毎年、世界中が高い関心を寄せるノーベル賞の発表。2019年の経済学賞には米国マサチューセッツ工科大教授のアビジット・バナジー氏(インド出身)、同大教授のエスター・デュフロ氏(フランス出身)、米国ハーバード大教授のマイケル・クレマー氏(アメリカ出身)が選ばれた。デュフロ氏は最年少(46歳)での同賞受賞で、女性としては史上2人目、そのうえバナジー氏はデュフロ氏の夫で、見事に夫婦そろって栄誉に輝いた。

受賞の理由は、「ランダム化比較試験(RCT)」というアプローチを用いて世界的な貧困緩和策の研究を試みたことにあるという。環境問題の解決にも活用されているRCTとはどういった実験で、3人の研究はどのようなところが画期的だったのだろうか。

RCTを用いたことで、貧困緩和策の有効性を厳密に検証可能に!

ノーベル経済学賞,世界の貧困軽減
(画像=PIXTA)

国連が悲願として掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」のなかでも17の国際目標における筆頭に挙げられている。「貧困」はグローバルに最重要課題となっており、これまでにも様々な緩和策が検討されてきた。しかしながら、単純で単一的な要因によるものではないだけに、様々な主張が飛び交うばかりで、各々の緩和策が本当に有効なのかの厳密な検証が難しかった。

そこで、ノーベル経済学賞を贈られた3人はRCTに着目した。RCTはRandomized Controlled Trialの略で、仮説に基づいて考案した施策の有効性を克明に検証できることに大きなメリットがあるという。

この手法がよく用いられているのは医療の領域で、特定の疾病患者などといった実験対象者を無作為(ランダム)に2つ以上のグループに分け、それぞれに異なる処置を行うのが特徴だ。例えばAグループの患者には従来通りの治療を施し、Bグループの患者には新たな治療法を試す(トライアルする)。

その後それぞれの患者の身体状況をモニタリングし、違いを詳しく比較していく。2つのグループの実験対象者をランダムに抽出し、片方には従来通りの治療を用いることで違いが浮き彫りになる。それにより新たな治療法の効果が特定しやすくなるということだ。

バラマキ型の従来施策は無力。何が本当に有効かを判定!

では、3人がこのRCTを用いたことで、数々の貧困緩和策に関してどのようなことが判明したのだろうか。例えば、インドでは学校内にカメラを設置すると欠勤する教員が減り、結果的に子どもたちが十分な授業を受けられて成績が向上したという。

また、ケニアでは子どもに虫下しの薬を投与して腸内寄生虫の駆除を行うと、学校の欠席率が下がった。これに対し、同じくケニアの学校教員に性教育の研修を行った実験では、10代の妊娠率や性感染症の感染率低下といった期待通りの効果は得られなかったという。

えてして従来の貧困緩和策は、「お金に困っているなら、教科書や給食を無償で提供すればいい」という発想に囚われがちだったかもしれない。だが、こうして3人はRCTという客観的な判定を用いるとともに、現場での実証に徹することで、貧困撲滅につながる有効策をあぶり出していったのだ。

実際、一律的に教科書や給食の無償提供を行ってもその効果は芳しくなかったことが3氏の検証でも明らかになっている。その一方で、本当に援助を求めている子どもたちにターゲットを絞ると、彼らのみならず全体的な教育水準まで大幅に向上するという。

デュフロ氏はとあるマスコミの取材に、次のような趣旨のコメントを述べている。

「そもそも貧しい人たちが戯画化されており、彼らを助けようとする人々でさえ、様々な問題が何に根差しているかを真に理解していないという思いが研究の出発点となっている」

結局、今まで盛んに議論が繰り広げられてきた空理空論を科学的に実証し、「どれが有効でどれがムダなのか」を的確に仕分けしたことこそ、3氏が築き上げた大きな功績なのだろう。

※当記事は2020年1月現在の税制・関係法令などに基づき記載しております。今後、税務の取扱いなどが変わる場合もございますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。(提供:確定拠出年金スタートクラブ


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