

第10回目は、貸借対照表のうち「有形固定資産が減少する局面」に着目します。
前回説明したとおり、有形固定資産とは、長期にわたる使用を前提とした事業用資産です。特に製造業などに顕著ですが、企業の過去の投資実績や今後の投資計画を反映するものであるため、この増減を理解することは経営実態を適切に把握するうえで非常に重要です。
有形固定資産の残高が減少する要因は様々ですが、残高が大きく減少する要因の1つとして「売却による減少」を挙げることができます。
有形固定資産の売却はその取引だけをもって経営への影響を判断しにくいため、その発生事由や取引経緯をヒアリングして、取引の実態を把握することが必要です。
例えば、同じ事業用資産の売却であっても、「資金不足を補うためにやむなく行われた売却」と「拠点統合など、重要な経営意思決定を行った結果生じた売却」とでは、今後の業績へ与える影響という点においても、その売却取引の意味合いは大きく異なってくると考えられるからです。
このように有形固定資産の売却は、その取引が発生した事実や財務数値の変動のみを理解するだけでなく、取引発生の経緯や背景についてヒアリングを行うことで、企業の置かれている状況や意思決定の適否について適切に把握することができます。
有形固定資産の帳簿価額が減少する要因として留意すべき項目に、減価償却費の計上が挙げられます。有形固定資産は大別すると「非償却性資産」「償却性資産」に分類することができ、土地などの「非償却性資産」は減価償却費の計算は行いません。一方で、建物や機械装置などの「償却性資産」は適切な償却方法と耐用年数によって計算する必要があります。
減価償却の認識によって、時間の経過や固定資産の使用により「減価する」という経済的実体を貸借対照表へ反映させることができるため、適切な減価償却費の計算が行われているか確認することが肝要です。
中小企業の場合、利益調整を目的として減価償却費の計上を行わない・または過少/過大に計上するなどの会計処理を行っている場合があります。減価償却費の計上が適切に行われないと、純資産が実態と乖離して表示されてしまうため、債務超過の判断や配当金の原資等となる分配可能額の算定に影響を与えてしまいます。
担当者としては減価償却費がきちんと計上されているか確認することが重要です。