昔から「身体が資本 」という言葉をよく耳にします。資本とは利益や成果を生み出すための根本になるものです。実は企業の経済活動における生産要素だけではなく、私たち個人が健全に生活するための「健康」も資本だとする考え方があるのです。

生きていく上で最も重要な「健康資本」とは一体どのようなものなのでようか?

医療経済学では「健康は消費されるもの」

健康資本
(画像=PIXTA)

多くの学術分野のなかに「医療経済学」という学問があります。医療経済学 (Health Economics)とは、「医療費だけではなく、人々の健康に関わる課題を幅広く研究対象としている」学問で、名称については「健康経済学」と称したほうが相応しいという意見もあります。

医療経済学の世界では「健康は消費されるもの」という認識が広がりつつあります。このことは私たちが体調を崩した時以外はあまり実感できないかもしれません。食費のように毎日必ず消費するわけではないからです。しかし、病気になれば医療費を支払う必要があり、病院の場所によっては交通費もかかります。このように健康を維持するためには多くの消費を伴うのが現実です。

また、私たちの身体自体も、20代までは成長し体力が増強されていきますが、30歳を過ぎると成長は止まり、蓄えるより消費するほうが多くなり、経年とともに体力も落ちていくのが一般的です。そのため、体力を維持するための投資が必要になってくるのです。

医療経済学における「健康資本」とは何か

「身体が資本」という言葉を経済理論として組み上げたのが、シカゴ大学の故ゲイリー・S・ベッカー氏と言われています。ベッカー氏 は、「人は、学費を支払い、時間をかけて教育を受け、自分自身の人的資本に投資を行う。そうした人的資本の蓄積は、仕事でのパフォーマンスの向上につながり、高い賃金となって跳ね返ってくる」という趣旨のこと語っています。

この人的資本論を健康に応用したのがベッカー氏のコロンビア大学時代の弟子にあたるマイケル・グロスマン氏です。グロスマン氏の理論は、「人は、教育と同様、健康に対してもその時々に投資を行い、健康資本を蓄積し、労働に携わり、賃金を得る」というものです。つまり、教育と同じように健康に投資して、健康資本を増やすことが収入の増加にもつながると考えることができます。

私たちの人生も、「健康でいられる時間」を増やすことで生涯収入や幸福度を高めることができるのです。

参考:早稲田ウィークリー「早稲田の学問 Health Economicsの世界へようこそ」  

健康診断にも必要な中間決算

では、健康資本をどのように増やしたらよいのでしょうか。

株式などへの投資においても「自分の健康状態を知ること」が大事です。投資の運用成績を向上させるには、メンタルが充実している必要があるからです。健康状態が悪ければメンタルにも悪い影響を与えます。よって健康投資においてもまずは自分の身体の状態を知ることが重要になりますが、そのために必要なのが健康診断です。

健康診断は年1回受ければよいものというイメージを持っている人も多いでしょう。理想的には年2回(半年に1回)受けたほうがより正確に健康状態を把握することができます。国民健康保険や会社の健康診断ではどちらか年1回しか受けられませんが、民間の健康診断サービスを利用すれば、追加で健診を受けることができるでしょう。

株式投資を行っている人の多くは四半期ごとに会社の決算を確認することでしょう。もし決算が年1回しかなければ、決算が出て初めて会社の真の経営状況を知ることになります。四半期ごとの決算をチェックすることによって会社の現状を正確に知ることができるのです。

人間の体も1年のうちに体調が変化するリスクがあります。健康診断で何もなかったとしても、次の健診まで1年間体調をチェックできないのは不安があるでしょう。

健康投資のポートフォリオをチェックして生活習慣を変える

早稲田大学教授・黒田祥子氏が発表した「健康資本投資と生産性」という論文のなかで、健康資本(ストック)と健康投資の関係について次のように 述べられています。

「個人が使うことができる総時間は健康ストックに依存するとされ、その健康ストックは、加齢とともに減耗していくものの、投資をすることによって減耗を少なくし、ストックを補てんすることができる」。

引用:日本労働研究雑誌「健康資本と生産性」

ここで、健康ストックの減耗を少なくする、健康投資のポートフォリオを構築するための一例を挙げておきましょう。

・運動不足を解消するための健康投資…スポーツジム利用料、ウォーキングシューズなど備品代ほか
・食生活を改善するための健康投資…健康食品購入費、天然水ウォーターサーバー利用料ほか
・健康状態を管理するための健康投資…年2回の健康診断、健康アプリ利用料ほか
・睡眠の質を高めるための健康投資…快眠まくら、快眠ベッドなどの寝具購入費ほか
・ストレス解消のための健康投資…趣味に関する教室の受講料ほか
・病気に備えるための健康投資…医療保険料、個人年金保険料、置き薬代ほか

これまで解説してきたように、健康で働き、収入を得るために使うお金は「健康投資」であり、自身の人生を長く楽しむために必要なことだと考えられます。積立NISAやiDeCoなどの制度を利用して投資を行い老後に供えるように、生活習慣の改善といった健康への投資も始めてみてはいかがでしょうか。