会社や上司からのパワハラに耐えかねて訴えようと考えた場合、用意周到に立ち回る必要がある。

今回は、パワハラを訴える場合の手順や注意点、実際の裁判事例を紹介する。パワハラの定義や種類についても解説するので、「これはパワハラとして認められるだろうか?」と不安な人も、参考にしてほしい。

パワハラと指導はどう違う?パワハラと認められるケースを解説

パワハラ
(画像=PIXTA)

パワハラとはパワーハラスメントの略で、厚生労働省が次のように定義している。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

職場での優位性とは、必ずしも上司・部下といった職務上の地位に限定されるわけではない。人間関係や専門知識なども優位性となり得るため、部下から上司に対してパワハラが行われたり、同僚同士でパワハラが行われたりするケースもある。

よくあるパワハラの事例を紹介!あなたは当てはまる?

続いて、よくあるパワハラの事例を紹介する。「パワハラを受けているかもしれない」と考えている人は、どの項目に当てはまっているか確認しておくようにしたい。

身体的な攻撃

・蹴られる、殴られる
・物を投げつけられる
・髪を引っ張られる

分かりにくいケースでは、丸めたポスターで頭をたたかれる、椅子を蹴られるなどがある。直接的に暴力を振るわれていなくても、物理的暴力につながりそうな恐怖を与える行為は、パワハラに該当する。

精神的な攻撃

・大勢の人の前で無能扱いされる
・根拠のない悪いうわさを流される
・「ハゲ」「ブス」など低レベルな悪口を投げかけられる
・無視をされる

精神的なパワハラは、恥をかかせたり精神的に追い込んだりすることを目的として、しばしば意図的に行われる。本来関係のない社員もCCに含めて叱責のメールを送ることなども、パワハラに該当するケースがある。その他、パワハラとみなされる言葉には「ばか」「小学生並」「無能」「のろま」などがある。

人間関係

・一人だけ別室で仕事をさせられる
・他の同僚の仕事を手伝ったり、手伝ってもらったりできないよう指示される
・懇親会などに出席できないようにされる

対人関係を阻害し、孤立させる行為もパワハラに該当する。資料を一人だけ閲覧させないなど、業務に著しく支障をきたすような、たちの悪いパワハラも存在する。

業務範囲

・終業間際に大きな仕事を言いつけられる
・職種に見合わない草むしりや倉庫整理などの仕事を指示される

新入社員に、徹夜しなければ終わらないような難易度の高い仕事を任せっきりにするといったケースも当てはまる。また、営業職に草むしりを命じたり、事務職に荷物の運搬ばかりをさせたりするといった、もともとの業務内容とかけ離れた要求も、パワハラに該当する。

プライバシーの侵害

・机やかばんを物色される
・恋人や家族のことをしつこく聞かれる

その他、大勢の前で夫や妻の悪口を言う、知られたくない秘密を職場にもらす、有給休暇をとろうとしたら宿泊先や同伴者を尋ねられる、といった行為もパワハラに該当する。

パワハラを受けてしまったら――訴えるまでの5つのステップ

続いては、パワハラを受けて相手を訴えたいと考えた場合の手順を解説する。いきなり裁判に持ち込むと費用も労力もかかるうえにパワハラと認められないケースもあるため、きちんと順を追って対処することが大切だ。

ステップ1.相手と交渉する

もし、「話を大きくしたくない」「人間関係を損ねたくない」といった気持ちがあり、パワハラをしてくる相手と可能であれば良好な関係を維持したいと考えているなら、まずは相手に直接伝えてみるのも1つの選択肢だ。

パワハラをしている人は、自分の行為がパワハラに該当すると自覚していないことも少なくない。中には、相手が嫌がっていることにすら気づいていないケースもある。

そのため、「自分が不快に感じていて、やめてほしいと思っていること」を冷静かつ具体的に、断固とした調子で相手に伝えることが大切だ。それでも改善が見られない場合は、「この行為はパワハラに該当する。これ以上言っても続くようなら、しかるべきところに相談する」と改めて伝える。

それでも改善しない場合や、かえってパワハラがひどくなった場合は、次のステップに進む必要がある。相手が明らかに悪意を持っている場合や、相手と話をするのも嫌な状況なら、ステップ1を飛ばしてステップ2に進んでもかまわない。

ステップ2.上司や人事部、労働組合に相談する

続いては、上司・人事部・労働組合への相談を検討することになる。上司に相談するなら、パワハラをしてくる相手を監督する立場にある、できるだけ影響力や行動力のある人物を選ぶことが大切だ。

社内にパワハラ相談窓口などが設けられている場合は、活用するとよいだろう。また、人事部や労働組合に相談するという手段も考えられる。

相談するときは、「いつ、どんな状況で、どんなことをされたか」が客観的にわかるメモ書きを用意しておきたい。内容は簡潔にまとめ、感情をまじえず事実を書き連ねた方が信ぴょう性が高くなる。叱責を受けたメールなどがある場合は、プリントアウトしておくのもよいだろう。

上司や人事部から注意を受けても改善が見られない場合、外部機関を頼ることになる。外部機関に相談するときは、叱責されている最中の音声データや、ケガをしたときの写真なども用意しておくと、より事実関係を伝えやすくなるだろう。

ステップ3.労働局に訴える

外部機関に訴える場合、まずは労働局の「総合労働相談コーナー」を活用しよう。総合労働相談コーナーとは、解雇や賃金の引き下げ、パワハラ、セクハラといった労働問題を解決するため、厚生労働省が設置した相談窓口だ。

専門の相談員が面談や電話で対応してくれる。予約は不要で、利用料金もかからない。労働局はパワハラの実態調査をしたうえで、会社に働きかけたり、必要な専門機関を紹介したりしてくれる。

ステップ4.労働審判で訴える

労働局が会社に働きかけても改善が見られない場合、労働審判を活用して問題解決をはかることになる。労働審判とは、労働審判官(裁判官)と専門知識を有する労働審判員2名で構成された労働審判委員会が、話し合いによる調停を試みる紛争解決手続きだ。

裁判所が遠方の場合、テレビ会議で労働審判ができる場合もあるので、裁判所に相談するとよいだろう。労働審判は、裁判所への申し立て手続きが必要で、証拠をそろえた方が有利に進められることも多いため、この時点で弁護士に相談するケースも多い。

ステップ5.裁判で訴える

労働審判で解決しなければ、訴訟へと移行する。訴訟では、スムーズな解決をはかるため弁護士に依頼するケースがほとんどだ。

まずは無料相談などを活用して信頼できる弁護士を見つけ、証拠やこれまでの働きかけの記録などを提出しよう。

パワハラ訴訟では、損害賠償請求ができるが、弁護士費用の負担も発生するため、必ずしもプラスになるとは限らない。本当に訴訟を起こしたいのか自分に問いかけたり、訴訟に至る前に解決できるよう努めたりと、後悔のないよう進めていくようにしたい。

パワハラだと訴えられたらどうする?

現代社会では、逆にパワハラだと訴えられるケースも想定しておいた方がよいだろう。自分は助言や指導のつもりだったのに、ある日上司や人事部から連絡がきて、「新入社員の〇〇さんが、あなたに精神的なパワハラを受けたと主張しています」と言われる――そんな事態も想定される。

パワハラと訴えられた場合には、まずは冷静に自分自身の行動を振り返ることが大切だ。そして間違っても、パワハラだと主張した本人に厳しくあたったり、直接釈明したりするのは避け、上司や人事部に対して誠実に事実関係を報告しよう。

もし本人から直接「パワハラです!」と言われた場合には、軽く考えず、上司にその事実を報告するようにするべきだろう。その後は、上司や人事部に対して「このとき、こういう仕事のミスが発生し、このように指導しました」といったことを、具体的かつ客観的に伝えることが重要だ。「誤解を解く」ことに重きをおき、公明正大な態度で臨むようにしたい。

具体的なパワハラの訴訟事例を紹介

続いて、具体的にパワハラが認められた訴訟事例を紹介する。

Y店舗事件

店長代行のAは、店長Bに仕事の不備を指摘し、店舗運営日誌に「処理しておきましたが、どういうことですか?反省してください」と書き添えた。その後、話し合いの中でBが激高し、Aに暴力をふるう。

Aは管理部長Cに相談するが、Cは「いいかげんにせいよ、お前。おー、何を考えてるんかこりゃあ。ぶち殺そうかお前。調子に乗るなよ、お前。」などと声を荒げた。Aは心的外傷後ストレス障害(PTSD)になり、損害賠償を求めた。

判決では、店長Bと管理部長Cの行為に対して違法性が認められ、損害賠償請求が認められた。同時に、トラブルの発生には、Aの論理的に相手を問い詰める性格的傾向が影響しているとされ、損害額は60%減額された。

A保険会社上司事件

Aは上司から、次のようなメールを受け取った。メールの宛先には、職場の同僚も含まれていた。

「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当サービスセンターにとっても、会社にとっても損失そのものです」「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。……これ以上、当サービスセンターに迷惑をかけないで下さい」

Aは侮辱的な言葉を受けたとして、損害賠償請求を行った。

裁判では、退職勧告ともとれるメールの内容、相手を侮辱し気持ちを逆なでする文章、Aだけでなく職場の同僚にも送信された事実などから、名誉棄損に該当すると判断した。指導の限度を超えていることから、損害賠償5万円が認められた。

一方で、Aは課長代理の地位に見合った処理件数に達しておらず、その点を知った督促する趣旨であることは理解されるため、上司にパワハラの意図があったとは認められなかった。

いざというときに役立つ弁護士保険とは

突然の法的トラブルに備える方法として、弁護士保険の活用が考えられる。弁護士保険に加入して月々数千円の保険料を支払っておけば、トラブル発生時の弁護士費用に対して保険金を受け取ることができる。

今の時代、いざというときに備えて弁護士保険を活用するのは、効果的なリスクヘッジといえるだろう。

ただし、補償対象は弁護士保険加入後に「原因」が発生したトラブルなので、トラブルが発生してから弁護士保険に加入しても、そのトラブルに関しては保険金を受け取ることはできない。その点に留意して、今後に備えて弁護士保険を活用するようにしたい。

法的トラブルに備えておくことが大切

パワハラを含め、法的トラブルは意外と身近なところにある。強気に出ていた会社側が弁護士の登場により態度を軟化させるといったケースもある。いざトラブルが起きたとき、弁護士費用を支払えないばかりに、泣き寝入りを余儀なくされるのは避けたいものだ。今後のトラブルに備えて、弁護士保険などで必要な備えをしておくとよいだろう。