虫歯や歯周病といった歯のトラブル。この歯にかかわるリスクが、じつは「死のリスク」もはらんでることを知っている人は多くないでしょう。しかし、最新の研究では、歯周病が全身疾患に影響を及ぼすことがわかってきました。歯の病気で直接死に至ることはなくとも、歯のリスクが死に至る全身疾患と密接にかかわっていることは研究の結果によって証明されています。

この記事では、KRD Nihombashiで歯科のアドバイザリーを務める、東京医科歯科大学名誉教授、総合南東北病院オーラルケア・ペリオセンター長の和泉雄一氏にお話をお聞きし、歯のリスクが死に至る全身疾患とどのように関係しているのか、わかりやすく解説します。

▽教えてくれた人

和泉雄一
和泉雄一(いずみ ゆういち)先生
東京医科歯科大学 名誉教授、総合南東北病院オーラルケア・ペリオセンター長。KRD Nihombashiアドバイザリー。専門は歯周病治療、歯科保存治療、歯科インプラント治療。歯周病と全身との関わり、歯周組織再生治療、歯科レーザー治療を専門とし、多数の難治症例を手掛ける。歯周病学・歯周治療学の第一人者。

目次

  1. 歯のリスクは全身疾患と密接に関係している
  2. 歯周病と「心疾患」「糖尿病」「すい臓がん」「リウマチ」「出産」との関係
    1. 歯周病と心疾患
    2. 歯周病と糖尿病
    3. 歯周病とすい臓がん
    4. 歯周病と関節リウマチ
    5. 歯周病と出産
  3. 歯周病は全身疾患のリスクファクターの1つ

歯のリスクは全身疾患と密接に関係している

専門医に聞く健康投資#02
(画像=KRD Nihombashi)

よく「虫歯があっても、死ぬわけじゃない」と言う人がいます。しかし、最新の研究から、歯のリスクは、じつは全身疾患を悪化させるリスクファクターであることがわかってきました。

とくに歯周病については、生活習慣病である糖尿病や、心筋梗塞などの日本人の死因の上位を占める病気に関連することがわかってきており、20代、30代の若い世代のうちから対策することの重要性が指摘されています。「たかが歯」と思わず、歯のリスクに適切に対処し、健康維持に努めることが大切です。専門医として、歯と全身の病気に関する最新の研究について解説していきましょう。

歯周病と「心疾患」「糖尿病」「すい臓がん」「リウマチ」「出産」との関係

歯周病が全身疾患に影響を及ぼすと聞いても、イメージがわかない人も多いのではないでしょうか?「心疾患」「糖尿病」「すい臓がん」など、歯周病がリスクファクターの1つである代表的な全身疾患を紹介し、歯周病がリスクファクターとなる理由を解説します。

歯周病と心疾患

歯周病だと知らずにブラッシングしている際に、歯周病菌が血管にもぐりこんでしまうことがあります。これを菌血症といいます。ブラッシングしていて歯肉(歯ぐき)から出血することがあるでしょう。これは歯周病の第一ステップである歯肉炎のサインであることを、前回お話しましたが、この出血の際に、歯周病の原因となる細菌が、血液に入り込んでしまうわけです。こうして、細菌が全身に回りだす菌血症が発症します。

【参考】30代は見えない危険信号に注意!知られざる“歯”と健康リスク-専門医に聞く健康投資#01

菌血症になると、歯周病菌が血流を介して全身に運ばれていきます。この歯周病菌は免疫細胞によって死滅されますが、この死滅する際に内毒素やたんぱく分解酵素がばらまかれてしまいます。この内毒素や酵素を排除しようと、免疫細胞が過剰反応し、体中で炎症が起きるのです。これによって、動脈硬化や虚血性心疾患のリスクが高まることが実験によって明らかにされています。

動脈硬化とは、血管の壁が厚くなり、血液の通り道が狭くなる症状のことです。動脈硬化は20代・30代のうちから現れ始め、無症状のまま進行し、いずれは脳出血や脳梗塞、心筋梗塞、狭心症といった深刻な病気を引き起こします。死のリスクに加え、寝たきりになるリスクも大きいのが動脈硬化の特徴です。

歯周病と糖尿病

歯周病菌が死滅する際にばらまかれる内毒素や酵素に対抗するため、免疫細胞が産生する物質をサイトカインといいます。このサイトカインは、体中に行き渡って炎症を促進し、一方で、インスリンが働きにくい環境を作ってしまうことがわかってきています。インスリンは血液中の血糖をコントロールする重要な働きがあります。このインスリンが働きにくくなってしまうため、血糖コントロールに支障をきたし、糖尿病が悪化するリスクが高まります。

食生活や生活習慣の変化によって、日本の糖尿病患者数は増加し続けています。糖尿病は、一度発症すると治癒の難しい恐ろしい病気です。

糖尿病が悪化すると、失明や四肢切断など深刻な状況になり、最悪の場合は死に至ることもあります。糖尿病と歯周病は、相互に症状を悪化させる作用があるため、特に注意が必要です。

歯周病とすい臓がん

歯周病を患うと、すい臓がんの発症リスクが約2倍になることがわかっています。すい臓は、インスリンをはじめとした重要なホルモンを分泌する大切な臓器です。

しかし、すい臓がんは早期の段階では自覚症状がなく、発見された時には末期がんの状態というケースも少なくありません。すい臓がんはがんの中でも、罹患率と死亡率が近く、死に至る可能性が高いがんです。歯周病を予防することで、すい臓がんの発症リスクにも備えることができるわけです。

歯周病と関節リウマチ

歯周病が悪化すると、歯周病菌は全身に広がります。歯周病菌は関節のたんぱく質に影響を与え、自分の体を攻撃する抗体を作り出します。また、この歯周菌が死滅する際にまきちらす内毒素や酵素を除去するために発生するサイトカインにもリウマチを悪化させる働きがあります。このため、歯周病が一因となって関節リウマチが悪化することがわかっています。

関節リウマチは、関節が炎症を起こし、骨が破壊されて関節が変形してしまう病気です。激しい痛みが生じ、手足を動かしにくくなります。そのため、関節リウマチになると、歯磨きが困難になり歯周病がさらに悪化するという悪循環に陥ることがあります。

歯周病と出産

歯周病菌による体中の炎症が起きると、生理活性物質が分泌されます。これが妊娠中の女性の子宮に届くと、子宮が出産時期だと誤解し、陣痛が早まることがわかっています。そのため、早産・低体重出産のリスクが約4~5倍に上がります。また、歯周病菌は産科器官の血流を阻害することがわかっています。そのために早産・低体重出産のリスクが高くなるともいわれています。

妊娠中は女性ホルモンが変化し、口腔内の細菌バランスが乱れ、歯周病リスクが高まります。妊娠中の女性は正しく歯周病を予防し、早産リスクを下げることが大切です。

歯周病は全身疾患のリスクファクターの1つ

虫歯や歯周病が直接的な原因で死に至ることはありません。しかし、歯周病から細菌が全身へばらまかれると、がんや心筋梗塞、糖尿病など、深刻な全身疾患に影響を与えることが、さまざまな研究データから明らかになってきています。20代、30代のうちから、口腔環境の維持、改善を行うことは、末永い健康維持のため、必要な投資であることは明白であるといえるでしょう。

歯周病は、虫歯と違い自覚症状なく進行していきます。歯のリスクについて正しい知識を得て、口腔内をよい状態に保つことが大切です。日ごろの歯磨き(ブラッシング)と定期的な健診に意欲的に取り組んでいきましょう。正しい歯のブラッシングについては、以下の記事もぜひ参考にしてください。

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