効率性指標を理解すると、自社の財務状況を細かく分析できる。その中でも、今回は「総資本回転率」の概要や活用方法をまとめた。自社の問題点を明確にして効果的な経営戦略を打ち出すために、財務体質に悩みを抱える経営者は最後までチェックしていこう。

目次

  1. 財務状況を分析する「総資本回転率」で企業の財務体質がわかる
    1. 企業活動の3つの工程
  2. 総資本回転率の計算方法と分析方法
    1. より厳密な総資本回転率を計算する方法
  3. 総資本回転率の目安は?業種別の平均値
    1. 財務体質の判断に用いる総資本回転率の目安
    2. 総資本回転率の業界別平均の目安
  4. 総資本回転率が低い場合の対処法
    1. 総資本回転率が低い主な原因と対処法の例
  5. 純資産回転率とは何が違う? 他の効率性指標も紹介
    1. 1.ROA(総資産利益率)
    2. 2.総資本回転期間
    3. 3.有形固定資産回転率
  6. 効率性指標を活用して経営戦略の見直しを

財務状況を分析する「総資本回転率」で企業の財務体質がわかる

総資本回転率で財務状況を分析。他の効率性指標との違いも解説
(画像=PIXTA)

総資本回転率とは、企業の資産運用効率を分析するための指標だ。具体的には、1年間の売上によって「総資本がどれくらい入れ替わったのか?」を表す指標であり、この指標の数値が高いほど健全な経営状態であることを表す。

総資本回転率をはじめとした効率性指標は、自社の財務体質を分析する際に活用できる。うまく活用すれば問題点が明確になるため、効果的な経営戦略を打ち出す際にも役立つだろう。

総資本回転率の考え方は、企業活動のサイクルをイメージすると分かりやすい。一般的な企業は、大きく分けて以下の3つの工程を繰り返している。

企業活動の3つの工程

【1】投資 手元にある資本を使って、設備や原材料などを調達する。
【2】販売 製造した商品・サービスを販売する。
【3】回収 商品・サービスの販売によって、現金(資本)を回収する。

上記【1】~【3】の工程が終わると、企業は回収した資本を用いて【1】の投資を再び行う。この一連のサイクルが「回転」であり、1年間にサイクルした回数が多い企業ほど総資本回転率が高くなる。

総資本の入れ替わりが多いと、その企業は常に多くの現金をもつことになるのでキャッシュ不足に陥りにくい。つまり、総資本回転率からは経営の安全度やビジネスモデルの効率性を読み取れるため、財務体質の改善を目指す経営者はぜひとも理解しておきたい。

総資本回転率の計算方法と分析方法

総資本回転率をうまく活用するには、「計算方法」と「分析方法」の2つを理解しておく必要がある。ここからは、計算方法・分析方法を詳しく解説していくため、自社のデータを参照しながら実際に総資本回転率を計算していこう。

一般的に総資本回転率は、以下の式を用いて計算される。

総資本回転率(回)=売上高÷総資本

では、1年間の売上高を5,000万円、総資本(総資産)を1,000万円として、実際に総資本回転率を計算してみよう。

総資本回転率=2,000万円÷1,000万円
   =2回転

したがって、この例では上記【1】~【3】のサイクルを、1年間で2回繰り返していることになる。この数値を後述の目安や業界平均と比べると、自社の経営状態や財務状態を客観的に分析できる。

より厳密な総資本回転率を計算する方法

上記で紹介した総資本回転率の計算式は、実は簡易的なものだ。より厳密な総資本回転率を導き出したい場合には、以下の計算式が用いられる。

総資本回転率(回)=売上高÷期中平均の総資本
期中平均の総資本=(期首の総資本+期末の総資本)÷2

計算に期中平均の総資本を用いると、実態により近い総資本回転率を算出できる。自社の財務状況を細かく把握したい経営者は、ぜひ上記の式を使って総資本回転率を計算してみよう。

総資本回転率の目安は?業種別の平均値

ここからは、総資本回転率の目安を紹介していく。まずは、総資本回転率の一般的な目安をチェックしていこう。

財務体質の判断に用いる総資本回転率の目安

総資本回転率 企業の経営状態・財務状態
0.7以下 投資金額の割に、売上高が伸びていない状態を表す。また、いつまで経っても現金に換えられない「不良資産」を大量に抱えている可能性も。
0.8~0.9 改善が必要な状態。数値が伸び悩んでいる原因を突きとめる必要がある。
1.0~1.2 標準的な範囲。
1.3以上 売上高が順調に伸びており、不良資産も少ない状態を表す。純資本回転率だけで見れば、優良企業に該当する。

上記を見ると分かるように、総資本回転率の基準は「1.0」となる。この数値を超えていれば、ひとまず深刻な状態からは離れていると判断できるだろう。

ただし、総資本回転率の基準は業種によって若干異なるため、できれば業種別平均と比較することが望ましい。そこで以下では、主な業種の業界別平均値を簡単にまとめた。

総資本回転率の業界別平均の目安

業種 総資本回転率の平均値
・小売業 1.71~2.03
・卸売業 1.70~1.71
・宿泊業、飲食サービス業 1.03~1.46
・建設業 1.29~1.32
・生活関連サービス業、娯楽業 1.13~1.18
・運輸業、郵便業 1.17~1.18
・情報通信業 1.00~1.06
・生活関連サービス業、娯楽業 1.13~1.18
・学術研究、専門技術サービス業 0.58~0.80
・不動産業、物品賃貸業 0.31~0.37
・上記以外のサービス業 1.23~1.27

経済産業省の「中小企業実態基本調査」によれば、上記のように平均値に幅がある理由は、計測する年度ごとに売上高や総資本の数値が異なるため。つまり、総資本回転率の平均値は時期によって多少変動するため、業界平均と比較する場合は常に最新のデータを参照したい。ちなみに、総資本回転率の業界平均値は、経済産業省が公開する「中小企業実態基本調査」などの資料から計算できる。

また、総資本回転率が高い業種と低い業種とでは、平均値に大きな差があることも理解しておく必要がある。例えば、仮に総資本回転率が1.3であったとしても、小売業や卸売業に該当する場合は決して優良企業とは言えない。

総資本回転率が低い場合の対処法

では、総資本回転率が業界平均と比べて低い場合は、どのように対処すべきだろうか。計算式だけを見れば、「売上高を増やす」もしくは「総資本を減らす」ことが改善につながるが、企業経営はそう単純なものではない。

総資本回転率が低い場合は、最初にその「原因」を突きとめる必要がある。具体的にどのような原因が考えられるのか、以下で原因の一例と主な対処法を紹介していこう。

総資本回転率が低い主な原因と対処法の例

総資本回転率が低い主な原因 対処法の例
・借入金の負担が大きい 可能な範囲で返済し、資産に対する借入金の割合を減らす。
・不要な資産を抱えている 現金収入につながらない資産を売却する。
・投資効率が悪い 収益性が高まるように、ビジネスモデルを見直す。
・商品やサービスが売れていない 販路拡大や商品の改善、営業方法の見直しなどに取り組む。

ビジネスモデルの見直しや商品開発・研究の手間を考えると、売上高の増加によって総資本回転率を高めることは難しい。そのため、まずは「総資本を減らすこと」を意識し、借入金や不良資産を積極的に見直すことが重要だ。

ただし、売上高に問題を抱えていることが明らかである場合は、多少の手間がかかってもビジネスモデルなどを改善しなくてはならない。つまり、適した対処法は原因によって変わってくるので、先に回転率が低い原因を突きとめることから始めたい。

純資産回転率とは何が違う? 他の効率性指標も紹介

総資本回転率と似た指標に、「純資産回転率」と呼ばれるものがある。これは、1年間の売上によって「純資産がどれくらい回転したのか?」を表す指標だ。以下の式を見ると分かるように、計算に「純資産」を用いる点が総資本回転率と異なる。

純資産回転率(回)=売上高÷純資産

上記の純資産とは、資産から負債を除外した金額のこと。つまり、純資産回転率を用いると、借入金の要素を除外する形で自社の経営状態・財務状態を分析できる。

総資本回転率と純資産回転率はいずれも「効率性指標」と呼ばれるが、実は効率性指標には他にもさまざまなものが存在する。そこで次からは、経営者が特に理解しておきたい3つの効率性指標を紹介していく。

1.ROA(総資産利益率)

ROAとは、企業が保有している資産を利用して「どれくらい利益を上げているか?」を数値化した指標のこと。以下の計算式を見ると分かるが、実はROAと総資本回転率には強い関連性がある。

ROA(%)=(利益÷売上高)×(売上高÷総資本)

上記の式のうち、後半部分の「売上高÷総資本」はまさに総資本回転率のことだ。つまり、総資本回転率が高まれば、自然とROAの数値も上昇することになる。

なお、ROAの目安は一般的に「5.0%」と言われるが、総資本回転率と同じく業種によって平均値が異なる点には注意しておきたい。

2.総資本回転期間

総資本回転期間も、総資本回転率との関連性が強い指標だ。総資本回転期間は、投じた総資本を売上として回収できるまでの期間を表す指標であり、以下の計算式によって算出される。

総資本回転期間(年)=総資産÷売上高

計算式を比較すると分かるが、総資本回転率の計算式の分母・分子を入れ替えれば、そのまま総資本回転期間の計算式となる。総資本回転期間を把握すると、将来の財務状況を予測できたり資金計画を立てやすくなったりするので、総資本回転率と合わせて計算をしておこう。

3.有形固定資産回転率

有形固定資産回転率は、投じた有形固定資産が「どれくらいの売上を生み出しているか?」を数値化した指標だ。計算結果が高いほど投資効率が良いことを表しており、以下の計算式によって算出される。

有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産

ちなみに上記式の「有形固定資産」とは、営業活動のために長期にわたって保有される資産のこと。具体的なものとしては、不動産や機械、運搬用の車両などが挙げられる。

有形固定資産回転率を計算して業界平均値などと比較すると、自社が「有形固定資産をうまく活用できているか?」を客観的に分析できる。もし業界平均と比べて数値が低い場合は、有形固定資産を減らすことがひとつの対処法になるため、効率の悪い資産を処分することを検討したい。

なお、有形固定資産回転率も業種によって値が大きく異なり、高い業種と低い業種とでは平均値に5~7回程度の差がある。また、業態や事業規模によっても目安となる数値が変わってくるので、できるだけ自社と類似した企業の数値と比べるようにしよう。

効率性指標を活用して経営戦略の見直しを

総資本回転率をはじめとした効率性指標は、ただ計算するだけでは意味がない。業界平均値などと数値を比較し、さらに改善するための経営戦略を打ち出してこそ価値のある指標となる。

また、仮に数値が低かった場合は、最初に原因を突きとめることが重要だ。原因が分からないまま行動を起こすと、かえって無駄な労力やコストを費やしてしまう恐れがある。

なお、効率性指標は参照するデータによって数値が異なるため、業績が変わる度に計算することをおすすめする。複数年分の指標を比較すれば、これまで取り組んできた経営戦略の方向性が間違ってないかどうかも判断できるだろう。

▽署名フォーマット
文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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