税務関連の書類を作成する際に、注意しておきたいのが「税制改正」である。税制改正の情報を運悪く取りこぼしてしまい、税額控除が受けられなくなってしまうケースは少なくない。今回は、税制改正の仕組みやその内容を効率よく把握する方法について解説する。

税制改正とは

経営者なら知っておきたい税制改正のポイント
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

日本の税金は「租税法律主義」のもとに賦課、徴収されている。

「租税法律主義」とは「代表なければ課税なし」という考え方で、憲法第84条の「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」という条文のとおり、日本の税金の大原則となっている。

よって、法律で定めたルールにない税金を課すことはできない。逆に法律にさえ則っていれば積極的な 節税スキームであってもそれが法律で封じられるまでは課税されない。この厳格なルールから、すべての税金には根拠となる税法が存在する。

経営者にとってはおなじみの法人税や所得税、消費税のほか、相続税や贈与税、固定資産税や不動産取得税、酒税やたばこ税まで、すべての税金が税法によって定められている。さらに、課税対象や計算方法、徴収方法なども税法によって 細かく定められている。

そしてこれらの税法は、社会の実態に合った課税制度になるよう各省庁の要望などを受けて、毎年細かい改正を繰り返している。これが、「税制改正」である。

税制改正の流れ

税制改正では、各省庁から国に寄せられる税制改正に関する要望事項や、政府税制調査会(税制の専門家による審議会)の審議内容を踏まえて、毎年12月に「税制改正大綱」が政党等のホームページで公開される。

参考:https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/index.html

たとえば「令和2年度税制改正大綱」は、令和元年12月12日付けで公開されている。この段階では「改正案」という扱いで、その後は、税制改正大綱に沿って各税法の改正案(「○○税法の一部を改正する法律案」のようなもの)が翌年の通常国会に提出されて成立する流れとなる。

通常、税制改正にはこの1年サイクルの流れがあるため、いつの間にか改正が行われ、不意打ちで課税されるというようなことはない。

税制改正後の適用時期

同じ時期の税制改正で決まった内容でも、その適用が始まる時期はバラバラである。数年後の改正のものもあれば、翌年1月から適用されるものもある。

影響が大きいものは、改正が前もって 行われる傾向にある。たとえば、消費税のインボイス制度は平成28年度税制改正から導入された。当初の導入スケジュールからは遅れたものの、それでも改正から適用までには余裕を持たせたスケジュールだと いえるだろう。

その一方で、「翌年分から」「4月以降開始の事業年度から」のように、 改正後すぐに適当となるものもある。これらは期限付きで行われている制度を延長するものや個人の確定申告に関するものに多い。

たとえば令和2年度税制改正に「未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(夫)控除の見直し」がある。それまで死別と離別のみが寡婦(夫)控除の対象であったが、これを、現に婚姻をしていない者として対象範囲を改め、未婚のひとり親も控除対象に追加した。

これは令和2年度税制改正であるが、令和2年分以後の所得税について適用するとされている。このように適用が始まる時期はさまざまだ。

税制改正で何が変わるのか

税制改正では、税金の計算に関するもの、その申告方法に関するもの、時限措置の延長など、税金に関わるさまざまな制度が変わる。

たとえば令和2年度税制改正では、「5G 導入促進税制」として、基地局の前倒し整備などの投資に対する税額控除や特別償却に関する税制が創設された。端的にいうと、5Gに関する投資を行った企業の税金を安くする(あるいは早めに償却して経費にしてよい)という制度であり、まさに税金の計算に関するものだ。

そのほかにも「企業版ふるさと納税の見直し」では、税額控除の割合が大幅にアップするという改正があった。これによって、うまくいけば実質1割の負担で地方創生の取り組みに寄附ができる。ただし、本社が所在する地方公共団体への寄附は対象外となっているため注意が必要だ。

申告方法に関するものについては、「連結納税制度の見直し」や、地方税の電子納税システムである「eLTAX(エルタックス)の対象税目の拡大」などがあった。

よく知っている税制も改正されている

どの経営者もよく知っているあの有名な税制も、実は2年おきに税制改正で延長されている。それは下記の3つである。

・交際費等の損金算入制度 ・少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 ・法人税の軽減税率

当たり前のように使っている税制ばかりだが、実はこれらはどれも期限付きであり、延長の税制改正がなければ使えなくなってしまう。

【交際費等の損金算入制度】 期末の資本金の額が1億円以下の法人が、年間800万円以下の交際費等を全額損金に算入できる制度である。(租税特別措置法第61条の4第2項)

これについては、令和4年(2022年)3月31日までの間に開始する各事業年度までの期限付きである。

【少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例】 青色申告法人が、30万円未満の資産を一時に償却できる特例である。これについても、令和4年(2022年)3月31日までの間に取得し、事業の用に供した資産に適用できるという期限付きだ。(同法第67条の5)

【法人税の軽減税率】 期末の資本金の額が1億円以下である普通法人の法人税率は、所得800万円以下の部分について原則は19%である。(法人税法第66条)しかし特例で、令和3年(2021年)3月31日までに開始する各事業年度までは15%に引き下げられている。(租税特別措置法第42条の3の2)

ちなみに、よく法人の税率は30~40%といわれるが、これは法人の実効税率(法人税や地方法人税、法人事業税などを合計した税率)の話である。ここでいう税率は「法人税」単体の話であるため、法人の所得にかかる税の税率はもっと高い。

税制改正の内容を効率よく知るには

税制改正は、毎年行われているにもかかわらず、各年のボリュームは凄まじい。しかし、膨大な改正内容のうち1つの企業に直接関係する内容はほんの少しである。多くの経営者にとって知りたい情報とは、税制改正によって自社の税務がどう変わるかだろう。その部分をどうやって効率よく探すのかについて、おすすめの方法を紹介する。

税制改正大綱の「概要」から見よう

インターネットで税制改正大綱の本文を見た瞬間、ブラウザバックしてしまった方もいるのではないだろうか。税制改正大綱は、年にもよるが100ページ近くあり、中身はすべて文字や表で、私の知る限り図解はない。おまけに専門用語が多く、言い回しも法律のような分かりづらさがある。

まずは、税制改正大綱ではなく、税制改正大綱の「概要」を見ていただきたい。税制改正大綱とともに財務省のホームページに掲載されている資料で、税制改正の要点を4、5ページほどにまとめたものだ。細かい改正は網羅されていないが、比較的重要なものがピックアップされている。

参考:https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/index.html

チェックするジャンルを絞ろう

税制改正大綱や概要は、次のとおり、ジャンルごとに改正内容が説明されている。

・個人所得課税 ・資産課税 ・法人課税 ・消費課税 ・国際課税 ・納税環境整備 ・関税

まずは「法人課税」と申告方法やシステムなどに関わる「納税環境整備」、消費税の課税事業者であれば「消費課税」、年末調整のために「個人所得課税」のうち「○○控除」など年末調整に関係しそうな項目をチェックしよう。

各省庁のホームページの図解を利用しよう

税制改正大綱の概要だけでは、具体的に何がどう変わったかを理解するのは難しい。どのように変わったかを理解するためには、その改正に関係する省庁のホームページを見るとよい。

前述のとおり各省庁では、毎年、税制改正に関する要望事項を提出している。そして、税制改正大綱が公表されると、要望事項のうち、税制改正大綱の内容に合わせて分かりやすい資料を作成して公開している場合が多い。

おすすめは、経済産業省と中小企業庁の資料である。どの企業にも関係する内容が広く解説されている上、図解も分かりやすい。また、税制改正大綱の公開後、スピーディーに公開されることが多い。

経営者なら知っておきたい税制改正のポイント
(画像=(※経済産業省「経済産業関係 令和2年度税制改正について」p.3より))
経営者なら知っておきたい税制改正のポイント
(画像=(※経済産業省「経済産業関係 令和2年度税制改正について」p.5より))

そのほかにも、ふるさと納税に関わるものは総務省の特設サイトが見やすく、不動産関係者であれば国土交通省の資料が詳細でよいなど、各省庁の特色を使い分けるとより理解が深まるだろう。また、公開までにややタイムラグがあるが、財務省の「税制関係パンフレット」も理解しやすい。例年、公開時期は3月か4月のようである。

「どう変わったか」よりも「なぜ変わったか」

いくらよい資料でも、細部まではなかなか把握できないこともあるだろう。特にそもそもの税制が複雑な場合は、ワンペーパーのまとめ資料で100%理解するのは難しい。そうした場合は、「どう変わったか」よりも、「なぜ変わったか」に着眼して資料を見直すとよいだろう。

改正の背景を知り、見方を変えると意外とスムーズに理解できることもある。改正の背景については、各省庁の図解資料でも触れられているが、正しく知るためには各省庁の「税制改正要望」がおすすめだ。これも税制改正大綱とともに財務省のホームページで公開されている。改正の趣旨が理解できれば、細かい内容は忘れてしまっても大きな税務のミスは起こりにくい。

参考:令和3年度税制改正要望https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2021/request/index.htm

税制改正の内容を把握しよう

税制改正の仕組みや、その内容を効率よく把握する方法について解説した。税制改正大綱は、膨大なページ数のため読み解くことが億劫な方も多いだろう。そういった場合は、必要としている情報を絞って概要を確認すると頭に入りやすい。

税制改正の内容を効率よく理解できれば、必要な控除などの取りこぼしが防げるだろう。今回紹介した方法を活用して税制改正の理解を深めていただければ幸いである。

文・中村太郎

*本記事は2020年8月末時点の情報を元に執筆しました。
(提供:BUSINESS OWNER LOUNGE)