知的所有権には著作権や肖像権などがあり、身近に存在する権利といえる。優れた知的所有権は、ビジネスに活用すると莫大な利益を生むこともある。では、知的所有権をどのように活かせばよいのだろうか。ここでは、著作権や肖像権、商標権などの知的所有権の概要と活用方法を紹介する。
目次
莫大な利益を生み出す可能性がある知的所有権とは?

知的所有権とは、人間が知的に創造した表現やアイデアを保護するための権利のことだ。日本では、2003年に施行された「知的財産基本法」で保護されている。モノには購入した人、または譲渡された人に所有権があるが、知的所有権は後述のように権利の内容によって細かく分類されている。知的所有権として認められるには、所轄官庁への登録が必要になるものもある。 知的所有権とほぼ同義の言葉に、「知的財産権」がある。両者の違いは、「財産的価値の保障」に触れているか否かだ。特許が認められたからといって、必ず企業によって商品化されるとは限らない。財産的価値が発生しなければ、単にアイデアが登録されたに過ぎない。財産的価値を有した場合に主張できるのが、知的財産権である。知的財産権は知的所有権の一部であり、知的所有権によって保障されるものは、多くの場合財産的価値を有していると考えられる。そのため、ほとんど同じ意味で使われているのが実情だ。
まずは知的所有権の種類を理解する
知的所有権の種類は多岐にわたるが、耳にすることが多い権利としては以下の表のものが挙げられる。このうち産業財産権と呼ばれる4つの権利は、特許庁で登録を行う必要がある。これに対し、著作権は創作した時点で自動的に発生する。文化庁への登録制度もあるが、著作権が移転する際のことを考えると、登録しておいたほうが無難だ。
権利名 | 権利保有期間 | 所轄官庁 | ||
知的所有権 | 産業財産権 | 商標権 | 10年(更新可) | 特許庁 |
意匠権 | 20年 | |||
特許権 | 20年 | |||
実用新案権 | 10年 | |||
著作権 | 著者の死後70年 | 文化庁 | ||
その他の権利 | 商号権 | 期間なし | 法務局 | |
肖像権 | 期間なし | - |
<各権利の概要>
商標権
商標権とは、自社商品と他社商品を区別するための文字やマークなどを出願登録して独占使用できる権利のこと。有効期限は10年間だが、申請すれば何度でも更新できる。商標権者は、権利の侵害に対して侵害行為の停止や損害賠償、侵害する恐れのある者に対して侵害の予防を請求できる。
意匠権
意匠権とは、独創的な物のデザイン(意匠)を独占的に使用できる権利のこと。意匠とは、物の形、模様、色彩、またはこれらが組み合わされたものを指す。工業所有権の一種で、工業上その意匠を独占的・排他的に使用できる。存続期間は、権利が登録された日から20年間だ。
特許権
特許権とは、特許登録された発明を独占的・排他的に使用できる権利のこと。工業所有権に含まれ、日本では特許法で規定されている。発明は物自体に関するものと、方法に関するものがある。特許権は発明した者、またはその継承人で最初に出願した者に与えられる。存続期間は、出願した日から20年間だ。
実用新案権
実用新案権とは、実用新案を登録した物品の製造や使用などを排他的に独占できる権利のことで、「新案特許」ともいう。自然法則に基づく技術思想の創作であることや、製品の形状に関する考案であることが条件となる。存続期間は、出願した日から10年間だ。
著作権
著作権とは、著作者が創作した著作物を自分の財産として独占的に利用できる権利のこと。対象となる著作物は、思想や感情を創作的に表現したものでなければならない。主に文芸や学術、芸術、音楽に属するものが対象になる。近年は、ソフトウェアも著作権で保護されている。権利保護期間は長い間「著者の死後50年間」だったが、2018年の著作権法改定で70年に延長されている。
著作権には複製権や上演権、放送権、口述権、展示権、上映権、貸与権、翻訳権、二次的著作物の利用権などがある。知的所有権の中では、私たちに馴染みがある権利といえるだろう。自分が創作して公開しているブログの文章や俳句、自作の曲なども著作権の保護対象になる。
商号権
商号権とは、営業上自社を表現する商号を自由に使用できる権利のこと。他人から妨害されることなく自由に商号を使用できる「商業利用権」と、類似の商号を使用された場合に排除できる「商号専用権」を含む。また、有名企業などの商号と類似した名称が使われた場合は、「不正競争防止法」によって排除することができる。
肖像権
肖像権とは、無断で自分の顔や容姿を撮影、描写、公表などをされない権利のことで、人格権の一種として認められている。肖像権が侵害された場合、妨害排除や損害賠償を求めることができるが、報道の自由や表現の自由との兼ね合いで問題になることがある。肖像権は他の権利と異なり、届出を行わなくても権利が保障される。ただし「肖像権法」は存在せず、法律で明文化されていなくても守らなければならない特殊な権利といえる。
著作権は最も身近な知的所有権。取り扱いには注意!
著作権は、私たちにとって最も身近な知的所有権といえる。それだけに、ルールを守って使用することが重要だ。ルールを守らずに使用すると、著作権法に抵触する可能性がある。例えば自分が運営しているWebサイトの中に、有名キャラクターのイラストを無断で載せれば著作権法違反となる。また、官公庁のサイトに掲載されている文章やデータ、事例などは基本的に自由に引用できるが、「出典」は明記しなければならない。自分が調べたデータであるかのように使用してはならないのだ。
当たれば大きい著作権ビジネス
知的所有権の中でも、著作権は裾野の広がりが大きい権利といえるだろう。1つのカテゴリーだけでビジネスが終わらないケースが多いからだ。空前のメガヒットとなった『鬼滅の刃』が好例だろう。同作の人気は「週刊少年ジャンプ」に連載されたことに始まり、単行本にもなったが、そこで終わっていれば単純に出版としての売上が発生しただけである。
同作はテレビアニメ化されたことで一気にブレイクし、映画化された作品は大ヒットとなり、日本映画史上最高の興行収入を記録した。関連グッズも品切れが続出するほどの人気となり、版権収入は計り知れない。このように著作権だけでなく商標権にも派生し、莫大な収益を上げる可能性を秘めているのが著作権ビジネスの魅力だ。
著作権の違反事例もある
映画史上の著作権違反事例で有名なのが、1964年に起きた『用心棒』盗作事件である。黒澤明監督の名作時代劇『用心棒』を、イタリアの映画会社が『荒野の用心棒』(日本公開時の題名)として盗作。これに気づいた製作会社の東宝が抗議し、訴訟に発展する。東宝側が勝訴し、イタリアの映画会社は賠償金や世界における配給収入の一部を支払った。また音楽業界でも、有名アーティストによる盗作事件は少なくない。
商標権で稼ぐならキャラクタービジネスという選択肢も
キャラクタービジネスの一つとして、「ゆるキャラ」が息の長いブームになっている。有名なものとして、熊本県のくまモン、滋賀県彦根市のひこにゃんといった名前を聞いたことがあるだろう。地方自治体だけでなく、企業や個人レベルでもゆるキャラの開発は浸透しており、広告や販促活動といった商用を目的にキャラクタービジネスに結びつけることもできよう。
商標権は開発費用少なくコスパがよい
ゆるキャラを創造することは、それほど難しくないだろう。商品のように多くの開発費がかかるわけではなく、試作テストを繰り返す必要もない。デザインの創造なので、パソコン上だけでも開発は可能だ。キャラクターデザインを公募して、話題作りに利用するのもよいだろう。キャラクタービジネスは開発費用が少ないので、コスパがよい事業といえる。まだ自社の広告に使うマスコットが決まっていないなら、ゆるキャラを作るのも悪くないだろう。
商標権ビジネスの代表的な成功例はサンリオ
サンリオは、キャラクターの版権ビジネスで成長を遂げた企業として知られる。同社が開発したハローキティは猫を擬人化したキャラクターで、いわばゆるキャラの元祖的存在だ。創業は1960年で、当初はイチゴなど単純なデザインや、有名イラストレーターに依頼したイラストを陶器などにプリントし、ギフト商品として販売していた。その後、ハローキティやマイメロディといった自社キャラクターを開発し、人気に火が点いた。現在は、グローバルライセンスビジネスとして世界的に知名度が高いキャラクターに成長している。このように商標権ビジネスは、アイデア次第で世界規模の事業に発展することがあるのだ。
知的所有権をビジネスに活かすメリット、特許庁の見解は?
特許庁は、知的所有権を積極的に登録することをすすめている。新しい産業を生み出すような特許などが登録されれば、国家にとっても有益だからだ。知的所有権をビジネスに活かすメリットについて、特許庁は以下のように説明している。
有利な事業展開
- 権利侵害に対して法的措置を取ることができる
- 類似品が市場に参入することを防止できる
- ライセンスを利用して事業を拡大することができる
ライセンスとは法的な許可を与えることで、相手の企業からライセンス料を得ることができる。
販売力の向上
- 自社ブランドを構築できる
- 技術力やオリジナリティをPRする効果がある
自社ブランドを持たなければナショナルブランドの商品を販売するしかないため、他社との差別化は図りにくい。小売業のプライベートブランドも、他社との差別化や顧客の囲い込みを狙ったものだ。
技術開発力の向上
- 自社技術の強みを見える化できる
- 競合者間における競争力を強化できる
アイデアは形が見えないが、商品化されれば自社の技術力が目に見える。同時に競合他社に対する競争力も増すので、知的所有権を形にすることは重要といえるだろう。
社内活性化
- 創意工夫を促進して社内を活性化できる
- 報奨制度や表彰制度で社員のやる気をアップできる
1つの商品の大ヒットによって、会社の業績が一変することがある。開発した社員に報奨を与えることで、さらに創意工夫する社員が増え、社内が活性化する効果を期待できる。
出典:特許庁
知的財産権を事業に活かそう | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
知的所有権の登録は特許庁がサポートしてくれる
知的所有権のうち、産業財産権である特許権や意匠権、実用新案権、商標権は特許庁で登録する。特許庁は申請しやすいようにさまざまなサポートを行っているので、気軽に相談するとよいだろう。
知財総合支援窓口にアクセスしてみよう
特許庁は、中堅・中小・ベンチャー企業向けに「INPIT知財総合支援窓口」というサイトを開設している。この窓口では、中堅・中小・ベンチャー企業が抱える経営課題や、アイデアの段階から事業展開までの知的財産に関する相談を受け付けている。各分野の専門家が無料で相談に乗ってくれるので、自社の知的所有権のアイデアが事業化を目指せるものなのか、アドバイスを受けるだけでも勉強になるだろう。
参考:「INPIT知財総合支援窓口」
知財総合支援窓口 知財ポータル (中小企業を無料で支援します) (inpit.go.jp)
特許庁では、説明会やセミナーも行っている。知的財産権の基礎から学べる「知的財産制度説明会」(オンライン配信で毎年6~9月に開催)のほか、希望すれば企業への出張セミナーも行っている。また、知財情報のデータベースも提供している。
知的所有権をビジネスに活かす第一歩は専門家への相談から
ここまで、知的所有権の概要とビジネスに活用するメリットや注意点について見てきた。知的所有権をビジネスに活用すれば知的財産権が発生し、事例で紹介したような大きな利益につながる場合もある。自社に眠っている知的所有権の中にも、ビジネスに活用できるものがあるかもしれない。
具体的なビジネスにするには、権利関係など専門家のアドバイスが必要なこともあるので、まずは知財総合支援窓口で相談することから始めてみてはいかがだろうか。
文・丸山優太郎