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遠藤俊英前長官の下、金融庁職員による自主的な政策提案の枠組みとして設置された「政策オープンラボ」。ここでは金融庁職員が「社内副業」という位置付けで、社外の仲間とも共同して様々なプロジェクトを進めている。

本特別企画では、その中から注目を集める2つのプロジェクトを取り上げ、統括者にインタビュー。取組みを紹介する。

いま地方は、多くの悩みを抱えている。人口流出に高齢化、空き家問題…と枚挙にいとまがない。

そうした現状に待ったをかけようとしているのが、金融庁の地域課題解決支援チームだ。地方創生に意欲のある公務員と金融機関をつなげる交流会「ちいきん会」「地域ダイアログ」を通して、地方と中央、官金民の連携を仲介し、地域課題を解決する事業に取り組んいる。

本稿では、地域課題解決支援チームを統括する、金融庁総合政策局総合政策課の野大志氏にお話を伺った(以下、敬称略)。

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――まず地域課題解決支援チームは、どのような活動を行っているのか、教えていただけますか。

菅野 地域課題解決支援チームは、平成31年度に金融庁の若手職員の有志で立ち上げたチームです。地域課題を抱える現場の声を聞き、その解決に資する事業や取組みを企画・実施しています。

地方の熱意ある人とアイデアを見える化

――なぜ、そのような取組みを始めたのでしょうか。

菅野 私は以前、財務省東北財務局で働いていて、当時から行政と地域金融機関との連携を図る業務に就いていました。ただ、行政と金融機関の業務連携といっても、実態は、制度融資や公金の振込など、業務委託の枠にとどまっていたんです。

「熱意のある人同士をつなげ、交流する地域の場がない」「所属する肩書きや立場に捉われ踏み込んだ議論が難しい」「全国の成功事例や先 進的な企業などの情報を得る機会が少ない」といった課題が、お互いの連携を阻害していました。

そんな折に、全国の地方公務員と中央省庁をつなげる「よんなな会」という公務員の交流会に、金融庁の遠藤長官(当時)が出席されまし た。しかし、遠藤長官は、そこで100名ほどの公務員と話したのに、誰からも地域金融機関についての話が出ず、いかに金融機関が地域に入り込んでいないのか、ショックを受けたそうです。

そうした問題意識を受けて、地域課題解決支援チームを立ち上げるに至りました。

――これまでどのような取組みが行われてきたのか、教えてください。

菅野 まずは「ちいきん会」という地域の官金民のネットワーク構築を支援する交流会を開催しています。この交流会は、地域課題の解決に意欲を燃やす公務員や金融機関職員を集め、お互いの問題意識と課題解決のノウハウを共有し合う場所となっています。

具体的には「(自分がいる地域の)課題や不足している人材・ノウハウ」を発表してもらう一方で、「(参加者自身や自地域での)強みやノウハウ」をプレゼンしてもらいます。このプレゼンを通して「あそこの課題を私なら解決できるかも」「あの人と組んだらウチの課題を解決できるかも」と、自分の抱える課題のマッチングにつなげます。

次のグループディスカッションでは、具体的な連携が行えないかを話し合います。ここでは肩書きなどを抜きにして話してもらうことで、建設的な議論ができます。

最後は、立食会で参加者の持ち寄った名産品などを楽しみつつ、役職・立場に関係なく、交流の輪を広げてもらいます。ここまでが、ちいきん会の一連の流れです。

ちいきん会は、あくまでも、個人的なつながりを主としているため、参加はフェイスブックを通した完全紹介制、開催日時は業務時間外の休日、交通費などの諸経費も実費と手弁当での参加となっています。

そのため、本当に熱意のある人ばかりが集まり、参加者の高い質を維持することができています。

おかげさまで、ちいきん会はこれまで4回開催し(うちリモート1回)、会場に集まった参加者も累計1100名を超えるなど、盛り上がりを みせております。

参加者からは「熱意があって、普段会えない全国の人たちとつながれる」「業界の立場や垣根を越えた新しい事業のきっかけになる」「肩書きを外して気楽に話せるだけでなく建設的な議論ができる」との声をいただいています。

交流会が終わった後の地域ダイアログが重要

――ちいきん会で多くの交流が生まれたのですね。その交流は、どのような成果につながっているのでしょうか。

菅野 ここが最も重要なのですが、私たち地域課題解決支援チームの狙いは、交流会の後に、各地で地域課題の解決実現に向けて行われる「地域ダイアログ」にあります。

地域ダイアログとは、ちいきん会で親交を深めて課題を共有し、可視化された熱意ある有志が、各地域で再度集い、具体的な事業や取組みに 乗り出す集まりです。

ちいきん会はあくまでも地域の課題と熱意のある人の見える化が目的です。しかし、交流だけで終わってしまっては意味がありません。「何かを成す」、こうした目的意識が重要なんです。

そこで、ちいきん会の後にできた交流グループには、必ずちいきん会事務局のスタッフが入って、地域ダイアログにつなげています。

有志同士の連携で迅速な課題解決を実現

――地域ダイアログでは、どのような成果が出ているのでしょうか。

菅野 例えば、東北ダイアログでは、金融機関と連携して首都圏人材の活用を行う「新現役交流会2・0」を、5省庁と東北の25の金融機関と共同開催しました。新現役とは、大手企業の退職者や退職を控えている、経験豊富な50代以上の人のことですが、こうした大手企業OBと地方の中小企業を結び付ける交流会を開催しました。参加した43 社中36社が新現役のコンサルを受ける運びとなりました。

さらに「ちいきん会熊本ダイアログ」では、起業・創業促進に向けた官金民の取組みが進んでいます。熊本では、2016年の熊本地震の後に、多くのNPOが立ち上がりましたが、復興と共に事業をやめるケースが多く、起業の促進が課題でした。

そこで地域課題解決支援チームやちいきん会で集まった有志たちで、どうすれば起業・創業を促進できるのか、事業者の方々にお話を伺いま した。そのとき、創業の際に先輩起業家や地元の信用金庫からのサポートがとても嬉しかったという経験を聞かせていただいたんです。

それにより起業希望者が、気軽に先輩起業者と話せたり、金融機関や公的なサポートがスムーズに受けられたりする「起業・創業ワンストッ プサービス」を企画・実現しました。県から予算が組まれるなど、今後の展開にも期待がかかります。

また地域課題解決支援チームでは、スピード感のある対応も強みの1つです。

私がちいきん会のフェイスブックのグループで、セーフティネットの申請方法の改善について意見を求めると、すぐに50名の方から、各地域の状況や改善方法の提案が集まりました。具体的な提案をすぐ共有・集約できる体制のおかげで、意見募集から2カ月半という早さで、パソコンから簡単に申請できるシステムの試験運用にまでこぎつけました。

いまも、全国各地で地域ダイアログは開催されています。今後もこうした連携は拡大していくでしょう。

――最後に、地域課題解決支援チームが今後どのように展開していくのか、また金融機関に求めることを教えてください。

菅野 今後は、少人数でも同じ志を持った人が、地域で集まり、連携して地域課題の解決に当たれるよう、地域金融機関の価値を理解し、企業や公的機関を動かすようなソリューションを創っていきたいと思っています。

地域において金融機関ができることは、たくさんあります。私たちが成功事例をもっと積み上げて、他の自治体・企業・金融機関が連携するヒントを提供しますので、もっと人による交流が拡大するよう協力してもらえると嬉しいです。