「免疫力」という言葉を目にしたことがある人も多いでしょう。

特に最近は「新型コロナウイルスに感染しないように『免疫力』を高めよう」といった文脈で使われるケースが増えています。

「免疫力」とはそもそもどのようなものなのでしょうか?また、高めることで新型コロナウイルスの感染を防げるのでしょうか?

この記事ではこれらの疑問を解説し、後半では酸化ストレスによって免疫機能がどう低下していくのかについても言及していきます。

田中岳史
監修・田中岳史
KRD Nihombashi院長

昭和60年 順天堂大学医学部卒業、順天堂大学第2外科学講座入局
平成2年 順天堂大学大学院卒業
平成5年 ケンブリッジ大学留学
日本消化器病学会指導医
日本外科学会認定医
日医認定産業医
宇宙航空医学認定医

「免疫力」という言葉は本来正しくない?

外国人女性,時計
(画像=PIXTA)

簡略化して説明すると、免疫とはウイルスなどの病原体から身体を守る仕組みのことです。

しかし、医学用語に「免疫力」という言葉はありません。免疫のシステムは非常に複雑で、その働きを明確に測定できる指標はないからです。

免疫システムについて、KRD Nihombashiの田中岳史院長は下記のように解説します。

「病原菌やその毒素が身体に侵入したとき、それを排除して病気にならないよう健康を保つシステムが免疫です。この免疫システムには「自然免疫」と「獲得免疫」という2つの種類があります。

まず病原菌などの異物を貪食細胞(有害なものを取り込み、消化し、分解する作用のある細胞)が、直接取込み、消化、分解処理します。これが自然免疫です。こうして処理した病原菌の情報をもとにある特定の病原菌専用の抗体を作らせ、より特異性の高い免疫機能を確立します。これを獲得免疫といいます。

こうした2段階の免疫機能が働くことによって、抵抗力は強く、効率よくなっていきます。自然免疫は弾幕掃射、獲得免疫は特定のターゲットを目標にした誘導ミサイルのようなもので、両者は車の両輪のように免疫という身体の防御機能を整えているのです」。

メディアなどで使われる「免疫力」という単語は、免疫機能全般の能力といった程度の意味で使われていると考えられます。

前述したように「免疫力が高まったこと」を明確に測定するのは困難ですが、免疫のシステムに良い影響、悪い影響を与える要素、および生活習慣については明らかになっている部分もあります。」

免疫の機能に悪影響を及ぼすものは

高血圧と免疫

高血圧は、日本に数千万人いると言われる生活習慣病の一つです。放置すると、脳卒中などの重大な病気につながる可能性があります。

「高血圧の人は免疫機能が不安定になりやすいと言われています。詳しい理由はまだ解明されていませんが、交感神経優位の自律神経の不安定、高い血圧による慢性的な血管の炎症などが免疫細胞の活動に影響を及ぼしていると考えられています」(田中院長)

脂質と免疫

血液中の脂質が増えすぎると、脂質異常症(高脂血症)という病気になります。この病気の原因には、食べすぎや運動不足などの生活習慣やストレスが挙げられます。

脂質異常症は、中性脂肪やコレステロールなどの脂質代謝に異常をきたしている状態を指しますが、コレステロール自体は身体にとって必要なものです。

「コレステロールは免疫細胞の細胞膜を形作る材料の為、不足すると脆弱な、あるいは働きが不十分な細胞となってしまいます。またホルモンの働きである細胞間の情報伝達も機能が低下し、免疫機能が不安定となります」(田中院長)

肥満・ダイエットと免疫

肥満は免疫の正常な働きを妨げる要素になりますが、ダイエットも方法によっては注意が必要です。

「肥満は万病のもと、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を惹起し、それが組織細胞の脆弱化、損傷あるいは動脈硬化による循環障害へと繋がり、結果として免疫システムにも重大な障害をもたらします。

一方で、過度の食事制限は栄養障害をもたらします。免疫細胞や抗体などの生成には良質なタンパク質や脂質が、機能維持にはビタミン、ミネラルが必要です。そして免疫機能を保ち、病原菌と戦う十分なエネルギー源として糖質が必要です。

ですから日頃から5大栄養素(糖質、脂質、タンパク質に加えビタミン、ミネラル)をバランスよく摂ることがコロナに負けない身体づくりの基礎になります」(田中院長)

酸化した身体にコロナは付け込む

私たちは、酸素なしで生きることができません。

取り込まれた酸素は外部からの様々な刺激を受け、反応性の高い活性酸素に変化します。活性酸素は、細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、体内の代謝過程において様々な成分と反応し、過剰になると細胞を傷つけてもいます。

「身体に取り込まれた酸素はご存知のように生命維持に使われます。使われずに残った酸素が活性酸素へと変化します。活性酸素は2つの相反する表情があり、一つは、侵入した病原菌と闘い駆除する生体防御の面。もう一方では、余った活性酸素が血管や細胞、組織を傷つけ錆びさせる、つまり身体を酸化させる面で、言わば両刃の剣なのです。

生活習慣、環境により活性酸素が過剰に生産されるようになると、この酸化に関わる活性酸素が増加し、身体は酸化していくのです。酸化が進めば生体のあらゆる機能が低下していきます。新陳代謝、循環、内臓機能そして免疫までもが機能低下していくのです。

通常、我々の生体内では活性酸素の産生と抗酸化防御機構のバランスが取れていますが、活性酸素の産生が過剰になり、抗酸化防御機構のバランスが崩れた状態を酸化ストレスといいます。

酸化ストレスが亢進すると、老化、がんに加えて、動脈硬化などの生活習慣病の原因にもなると言われています。加齢により活性酸素は増えると言われていますが、悪い生活習慣も増加の原因となります。具体的には、ストレス、喫煙、過度な運動、飲酒、紫外線などです。

新型コロナウイルスも、こうした悪い生活習慣によって酸化が進み、免疫システムが正常に機能しなくなったスキをついて私たちの身体に入り込んでくるのです」(田中院長)

リテラシーを高めることで自分の健康を守ろう

新型コロナウイルスは世界各地に広がり、大きな影響を与えています。ウイルスをめぐっては、様々な報道がなされており、それらを見て不安を感じることもあるでしょう。

しかし、そうした時期だからこそ、自分の身体を守るための正しい情報を得ることは非常に重要です。これまで解説してきたように科学的に人間の身体の仕組みを理解することで、日常生活の中で病気の予防に活かすことができます。

身につけた知識は、今回の新型コロナウイルスに対してだけでなく、今後もあなたの健康を守るための武器になるでしょう。