新型コロナの影響が各地へと広がるなか、世界経済を減衰させるリスクとして原油価格の下落が指摘されています。
日本は原油輸入国であるため、原油価格が安くなるとガソリン代が安くなってお得だと思われがちですが、実は原油価格が下落すると世界経済に大きな悪影響となりやすいです。
そこで今回は、原油価格の下落が起きる原因を、過去の相場を分析しつつ解説します。
原油価格を決める指標やOPECとOPECプラスの違いなども合わせて解説します。

原油の価格はWIT原油先物が指標となる
原油は株式や為替と同じように、需要と供給のバランスによって価格が日々変動しています。
株価をチェックするなら取引所の市場を見るように、原油の価格もある取引所の市場をチェックします。
それがアメリカにあるWTI(West Texas Intermediate)原油先物です。
原油と聞くと、アラブあたりをイメージしてしまいますが、現在の原油埋蔵量をランキングすると1位はベネズエラで2位はサウジアラビア、10位までにロシアやアメリカといった先進国も含まれており、原油が埋蔵されている範囲は広いです。
そのため、原油の指標となるのはWTI原油先物の他に、欧州原産の北海ブレント原油先物、中東産のドバイ原油スポット価格もあり、世界3大原油指標と言われています。
その中でWTI原油先物が重要視され、世界経済の指標として注目されているのは、取引量と市場参加者が非常に多く、流動性多と取引の透明性が高いことが理由に上げられます。
原油は生活に欠かせない
原油の価格が乱高下するのは、常に一定の需要があるからです。
たとえば、日本に運ばれた原油は重油・軽油・灯油・ガソリン・LPガスなどの石油製品に加工され、船や車の燃料に使われ、あるいはプラスチックの原材料として消費されます。
仮に、原油が世界から消えてしまえば、乗用車は動かず、工場も稼働せず、衣服といった生活に必要な物まで無くなってしまいます。
私達の生活を支えている必需品といっても過言ではありません。
2018年の石油消費量は上位5カ国だけでも約20.8億トン、輸入額は約5,183億ドルという巨大な市場となっています。
これだけ生活に根深く浸透し必要とされる原油ですが、それだけに産油国間の交渉が大きな問題となってしまいます。
原油の主な産油国とOPEC
本記事では原油の主な産油国を、日常的に原油を産出して主要産業としている国とします。
原油は現代の生活に欠かせない必需品となりましたが、原油を産出する国にとっては国を支える産業でもあります。
たとえば、埋蔵量・生産量が共に2位のサウジアラビアは、オイルマネーの代表格ですが、国内の財政収入の8割を原油に依存しています。
輸出総額の約9割が原油で、労働者人口の80%を外国人労働者が占めており、基幹産業である原油産業やサービス業の重要な役割を担っているのも問題視されています。
サウジアラビアを始めとする、原油が国の大黒柱となっている産油国にとって、原油の価格が乱高下するのは死活問題です。
下落すれば輸出額が大きく減り、一方で上限知らずに騰貴してしまうと原油の輸出量が減ってしまい、結果的に輸出額が減る可能性があります。
理想的なのは原油価格がある程度高い状態を維持することで、原油産出国の利益を守ることです。
OPEC(石油輸出国機構)は原油産出国の利益を守るために組織されました。
OPECはサウジアラビアを中心に、イランやイラク、クウェート、サウジアラビアなど、全部で14カ国が加盟している組織です。
年2回総会が開催され、原油生産量や価格の調整などをしています。
最盛期は世界全体の産油量の60%を占めていましたが、近年ではロシアやメキシコなどの非OPEC主要産油国が台頭してきました。
それでも、現在の産油量の40%以上を占めているため、原油価格に大きな影響を与える組織なのは変わりません。
OPECプラスと協調減産
OPECプラスとは、OPECに参加してはいないが原油産油国として大きな影響を与えるロシアなどを加えた会合です。
2014年以降、新興国を始めとした経済の鈍化を受け、原油の消費量は伸び悩み、原油が余りだしました。
加えて、アメリカがシェール層から石油や天然ガスを抽出できるようになり、一気にエネルギー資源大国へと成長。
2015年には1バレル100ドルから50ドルまで大幅な下落となりました。
原油の暴落は長期化したことを受け、OPECは非OPEC主要産油国だったロシアを加えて会合を開き、原油価格を押し上げる方針で一致しようとしました。
これが最初のOPECプラスになります。
原油価格を押し上げる方策として重要視されたのが協調減産であり、各国で生産枠を設定することで原油が余る状態を避けようという内容です。
対立するOPECプラスと不参加のアメリカ
2016年の初会合から、原油価格は騰貴と下落を繰り返しながらも、全体的に価格を上げていました。
1バレル約32ドルだったのを、2018年8月頃までに70ドル以上にまで押し上げることに成功。
しかし、2018年9月頃から米中の貿易摩擦が勃発し、中国経済の減速が予想されると原油価格は50ドル台まで下落してしまいます。
OPECプラスの会合で再び減産調整が合意されると原油価格は回復していきますが、2020年に事態が大きく動きます。
2020年1月より中国で猛威を振るう新型コロナの影響で、1バレル60ドルまで回復していた原油価格は、2月末までに約47ドルまでに下落。
そして、3月に行われたOPECプラスでOPECとロシアの間に対立が生まれてしまいました。
2017年より始まり、3月末まで予定されていた協調減産ですが、新型コロナの影響を考えOPECは期間を延長し、更に減産をするべきだと主張しましたが、ロシアは追加減産に合意しませんでした。
それどころか、3月末に協調減産が終了し、4月以降は減産の義務が無くなると公式で発表し、原油が過剰に流入するのではないかという危機感を与えてしまいました。
結果、原油価格は1バレル20ドルを下回るほどの下落となりました。
大幅な下落を受け、ロシアもOPECの方針に協調することを発表し、OPECプラスに不参加だったアメリカもロシアとサウジアラビアの仲を取り持つなどの行動を明かしています。
これらのニュースが好材料となって原油価格は上昇傾向となっていますが、4月上旬に予定されているOPECプラス次第では反発する可能性も示唆されています。
原油下落の与える影響
本来なら、原油の価格が下落すると儲かる企業が増えていきます。
たとえば、ガソリンを大量に消費する航空業界や運送業界、火力発電の電力会社はコスト削減が期待できます。
プラスチックを原材料とするメーカーも、原価が安くなることで利益が増えます。
しかしながら、原油価格が下落すると、世界経済に大きな冷え込みを与えます。
原油の価格が下落すると与える影響を、過去の相場と比較してみましょう。
1990年~2019年までの間に、原油価格が前年比-30%以上になったのは、1991年・1997年・1998年・2008年・2014年・2015年になります。
それぞれの年の前年比と、日経平均の前年比を並べると下記になります。
- 1991年:原油価格-8% 日経平均-3.6%
- 1997年:原油価格-9% 日経平均-21.2%
- 1998年:原油価格-7% 日経平均-9.3%
- 2008年:原油価格-5% 日経平均-42.1%
- 2014年:原油価格-9% 日経平均+7.1%
- 2015年:原油価格-5% 日経平均+9.1%
この中で、1991年の下落はイラクのクウェート侵攻により、原油の供給がストップするのではないかという危機感から高騰した反発による下落のため、分析対象から除外します。
1997年~2015年までの下落に共通しているのは需要の冷え込みです。
1997年・1998年は石油需要をけん引していたアジア発展途上国の需要が伸び悩んだことで、石油が供給過多になってしまい暴落。
2008年はリーマンショックが起きた年で、世界経済全体の需要が落ち込み原油価格が暴落。
2014年・2015年はヨーロッパのデフレが拡大するのではないかという懸念と、2000年代の需要を担っていた中国が伸び悩んだこと、そしてアメリカがシェール層から原油を抽出できるようになったために原油価格が暴落しました。
これら過去の相場が影響して、原油価格が暴落するのは世界の景気が悪化するようになるのではないかという認識が広まっています。
そのため、原油価格の暴落に合わせてリスク資産の売却が加速し、売り圧力が強まる傾向にあります。
また、原油価格が下落すれば、原油を扱うエネルギー関連企業の株価が下落します。
日本と違い、原油に携わるエネルギー関連企業の影響が強いアメリカやロシアにとって、それらの企業の下落は連動する株価指数の下押し圧力を強めることになり、市場に参加する投資家の不安を煽ってしまいます。
新型コロナの影響により需要が減衰し、原油価格の下落によって、特に心配されているのがアメリカのシェールオイル企業の破たんです。
これまで好調だったシェールオイル生産中堅企業のホワイティング・ペトロリアムは4月1日に米連邦破産法第11条(日本だと民事再生法に相当)を適用したと発表しました。
民事再生法の適用ということは、企業は新しい再生計画に基づいて再建を目指す方法のため、倒産とは違います。
しかし、株価は前日比-44.5%となり、多くの投資家が影響を受けてしまいました。
ホワイティング・ペトロリアムのみならず、シェールオイル企業を始めとしたエネルギー部門のデフォルトは増えると予想されています。
株価の暴落だけでなく、企業が発行した社債がデフォルトによって不良債権化すれば、リーマンショックと同じように企業の連鎖倒産もありえます。
まとめ
以上が、原油価格の下落が起きる原因の解説になります。
記事執筆時点ではまだ開催されていませんが、4月上旬に再びOPECプラスが開かれます。
そこでの会合で減産調整が合意すれば、原油価格の下落も押し留められる可能性が期待されています。(提供: The Motley Fool Japan)
免責事項と開示事項 記事は、一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスではありません。