対しては、次のような点に留意して指導・育成しよう。
認めていることを伝え意欲につなげよう
①能力を活かしきれていないことを自覚させる
人は自分が上司や周囲から認められ、期待されていることが分かると意欲が湧いてくるものである。
そこで「あなたは高い能力を有しており、上司としても期待している」ということを伝えるとともに、「実績が不十分なのは能力を活かしきれていないことに原因がある」と理解させよう。そのうえで、長所・得意分野を伸ばす方向で指導や目標設定を行えば意欲が湧いて、能力もフルに発揮されよう。
②仕事の範囲と責任を明確にする
部下の士気が下がってしまう原因の1つとして、自分の仕事に意味を見出せないことが挙げられる。上司から指示された仕事をこなすだけでは、どうしてもモチベーションが低下してしまうのだ。
部下に仕事を任せるときは、目標数値だけでなく、仕事の範囲と責任を明確にする必要がある。「自分が目標未達であっても、ほかのメンバーがカバーしてくれるだろう」といった甘い考えを持っているようであれば払拭させることが重要だ。チームの一員として、目標達成に対する責任を負っていることを自覚させなければならない。
③目標とノルマの違いを認識させる
ノルマ廃止の風潮の中で、数値目標そのものを否定する傾向もあるが、ノルマと目標は別物である。「目標」とは本人が納得していることが前提となる数値であり、上司からの一方的な押しつけで決められた数値は、ただの「ノルマ」にすぎない。
欧米企業においても数値目標は存在する。また、スポーツ界においても目標タイム等を設定し、そこに向かって日々研鑽を重ねているように、目標は本人の能力開発を図るために必要なだけでなく、その内容や難易度が人材育成に大きく影響するのである。
良い取組みをしっかり褒めることも大切
④推進のサポートと正しい評価を行う
金融機関の営業担当者に課される目標は多岐にわたる。その推進方法やペースなどを本人に任せきってしまうと、どこから手をつければよいのか正しい判断ができず、時間だけが過ぎていく事態になりかねない。
そこで、取組みの優先順位やスケジュール、推進方法などを一緒に考え、部下を孤立させないことが大切である。
また、部下の活動や実績についてはきちんと評価するようにしたい。うまくできたこと、良い取組みについては褒めて、できなかったことについては原因分析を含め改善策を一緒に考えよう。
⑤成功体験を積み上げてもらう
モチベーションが上がらない若手行職員の多くは、目標を達成した経験がなく、自分に対して自信を持てていない。
そこで、たとえ低い設定であっても本人が掲げた目標であればそれを尊重し、その目標が達成できたときには褒めてあげよう。これによって、目標達成という明確な根拠に裏付けられた自信を得ることができる。その繰り返しによって自信が深まるとともに、モチベーションも上がってこよう。
Point
・数値目標を伝えるだけでなく、チームの一員として責任を負っていることを自覚させる
・低い目標でも達成の成功体験を積み上げてもらい、自信とともにモチベーションを上げる
岩瀬万里夫