「コロナ禍最大の矛盾」とも言えそうな、ある情報が出てきた。民間調査会社の帝国データバンクのデータだ。新型コロナウイルスの影響で不況に陥っているが、2020年度上半期(4~9月)の倒産件数が前年同期比で減少しているのだ。なぜだろうか。
帝国データバンクが公表したデータを読み解く

まず帝国データバンクのデータを読み解いていこう。「2020年度上半期報」によれば、2020年4~9月の倒産件数は3,956件で、前年同期比で5.2%減となっている。倒産件数が4,000件以下となったのは2004年度下半期以来のことだという。
業種別では、7業種のうち5業種で前年同期より倒産件数は少なく、特に建設業については前年同期比15.6%減の606件となっており、2000年度以降で最少の件数だったという。
<倒産件数の減少率TOP 5(業種別/前年同期比)>
業種 | 減少率 | 2020年度上半期 | 2019年度下半期 | |
1 | 建設業 | ▲15.6% | 606件 | 718件 |
2 | 卸売業 | ▲12.6% | 514件 | 588件 |
3 | 運輸・通信業 | ▲11.7% | 128件 | 145件 |
4 | 製造業 | ▲8.4% | 439件 | 479件 |
5 | 小売業 | ▲2.5% | 963件 | 988件 |
※出典:帝国データバンク 2020年度上半期報を参考に作成
帝国データバンクはこのような結果になった理由について、国による資金繰り支援が全体として奏功したことを指摘している。国による資金繰り支援とは「持続化給付金」などの各種給付金や、実質無利子・無担保の制度融資などのことだ。
持続化給付金が実行された金額は10月5日までに4兆5,000億円規模となっており、実質無利子・無担保の制度融資の活発な利用も見受けられる。多くの企業が新型コロナウイルスの影響を免れていないが、こうした国の支援策が倒産件数に歯止めをかけているわけだ。
一方で危惧すべきポイントも少なくない
このようにデータを読み解いていくと、コロナ禍であるのに倒産件数自体は減っているという矛盾は、事実であることが分かる。ただ、こうした矛盾に喜んでばかりはいられない。上半期の倒産件数は減ったが、今後危惧すべきポイントはいくつもある。
業種別では建設業、卸売業、運輸・通信業などの倒産件数は2桁減となったが、外出自粛ムードやインバウンド壊滅の影響が直撃した宿泊業は、倒産件数が前年同期比143.3%の増加の73件となっている。旅行業も厳しく、上半期に最も負債が大きかった倒産は旅行業者のホワイト・ベアーファミリーだった。
宿泊業や旅行業については、国が実施中の「Go Toトラベル」(2020年7月22日~2021年1月31日宿泊分まで)がどれだけ良い影響をもたらすかが注目される。しかし、ワクチンや治療薬の開発の遅れでコロナ禍が長引けば、キャンペーン終了後の厳しい状況も予想される。
宿泊業や旅行業に並び、アパレル関連企業も厳しい。上半期の上場企業の倒産は2件あったが、そのうちの1件は、1902年に創業した老舗アパレルのレナウンだ。帝国データバンクとは別の民間調査会社の東京商工リサーチによれば、負債1,000万円以上のコロナ倒産(10月15日現在)ではアパレル関連は全業種中2番目に多い。
資金繰り支援効果にも限界か、「延命企業」の倒産相次ぐ?
帝国データバンクは、資金繰り支援効果にいずれ限界が訪れることを危惧している。新型コロナウイルスの終息が見えない中、言わば「延命」されていた企業が倒産を余儀なくされるケースが今後増える可能性があるという。
コロナ支援策もいつまで実施・延長されるのかは定かではない。持続化給付金の申請期限は2021年1月15日までで、その後はどうなるのかは発表されていない。無担保の新型コロナウイルス感染症特別貸付なども、いつまで受け付けてくれるのかは不透明だ。
早期退職者の募集や従業員の給与カットで支出を何とか抑えようとしている企業も多い。航空会社の中では全日本空輸(ANA)が早期退職者に対する退職金の上積みや従業員の賃金カットに乗り出しており、厳しい状況が浮き彫りになっている。
東京商工リサーチによれば、2020年1月から9月14日までの期間における上場企業の早期・希望退職者募集は1万100人で、同社は「ハイペースで推移している」と分析している。全体の3分の1ほどが新型コロナウイルスを要因に挙げているという。
こうした厳しい状況を考えると、2020年度下半期(2020年10月~2021年3月)や2021年度上半期(2021年4~9月)の倒産件数は前年同期に比べて大幅に増加する可能性もあると言えるだろう。
予断を許さない状況は続いている
今回、帝国データバンクが発表した2020年度上半期の倒産件数の数字は、良い意味で予想を裏切る結果となったが、予断を許さない状況は続いている。いまは何とかキャッシュフローで耐えている企業でも、手元の資金が急速に減っていくと一気に倒産が現実味を帯びてくる。
文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部