人を侮辱する行為は、「侮辱罪」という罪に該当する。第三者から侮辱をされた場合に、法律的な知識を身につけておくことで、泣き寝入りすることなく、しかるべき対処ができるかもしれない。今回は、侮辱罪についてわかりやすく解説するとともに、慰謝料の相場や侮辱罪の事例、名誉毀損との違いについても説明する。

香川希理
監修者・香川希理
明治大学法学部、立教大学大学院法務研究科卒業後、2010年弁護士登録(東京弁護士会)、2013年香川総合法律事務所設立。企業法務を専門とし、上場企業から中小企業まで多種多様な企業の顧問をしている。主な役職としては、東京弁護士会マンション管理法律研究部、公益財団法人澤田経営道場企業法務講師など。主な著書としては「悪質クレーマー・反社会的勢力対応実務マニュアル」(民事法研究会)、「マンション管理の法律実務」(学陽書房)、「中小企業のための改正民法の使い方」(秀和システム)など。

侮辱罪とは?

侮辱罪,慰謝料
(画像=PIXTA)

侮辱罪は、刑法231条で定められている罪で、「公然と人を侮辱した場合」に成立する。

侮辱罪の要件である「公然」とは、他の人に広まる可能性があることをいう。たとえば、職場で他の同僚もいる前で侮辱された場合や、CCに多数の関係者を含めたメールで侮辱された場合などが該当する。

一方、個室で1対1で侮辱された場合は、「公然」の要件を満たさないため、侮辱罪は成立しない。ただし、個室とはいえドアが開いていて、廊下に人通りがあった場合など、第三者に広まる可能性がある時は、侮辱罪が成立する可能性が高くなる。

「侮辱」とは、言語や動作によって、相手を軽んじたりはずかしめたり、名誉を傷つけたりすることだ。

具体的には、「バカ」「クズ」「ゴミ」といった誹謗中傷、「ハゲ」「チビ」「デブ」など身体的特徴を馬鹿にする発言などが侮辱となる。

また、事実が不明瞭な状況で「ブラック企業」「悪徳商法」などと企業を批判することや、芸能人に対してSNSで「死ね」「消えろ」「放火してやる」といった過激なコメントをすることについても、侮辱罪が成立する可能性が高い。

「匿名だから」「みんな書き込んでいるから」といった軽い気持ちで過激なコメントをするのは危険だ。匿名であっても、しかるべき手順を踏めば、特定することは難しくはない。また、コメントを削除したとしても、スクリーンショットなどが保存されていれば、罪に問われる可能性がある。

侮辱罪と名誉毀損罪の違い

侮辱罪とよく似た罪に、名誉毀損罪がある。名誉毀損罪は、刑法230条で定められている罪で、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合」に成立する。

侮辱罪との大きな違いは、「事実を摘示」しているかどうかだ。「事実を摘示」とは、具体的な事実に言及していることをいう。たとえば「不倫している」「お金を盗むのを見た」「前科がある」「麻薬をしているに違いない」といった発言が「事実を摘示」に該当する。

なお、その事実が真実であっても嘘であっても、名誉毀損罪は成立することがある。

また、名誉毀損罪も侮辱罪と同様に、「公然と」の要件がある。そのため、個室で1対1で言われた場合など、第三者に広まる可能性のない発言については、名誉毀損罪は成立しない。

侮辱罪・名誉毀損のケーススタディ

侮辱罪や名誉毀損について知っていても、どのようなケースが罪に該当するのか、判断に迷う人は多いだろう。続いては、侮辱罪・名誉毀損に該当する具体的なケースを紹介する。

侮辱罪の事例

まず、侮辱罪の事例を紹介する。下記のようなケースでは、侮辱罪が成立する可能性がある。

・会社の上司が部下に対して、他の同僚もいる前で「クズ!」とののしった。 ・夫が妻に、近隣住民にも聞こえるほどの大声で「役立たず!」と怒鳴った。

なお、「公然」の要件を満たす必要があるため、次のようなケースでは侮辱罪が成立する可能性は低い。

・会社の上司が部下に対して、完全に締め切られた個室で、「クズ!」とののしった。 ・夫が妻との言い争いで、外部には聞こえない程度の声で「役立たず!」と言った。

名誉毀損罪の事例

続いて、名誉毀損罪の事例を紹介する。下記のようなケースでは、名誉毀損罪が成立する可能性がある。

・会社の上司が会議中、1人の部下に対して「不倫している暇があるなら仕事をしてくれ」と言った。 ・十分に事実を確認しないまま、自分のブログで具体的な企業名を出し、「A社の社長は悪徳商法で儲けている」と誹謗中傷した。 ・関係のない社員までCCに入れたうえで、上司が部下に「ノルマを達成できないなら、会社を辞めることも考えるように」とメールした。

なお、名誉毀損でも「公然」の要件を満たす必要があるため、次のようなケースでは名誉毀損が成立する可能性は低い。

・会社の人事部の人間が、十分にプライバシーの保たれた個室で、不倫の噂のある社員に対し「不倫の噂が社内にあるが、どう考えているか」と尋ねた。 ・自分のブログで企業名は伏せて「世の中には悪徳商法で儲けている会社が多くて嫌気がさす」と書いた。 ・上司が部下に対し、CCには誰も入れず、「ノルマを達成できないなら、会社を辞めることも考えるように」とメールした。

2つ目の事例について、企業名を伏せても、企業を特定できる内容が盛り込めている場合、名誉毀損罪が成立する可能性が出てくる。

また、上記はあくまで名誉毀損罪が成立するかどうかという事例だ。たとえば3つ目の事例では、名誉毀損罪は成立しなくても、パワハラで訴えて慰謝料を請求すれば、認められる可能性はある。

名誉毀損罪が成立しない3つの要件とは?

侮辱罪と名誉毀損罪のケーススタディを紹介した。しかし、名誉毀損罪には例外規定が存在する。例外規定とは、「公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)」だ。

この特例の要件をすべて満たす場合、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」としても、名誉毀損罪には該当しない。特例に該当する要件とは、次の3つだ。

1.公共の利害に関する事実 2.公益を図る目的 3.真実であることの証明がある

たとえば、証拠に基づいて政治家のスキャンダルを暴いた場合などが該当する。政治家の不正は「公共の利害に関する事実」だ。また、民主主義国家の日本で、暴いた情報を国民に知らせるのは「公益を図る目的」といえる。さらに、真実であることが証明されていれば、名誉毀損罪には該当しない。

一方、個人のプライバシーに関することは「公共の利害に関する事実」には該当しない。また、相手への嫌がらせは「公益を図る目的」とはいえないため、こういったケースでは名誉毀損罪が成立する。

特例が定められているとはいえ、政治家のスキャンダルなど特殊な場合を除けば、名誉毀損罪が成立するといえるだろう。

ちなみに、特例があるのは名誉毀損罪だけで、侮辱罪に特例は存在しない。名誉毀損罪の場合、「事実を摘示」という要件があり、嘘であれ真実であれ具体的な事実に言及している状況を指す。しかし侮辱罪には、そもそも「事実を摘示」という要件がないため、例外規定を設ける必要がないということになる。

政治家や芸能人に対する名誉毀損罪が成立するのは?

政治家のスキャンダルは、証拠がしっかりそろっているケースに限り、名誉毀損が成立しない可能性が高いと説明した。では、政治家のゴシップや、芸能人のスキャンダル・ゴシップについては、どのような取り扱いになるのだろうか。

政治家のゴシップは?

まず、スキャンダルとゴシップの違いについて解説する。一般的に、スキャンダルとは、「名声を汚すような不祥事・不正事件」のことで、ゴシップとは、「個人的な事情についての、興味本位のうわさ話」のことだ。

つまり、基本的に、スキャンダルは名誉毀損罪の例外規定である「公共の利害に関する事実」に該当するが、ゴシップは該当しないということになる。そのため、政治家のゴシップは、名誉毀損罪として成立する可能性がある。

芸能人のスキャンダルやゴシップは?

芸能人とは、芸能を職業とする人のことで、注目度が高いとはいえ民間人だ。そのため、公人である政治家の場合とは事情が異なる。芸能人の情報を暴くことに、名誉毀損罪の特例の要件である「公益を図る目的」が該当するとは考えにくい。

このことから、芸能人の場合は、スキャンダルにしろゴシップにしろ名誉毀損罪が成立する可能性は高い。

芸能人のスキャンダルやゴシップのニュースを見ると、芸能人のSNSアカウントを探し当てて過激なコメントをする人がいる。こういう人は、自分が悪いことをしているという認識が薄いことも多い。「先に悪いことをしたのはあいつ(芸能人)だ」と考えているからだ。

しかし、罪を裁くのは裁判所の役割だ。直接関係のない人間が、事実関係を詳しく知らないまま、メディアの情報だけで判断して過激なコメントをすることは、立派な犯罪にあたる。

「芸能人にプライバシーはない」といった考えを持つ人もいるが、法律上は、当然芸能人にもプライバシーの権利はある。スキャンダルやゴシップを知ったからといって、個人的な攻撃に出るような行動は慎んだほうがいいだろう。

政治家や芸能人に対する誹謗中傷は侮辱罪になる?

SNSなどで、政治家や芸能人の投稿に多くの誹謗中傷コメントが寄せられることがある。俗にいう「炎上」という状態だ。こういったケースは、侮辱罪に該当するのだろうか。

まず、侮辱罪では「公然」の要件を満たす必要がある。そのため、下記のようなケースでは、侮辱罪が成立する可能性がある。

・自分が管理する匿名ブログで、政治家の実名を出し「消えろ」と記載した。 ・芸能人のSNSの投稿に対して「ブス」とコメントした。

一方、下記のようなケースでは侮辱罪は成立しにくくなる。

・政治家のメールアドレスを入手し、「消えろ」と送った。 ・芸能人のSNSの投稿を見て、DMなど第三者からは見えない機能で「ブス」と送った。

ブログやSNS、インターネット掲示板など、多くの人が目にする場所での誹謗中傷は、侮辱罪の「公然」の要件を満たすこととなる。

また、自分自身の発信だけでなく、政治家や芸能人のSNSの投稿に対してコメントすることや、政治家や芸能人を誹謗中傷する投稿に対して、コメントで誹謗中傷を重ねることなども、侮辱罪になる可能性が高い。

メールに関しては、CCなどで第三者が知る可能性がある状況で誹謗中傷すると、「公然」の要件に該当する。また、SNSに関しては、鍵付きアカウント(限定公開のアカウント)であっても、不特定多数が見られることから「公然」の要件に該当することに注意したい。

一方、政治家や芸能人一人を宛先に誹謗中傷メールを送ることや、SNSのDM機能で誹謗中傷のメッセージを送ることは、侮辱罪としては成立しない可能性がある。

当然、政治家・芸能人への誹謗中傷はしないほうがいい

現実的には、政治家や芸能人から訴えられる可能性は低いかもしれない。しかし、「みんながやっているから問題ない」と考えるのは危険だ。

自分はただ便乗したつもりでも、侮辱罪や名誉毀損といった罪を犯していることには違いない。「訴えられなければいい」と考えるのは危険な発想だ。

匿名のアカウントを利用していると、「バレないだろう」と気が緩む人もいるかもしれない。しかし、実際には匿名のアカウントであっても、警察や弁護士が依頼すれば会社はデータを開示する必要がある。そのため、身元が突き止められる可能性は高い。

心ないコメントをすることは、政治家や芸能人といった生身の人間を傷つけることになり、訴えられれば自分の人生をも滅ぼすことになりかねない。倫理観をもってSNSを利用することが大切だ。

侮辱罪の刑事上の責任は?前科は?

侮辱罪に該当した場合、具体的にはどのような罪に問われるのだろうか。続いては、侮辱罪の刑事上の責任について解説していく。

侮辱罪は刑法に規定された罪なので、成立すれば刑事罰を受けることになる。侮辱罪の刑事罰は、「拘留(こうりゅう)又は科料(かりょう)」だ。

「拘留」となれば、1日以上30日未満の一定期間、刑事施設に収監される。刑事施設には、刑務所や拘置所、留置場などがある。なお、懲役とは異なるため、作業を強いられることはない。

「科料」となれば、1,000円以上1万円未満を納める必要がある。

いずれにせよ、侮辱罪が成立し有罪判決を受けた場合は「前科」がつくことになる。罰則だけをみて「そのぐらいなら軽いものだ」と考えるのは危険だ。

前科がついた場合、就業規則によっては会社を解雇される可能性がある。

また、一定の職業は、そもそも前科がつくと資格が失効したり、資格を取得できなくなったりする可能性もある。

この他にも、職を失ったり定職につけなくなったりすることで、離婚を言い渡される恐れもある。また、海外旅行をしようと思っても、特別な申告が必要になるケースもある。

前科がつくことで、社会生活や日常生活において、さまざまな制約を受けることになるだろう。

侮辱罪の民事上の責任は慰謝料はもらえるのか?

改正債権法,損害賠償額
(画像=PIXTA)

侮辱罪で刑事告訴をした場合、相手は前科がつくことを避けるため、示談になることも多い。そのため、刑事裁判にまでいたらず、示談交渉で終わることが多い。刑事告訴した側としても、侮辱罪の刑事罰はさほど重くないことからも、慰謝料を受け取った方が納得感があるという判断になるのだろう。

侮辱罪の慰謝料の相場は、10万円程度といわれており、あまり高くはない。しかし、ケースによってはこれより高くなることも、低くなることも当然ありうる。

なお、名誉毀損罪の慰謝料の相場は、10万円から100万円程度といわれている。名誉毀損罪の刑事罰は「3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金刑」とされており、刑事罰が侮辱罪より重いことからも、慰謝料の相場も高くなる傾向がある。

名誉毀損が認められた8つの判例

名誉毀損に該当するかどうかは、判断が難しい。自分では名誉毀損に該当しないと思っているようなことでも、実は名誉毀損として成立するかもしれない。

続いては、名誉毀損(主に民事上の名誉棄損)が認められた判例を詳しく解説していく。8つの判例をもとに、名誉毀損が成立する要件について理解を深めたい。

社内メールで「会社を辞めるべきだと思います」

まず、上司が部下に対して送ったメールの内容が名誉毀損にあたるとして、部下が訴えた判例を紹介する。

上司が部下に送ったメールには、「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SC(サービスセンター)にとっても、会社にとっても損失そのものです」といった退職勧告に近い内容が記載されていた。

また、「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい」など侮辱的な表現が用いられていた。

さらに、同じ職場の従業員数十名が宛先に含まれていたことから、名誉毀損の要件を満たすとして、損害賠償請求が認められた。

一方で、課長代理の地位にある部下に対して、地位に見合った処理件数に到達するよう知った督促する趣旨がうかがえることから、パワハラの意図があったとは認められなかった。

結果的に、裁判所が命じた賠償金額は5万円だった。

「A商店最期の日」と題したブログ

続いて、ブログの内容が名誉毀損にあたるとして、事業者がブログ管理者を訴えた判例を紹介する。

マンション管理組合の理事長は、マンションの隣の土地で作業するA商店との間でいざこざが絶えなかった。理事長は、自分が管理する匿名のブログで、「A商店最期の日」というタイトルの記事を執筆。

「作業中は舞い散る粉じんによって窓は開けられない、そのけたたましい重機の騒音によってテレビの音も聞き取れない、粉じんで汚れる窓やバルコニー、隣接するマンション駐車場の車は砂だらけ」「苦情を伝え改善対策をお願いするも誠意ある対応は一切なし」といった内容を記載した。

実際には、隣の土地はA商店の所有するものであり、代表者は土地の使用開始前にマンション管理組合に挨拶している。また、マンション住民からの苦情に対しては、仮柵を設置する等の対応をとっていた。

匿名とはいえ、ブログは誰もが閲覧できるものだ。また、A商店の名前を出し、過激なタイトルをつけて一方的な言い分で批判したことから、名誉毀損にあたるとして、損害賠償の支払いが命じられた。

金額は、100万円の損害賠償金だった。

週刊誌の「捏造」報道で教授が自殺

名誉毀損された教授が自殺してしまうという痛ましい事件もあった。この判例では、自殺につながる報道をした週刊誌を、相続人が訴えている。

週刊誌は、教授が責任者となって発掘していた遺跡に関して、事実を十分に確認しないまま「捏造」と受け取られかねない内容の記事を掲載した。週刊誌は事実を否定したが、裁判所は名誉棄損を認めた。

記事は、旧石器捏造事件をあちこちに引用し、発掘者が自分で埋めたのではないかという印象を読み手に与えるよう構成されていた。また、教授が全面否定したとして教授の実名をあげ、「もちろん彼らの仕業と断定する証拠はない」としたうえで、「県内で旧石器遺跡を発見すれば、注目されて、学術予算もつく、と思っている考古学者が多かった」といういわくありげな記載をしている。

また、後日「小誌は、遺跡そのものが『捏造としか考えられない』と記事で紹介した」とも記載した。なお、教授に対する本人取材は一切行われていない。

裁判所は、「捏造」という言葉自体が、遺跡を発見した者がでっち上げたとの印象を与えるものだとし、週刊誌が教授の社会的信用を失墜させたとした。

主婦が近所や職場に悪口を広めたせいで引っ越し

続いては、主婦の悪口が名誉毀損と認められたケースだ。

3人の主婦が、近所や職場で悪口を触れ回ったことで、被害者は職場を退職することをよぎなくされた。また、家族と引っ越しをしなければならなくなり、家も処分することになった。

裁判所は、加害者である3人の主婦に、それぞれ20万円の慰謝料を支払うよう命じた。

掲示板で「愛人募集」など多数の侮辱発言

インターネット掲示板で、大手化粧品会社の代表者が、家政婦として愛人を募集したという記載がされた。それに続き「セクハラじじい」「エロ社長」などの侮辱的表現が相次ぎ、会社人事を恣意的に行ったといった記載がなされた。

社会的評価を低下させる表現であるとして、会社及び代表者に対して、各300万円、100万円の損害賠償請求が認められた。

芸能活動者への「整形しすぎ」

インターネット掲示板で、20代の芸能活動者に対して「整形しすぎ。…別人だね。皆驚いただろうな!親泣かなかった?」といった表現がされたことに対し、芸能活動をしていたとしても、要望や異性関係について侮辱的表現をすることは許されないとし、100万円の損害賠償が認められた。

訴訟中に「こんな不倫女」と陳述

訴訟で争う中で、過激な発言をしたことにより、相手側から名誉毀損で訴えられることもある。

訴訟中に、準備書面や陳述書で「こんな不倫女」「狂気の男女関係」「話が複雑で頭が混乱するので、まず被告の男関係を年代順に掲げる」といった記載がされたことが問題になった。

裁判所は、被告の異性関係を年代順に詳しく記載しないと「頭が混乱する」というのは合理的な主張ではないと判断。個人攻撃の目的があったと認定し、精神的損害に対して20万円の損害賠償の支払いを命じた。

氏名を明示せず身体的障害と関連させて批判

町議会議員を身体的障害と関連させて批判する記事を執筆・掲載したことで、氏名が明示されていなくても、誰のことか特定されるとして、名誉毀損の成立が認められた。なお、この裁判例は刑事上の名誉棄損が認められたものである。

名誉毀損が成立した判例からわかる6つのポイント

名誉毀損が成立した判例を8つ紹介した。続いては、判例からわかる名誉毀損のポイントを6つ解説する。

1.明確な意図がなくても名誉毀損は成立する

業務上の叱咤激励を意図していたとしても、侮辱的な内容で、第三者に知れ渡る形であれば、名誉毀損が成立する。

また、「悪口を言っただけ」「うわさ話をしただけ」と軽く考えていても、侮辱的な内容で、相手が被った被害が大きければ、名誉毀損として成立する可能性が高まる。

2.個人ブログや掲示板の書き込みでも名誉毀損は成立する

個人ブログは、大勢の人が目にする可能性があることから、実際の閲覧者数によらず名誉毀損は成立する可能性が高くなる。日記という感覚で書いていたとしても、誰もが閲覧できることを忘れてはならない。匿名ブログだからと甘く考えるのは危険だ。

インターネット掲示板に書かれた内容をもとに、事実関係を確かめずに誹謗中傷コメントをする人がいる。自分が発信者ではないから大丈夫だと判断するのは危険だ。便乗した形であっても、相手の名誉を傷つける内容であれば、名誉毀損は成立する。

3.名指しでなくても名誉毀損は成立する

相手の個人名や会社名を名指ししなくても、状況からみて第三者が特定できるようであれば、名誉毀損として成立する可能性が出てくる。イニシャル表記をしたり、相手の特徴を記載したりすれば問題ないと考えるのは危険だ。

4.相手が芸能人や政治家でも名誉毀損は成立する

相手が芸能人や政治家だと、名誉を傷つけるようなことを言っても許されると考える風潮がある。週刊誌などで、芸能人や政治家のゴシップやスキャンダルが報じられることも多いことから、個人でもそのように判断してしまうのかもしれない。

しかし、実際に週刊誌が訴えられて損害賠償を支払っているケースがあることからもわかる通り、相手が芸能人や政治家であっても名誉毀損が成立することは十分にありうる。相手が人格を持った人間であることは、忘れないようにしたい。

5.訴訟中も名誉毀損が成立する

訴訟中は、自分自身の正当性を主張しようとするあまり、相手に対して攻撃的になりやすい。しかし、そういった状況を考慮したとしても、攻撃的な発言だと相手に指摘され、訴えられた場合、名誉毀損が成立する可能性が出てくる。

訴訟中、自分に非がないからといって、相手に対して攻撃的な態度をとると、かえって自分の首を絞めてしまうことになる。弁護士などの専門家を通し、あくまで冷静な対応をするようにしたい。

6.慰謝料の金額

慰謝料の相場は、数万円から数十万円が一般的だ。ただし、損害が大きい場合や、被害者が自殺している場合などは、数百万円単位の慰謝料の支払いが命じられることもある。

名誉毀損が認められなかった4つの判例

名誉毀損で訴えたからといって、必ずしも名誉毀損と認められるわけではない。裁判であるからには当然、訴えた内容が棄却されることもありうる。

続いては、名誉毀損が認められなかった判例を紹介する。名誉毀損かどうか判断に迷っている人は、判例を参考にして検討してみてほしい。

名誉毀損ではなく「論評」

著作者は、自分の著作物の一部が無断で採録され、批判する内容とともに書籍として出版されたとして、名誉毀損で訴えた。無断で採録した著者のことは「ドロボー」、出版された書籍は「ドロボー本」と記述した。

しかし、これは意見ないし論評にあたるとして、名誉毀損の成立は否定された。

医師のセクハラ行為疑惑が新聞に

医師からセクシュアルハラスメントを受けたとして、患者が医師を提訴。この事実を、新聞社が医師の実名を出して報道したことから、医師は名誉毀損にあたるとして新聞社を訴えた。なお、セクシュアルハラスメントに関しては、患者側が敗訴している。

新聞社は「診療でセクハラ行為」という大見出し、「〇〇医科大教授相手に提訴」という小見出しで事件を報じた。本文のほとんどは訴状から提訴者の主張を引用したものであり、提訴された事実を報道する趣旨が読み取れると裁判所は認めたうえで、医師の社会的評価を下げる名誉毀損だと認定した。

しかし、同時に、公共の利害に関する事柄であり、公益目的、真実性の要件も満たすことから、特例が適用され名誉毀損は成立しないこととなった。

労働組合がセクハラをホームページ上で糾弾

労働組合は、会社の役員兼営業本部長が労働組合の執行委員長に対し、セクハラをしたとの事実を掲載。会社の社会的評価を低下させるものだとして、会社が労働組合を訴えた。

ハワイ州への褒賞ツアー中に、身体に触る等のセクハラ事件が発生。労働組合は、セクハラ事件の事実確認と誠意ある対応を会社に求めた。会社の他の役員が状況を聴取したが、「セクハラに当たらない」と結論づけ、労働組合に回答。労働組合は、不当労働行為救済申立てを行った。

その後、労働組合はホームページにおいて「〇営業本部長のセクハラ発覚、会社隠蔽」という見出しで、交渉の経緯や会社の主張を記載した。

また、「詳しくはこちら」というリンクを貼り、「〇営業本部長(イニシャル表記)が今年3月のハワイセミナーのある日の晩、酔っ払ってツアーに参加していた某代理店の体を数回触り、セクハラ行為を行ったのです」と記載した。

さらに、株主総会で「ハワイツアー中に目撃者が何人もいる中で某代理店にセクハラ行為、まあ、酔っ払った加害者が3回に渡って、被害者の腕や肩から胸にかけての部分を触ったということなんですが、……何故コンプライアンス委員会はそれをセクハラに当たらないとしたのか、これが本当なのか」と質問した。

裁判所は、会社や営業本部長の名誉が毀損された事実を認めたうえで、セクハラが存在したことを認定。労働組合の活動は、正当な組合活動として社会通念上許容される範囲内のものであり、違法性はないとした。

会社としては、労働組合を訴えたことで、セクハラがあったという事実も裁判所から認定された形となった。

初の民間人校長の自殺にまつわる報告書

企業で培われた社会体験や組織運営の発想を取り入れ、学校を活性化することを目的とし、初の民間人校長が市立小学校に赴任した。校長は赴任するまで、銀行の東京支店副支店長を務めていた。

校長は着任当初から、教職員が各自意見を述べることに驚きを覚え、前職時代と異なることに戸惑いを覚えていた。校長は教頭の補佐を受けたり、教職員の質問に応答したり、精一杯努力したものの、関係は改善せず気分の落ち込みに悩まされるようになった。

運動会で国旗掲揚や国歌斉唱を導入することを校長が述べた際、複数の教職員から、かなりの時間にわたって疑問や反対の意見が出た。校長は教育現場にこのような対立があるという認識が十分になかったことから、困惑した。

教頭が脳出血で入院したことから、校長は精神的に動揺し、精神科で抑うつ状態と診断された。校長は1ヵ月の療養を要するという診断書を持参して病気休暇を申請したが、教育委員会は校長を励まし、説得した。校長はこれにより、休暇取得を断念した。

その後、飼育中のうさぎが多数殺される事件が発生し、取材の対応に追われることに。保護者との行き違いも生まれ、校長の病状は悪化した。また、教育委員会からの指示で、卒業式の式次第に国歌斉唱を盛り込むことになっていたが、教職員からの反対が表明されるなど、対立状況が続いた。

校長は通院を理由に、自宅近くへの転勤を希望していたが、その希望も聞き届けられないこととなった。

校長は、自らの非力で迷惑をかけたことをわびる趣旨の遺書を残し、自殺した。校長の超過勤務時間は毎月平均して70時間を超えており、自殺の1ヵ月前は120時間を超えていた。また、休日113日のうち、業務や地域行事への参加に費やした日数は43日に及んだ。

これに関して、教育委員会の報告書の中に「自殺の原因は教職員との対立にある」という記載があり、名誉を傷つけられたとして、教職員が損害賠償を請求した。同時に、教職員は「自殺の原因は教育委員会の支援不足にある」とする小冊子を発行した。

原審では、教育委員会の報告書は事実を列挙しているとはいえ、教職員との対立に関して特定の評価を下した書き方をするのは公正ではないとし、損害賠償請求を認めた。

しかし最高裁判所は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、教職員の社会的評価が低下することはないとし、内容そのものは真実であることから、損害賠償請求を破棄した。

名誉毀損が成立しなかった判例からわかる4つのポイント

名誉毀損が成立しなかった判例からも、学ぶことは多い。続いては、名誉毀損が成立しなかった判例からわかる4つのポイントについて解説する。

1.特例の3つの要件を満たせば名誉毀損は成立しない

大前提だが、特例の要件を満たせば、名誉を傷つけられた事実があっても名誉毀損は成立しない。裁判では、「公共の利害に関する事実」に該当するか、「公益を図る目的」といえるか、「真実であることの証明がある」かどうかが議論される。

2.一般的な論評や意見なら名誉毀損には該当しにくくなる

名誉毀損の要件である「事実の摘示」に該当するのか、一般的な論評や意見の範囲にとどまるのかという判断は難しい。

名誉毀損で訴えたいと考えているなら、「論評」や「意見」に該当すると指摘されるような点はないか、考えておくようにしたい。

3.読者の注意で判断できる内容なら名誉毀損にはならない

読者は、書かれた内容をすべてうのみにするわけではない。誰がどのような立場から、どのような形で発信した情報かを踏まえ、一般的な注意を持って内容に触れることとなる。

そのため、読者の一般的な注意をもってすれば、名誉が傷つけられるようなことはないと判断された場合、名誉毀損は成立しないこととなる。

4.名誉毀損で訴えれば、周辺の事実関係も認定される

名誉毀損では、そもそも訴えの要因となったセクハラなどの事実が存在することがある。こういったケースでは、裁判になることで、事実確認が行われ、事実の認定がなされることがある。

名誉毀損は、事実か嘘かによって成立する・しないが決まるわけではないが、事実関係も当然考慮したうえで判決が言い渡されることになる。

侮辱罪は親告罪!泣き寝入りでは罪に問えない

侮辱罪も名誉毀損も、「親告罪」に該当する。親告罪とは、「被害者の告訴がなければ起訴できない犯罪」のことだ。つまり、被害を受けた側が行動を起こさなければ、罪として成立しないことになる。

また、侮辱や名誉毀損を行った人物を知ってから半年以内に告訴しないと、罪に問うことはできない。なお、検察官が有罪判決を求める公訴については、侮辱罪の時効が1年、名誉毀損の時効が3年となっている。

つまり、侮辱や名誉毀損の被害を受けた場合、半年以内には警察に事実を伝え、処罰を求める必要があるということだ。

泣き寝入りでは解決できないのが、侮辱罪や名誉毀損の特徴だ。

侮辱というのは許しがたい行為だ。それにもかかわらず、相手は罪の意識もなく、自分を正当化していることも少なくない。侮辱してきた相手を罪に問い、しかるべき対処をするためには、速やかに行動を起こす必要がある。

弁護士保険で法的トラブルに備えよう

侮辱され、しかるべき対処をしようと考えても、まずどこに相談していいか悩む人がほとんどだろう。身内や知り合いに弁護士がいる人などを除けば、法的トラブルに関して、信頼できる相談先をすぐに見つけることは難しい。

無料の弁護士相談もあるが、制限時間を過ぎたら相談料が発生したり、あまり親身に相談乗ってもらえなかったり、相談したい内容を専門とする弁護士を探すのが難しかったりといったデメリットがある。

こういった問題を解決するには、弁護士保険への加入が効果的だ。弁護士保険に加入し、月々数千円の保険料を負担しておけば、トラブルが発生し弁護士費用が必要になった時、保険金を受け取ることができる。

また、弁護士保険には弁護士への無料相談がサービスとして付帯されていることが多い。トラブルが起きた時、信頼できる弁護士に速やかに相談できることは、大きな安心感につながるだろう。

中には、「示談交渉」「パワハラ」「冤罪」「いじめ」「ストーカー」など、トラブルごとに電話もしくはメールで相談できるサービスが付いている弁護士保険もある。それぞれのトラブルに強みを持つ弁護士に相談することで、的確なアドバイスが受けられるだろう。

一方で、トラブル発生後に弁護士保険に加入した場合、弁護士への無料相談は利用できるものの、保険金の支払対象にはならないことに注意したい。トラブルが起きてからあわてて加入するのではなく、何もないうちに弁護士保険に加入し、万一の事態に備えておくことが大切だ。

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