突然の上場延期が波紋を広げた「アント・グループ」。この企業はアリババ傘下の金融会社で、350億ドル規模の大型IPO(新規株式公開)が実施される予定だった。いま国際的に注目と集めるアント・グループとはどのような企業なのか。IPO中止の理由にも迫る。

目次

  1. アント・グループとはどんな企業?
  2. なぜアント・グループのIPOは中止された?
  3. 上場中止でもアントのサービスのパワーは健在
    1. スマートフォン決済「支付宝(アリペイ)」
    2. 個人の信用評価システム「芝麻信用」
  4. IPOはいつ実現するのか

アント・グループとはどんな企業?

ゼロから分かる中国「アント・グループ」 上場中止が波紋広げる
(画像=piter2121/stock.adobe.com)

冒頭でも触れたが、アント・グループは中国アリババのグループ会社だ。独立系企業をアリババが買収して傘下に収めたわけでなく、2011年にアリババからスピンオフする形で誕生したフィンテック企業で、アリババグループが展開する金融サービスの運営を担っている。

具体的に展開・運営しているサービスとしては、スマートフォン向け決済アプリの「支付宝(アリペイ)」や個人向け信用評価システム「芝麻(ジーマ)信用」などが挙げられ、投資商品として「余額宝(ユエ・バオ)」を手掛けていることでも知られている。

特にアリペイは世界で12億人以上のユーザーを抱えるマンモスアプリとなっており、そのアリペイを運営するアント・グループのIPOだけに、世界的に大きな注目を集めていた。

アント・グループの上場は香港と上海で11月5日に予定されていたが、直前の3日夜に中止が発表された。アント・グループは上場によって350億ドル規模をさらに調達する見込みだった。

なぜアント・グループのIPOは中止された?

なぜアント・グループのIPOは中止されることになったのか。その理由としては、アリババの創業者であるジャック・マー(馬雲)氏が中国人民銀行(中央銀行)などから聴取を受けたことが問題視されたことが挙げられる。

ジャック・マー氏は今年10月、上海で行った講演の中で中国の金融当局を揶揄したとされる。2020年11月3日掲載の日経新聞などによれば「良いイノベーションは(当局の)監督を恐れない。ただ、古い方式の監督を恐れる」と述べたという。この発言を中国人民銀行などが問題視したとみられる。

アント・グループが展開するサービスは、従来は無かったフィンテックサービスだ。そのため、金融当局が従来の考え方でサービスを監督すれば事業の展開に大きくブレーキがかかると、ジャック・マー氏は主張したかったのだと考えられている。

ジャック・マー氏の本当の思惑は分からないが、金融当局がこうしたジャック・マー氏の発言に腹を立てたという見方が現在は強い。今回の騒動がいつ収まり、最終的にアント・グループの上場がいつになるのかは、不透明な状況となっている。

上場中止でもアントのサービスのパワーは健在

ただ上場が中止・延期されたとしても、アント・グループが展開しているサービスのパワーは変わらない。スマホ決済アプリのアリペイや個人向け信用評価システムの芝麻信用は、引き続きユーザー数を増やしていくことが考えられる。

そんなアント・グループの看板サービスの2つについて、もう少し詳しく解説しておこう。

スマートフォン決済「支付宝(アリペイ)」

アリペイのサービス展開は2004年から開始され、2008年にはユーザー数1億人、2009年には2億人、2010年には3億人と利用者を順調に増やし、2019年初旬に全世界で10億人のユーザー数を達成したとされている。

アリババの日本語版公式サイトによれば、2018年の中国におけるモバイル決済金額は約4,700兆円で、そのうちアリペイの決済シェアは金額ベースで54%に達しているという。

現在は新型コロナウイルス感染症拡大の影響でインバウンドの来日がストップしているが、多くの中国人観光客が日本を訪れていたビフォーコロナにおいては、中国人観光客が決済しやすいようにとアリペイを導入する日本国内の店舗も増えていた。

個人の信用評価システム「芝麻信用」

個人の信用評価システムは、日本ではまだあまり馴染みがない。ただ中国では近年急速に普及している印象があり、その急先鋒が「芝麻信用」であるといえる。

この芝麻信用は個人の信用をスコア化するサービスで、スコアが高いとホテルやレンタカーなどを利用する際のデポジット(保証金)が不要になる。また、ローンの金利が優遇されたり、店舗での支払いで後払いが可能になったりといった恩恵がある。

日本企業も個人の信用評価システムを展開し始めているが、芝麻信用を雛形的に参考にしている企業が多いようにみえる。それだけ影響力があるサービスをアント・グループは保有しているというわけだ。

IPOはいつ実現するのか

アント・グループについて、今後最も注目されるのは、今回中止・延期されたIPOがいつ実現するのかということだろう。知名度が高いアント・グループだけに、世界の個人投資家や機関投資家などが関心を寄せている。

IPOの実現には、中国の金融当局とジャック・マー氏の関係性の改善も必要になってくるだろう。アント・グループに関する今後の情報に引き続き注目したい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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