退職金を支払うとき、どんな根拠で金額を決めればいいか具体例を交えて解説していく。退職金の4つの計算方法を紹介するとともに、役職ごとに退職金を決める場合の具体的な方法も解説するのでぜひ参考にしてほしい。

目次

  1. 退職金とは?支払う意味・義務があるかどうか解説
  2. 退職金の4つの計算方法を紹介。自社に合った計算方法を導入する
    1. 1.定額制
    2. 2. 基本給連動型
    3. 3. 別テーブル制
    4. 4. ポイント制
  3. 役職ごとに退職金を決める方法。別テーブル制で事例を紹介
  4. 学歴・職務・退職理由別の退職金の相場
  5. 退職金を準備する方法は主に2種類
    1. 社内で準備する
    2. 制度を活用する
  6. 退職金制度を社員のモチベーションアップに活かす
木崎 涼
木崎 涼(きざき・りょう)
簿記・FP・M&Aシニアエキスパート。大手税理士法人で多数の資産家の財務コンサルティングを経験。多数の資格を持ちながら、執筆業を中心に幅広く活動している。

退職金とは?支払う意味・義務があるかどうか解説

企業は退職金をどれくらい払うべき?4つの計算方法と相場を解説
(画像= tamayura39/stock.adobe.com)

基本的なことだが退職金とは、退職時に支払われるまとまったお金のことだ。長く勤め、事業に貢献してくれたことへのねぎらいの意味がある。退職金は、従業員からすると長く働き続けるモチベーションになる。また、会社への信頼感を醸成する効果もある。一方、退職金の支払いは任意であり、義務ではない。ただし、一般的に退職金という名称は広く知れ渡っていることから、従業員は退職金を期待していることが多い。

2018年度の厚生労働省「就労条件総合調査」によると、退職給付制度のある企業の割合は80.5%となっている。退職給付制度がある企業の割合は、企業規模が大きくなる(従業員数が多くなる)ほど高くなる傾向にある。退職金は雇用者にとってはまとまった出費であり、従業員にとっては老後の生活を左右するものだ。だからこそ、どのような基準で決めればいいか経営者としては悩むことが多いだろう。貢献してくれた従業員にしっかり報いたい一方で、過剰な支払いになるのは経営面から見て避けたいというのが多くの企業の本音だろう。退職金のことでトラブルになると、これまで培ってきた信頼関係にヒビが入りかねない。そのため、退職金を支払う場合は、就業規則や賃金規定で予め定めておくことが一般的だ。また、従業員が必要に応じて就業規則や賃金規定を確認できるようにしておく必要がある。

退職金の4つの計算方法を紹介。自社に合った計算方法を導入する

退職金というと、漠然と「勤続年数が長い方が高くなる」というイメージを持つ人が多いだろう。しかし、退職金の計算方法には様々な種類がある。たとえば、基本給や役職、貢献度などを考慮して、退職金に反映させることも可能である。そこで、退職金を計算するとき時の代表的な4つの計算方法を紹介する。

1.定額制

定額制とは、一般的にイメージされる退職金の計算方法で、勤続年数に応じて退職金を計算する。基本給や役職、貢献度などにかかわらず、勤続年数が長いほど退職金が高くなる。定額制のメリットは、計算が簡便でわかりやすいという点だ。

少人数の会社であったり、1つの職種しかなかったりするケースでは、定額制の計算方法を採用するのも一考だろう。なお、定額制であっても退職事由(会社都合か自己都合か)によって退職金を変えることも可能である。

2. 基本給連動型

基本給連動型とは、勤続年数に加えて基本給を加味して退職金を計算する方法のことだ。次のような式に当てはめて退職金を計算する。

(退職金) = (退職時の基本給) × (支給率:勤続年数により変動) × (退職事由係数)

勤続年数ごとに支給率を定めておき、勤続年数が長くなるほど、支給率が増えるよう設定しておく。退職事由係数は、会社都合の場合は100%とし、自己都合の場合は100%未満の割合を設定することが多い。

基本給連動型では、退職金に影響するのは勤続年数と退職時の基本給だ。そのため、役職や貢献度が直接退職金に反映されるわけではない。しかし、役職や貢献度によって基本給が決まっているのであれば、間接的に役職や貢献度にも報いることができる退職金の計算方法と言えるだろう。

3. 別テーブル制

別テーブル制とは、役職に応じた基礎金額をして退職金をの計算する方法だ。次のような式に当てはめて退職金を計算する。

(退職金) = (基礎金額:役職・等級などにより変動) × (支給率:勤続年数により変動) × (退職事由係数)

別テーブル制は、最も役職を退職金に反映させやすい計算方法だ。役職の違いを明確にして退職金に反映させたいと考えているなら、別テーブル制で計算することが望ましい。

別テーブル制のメリットは、比較的従業員にも受け入れられやすく、なおかつ貢献度を反映させられる点だ。ただし、役職ごとに基礎金額が決定されるため、個別の成果や実績を反映させることは難しい。

4. ポイント制

ポイント制とは、事業への貢献度に応じて従業員にポイントを付与し、ポイントに基づき退職金を計算する方法だ。次のような式に当てはめて退職金を計算する。

(退職金)= (退職金ポイント) × (ポイント単価) × (退職事由係数)

ポイント制は、実力主義の側面が強い退職金制度だ。一方、勤続年数や役職、基本給に対しても一定のポイントを付与することで間接的に勤続年数や役職、基本給を退職金に反映させることもできる。

ポイント制は、柔軟に制度設計しやすいのがメリットだ。退職時に限らず、働いている全期間における個別の成果や実績を退職金に反映させやすい。

ただし、ポイント制という仕組みそのものが従業員になかなか受け入れられなかったり、不公平感を生んでしまったりするリスクもある。ポイント制で退職金を計算する場合、自社の風土に合うかどうかも考慮し、従業員にしっかり説明したうえで運用することが大切だ。

役職ごとに退職金を決める方法。別テーブル制で事例を紹介

4つの退職金の計算方法のうち、役職をダイレクトに退職金に反映させられるのが別テーブル制だ。続いて、別テーブル制で退職金を計算するときの方法について事例を用いて解説する。

まず、以下のように役職別に基礎金額を決定する。

企業は退職金をどれくらい払うべき?4つの計算方法と相場を解説
(画像=表1)

続いて、以下のように勤続年数に応じた支給率を決定する。

企業は退職金をどれくらい払うべき?4つの計算方法と相場を解説
(画像=表2)

最後に、退職事由係数を決める。ここでは、定年と会社都合は100%、自己都合は80%とする。

この事例だと、たとえば退職金の金額は以下次のようになる。

<勤続5年目の一般職の社員が自己都合で退職した場合>
基礎金額20万円×支給率1.0×退職事由0.8=16万円

<勤続42年目の本部長が定年退職した場合>
基礎金額50万円×支給率20×退職事由1=1,000万円

<勤続38年目の係長が会社都合で退職した場合>
基礎金額30万円×支給率20×退職事由1=600万円

このように別テーブル制で退職金を計算する場合、役職ごとに支払われる金額が大きく異なってくる。そのため、昇進を決定する際は事業への貢献度をしっかりと見極めることが大切だ。

学歴・職務・退職理由別の退職金の相場

退職金を決定するときは、計算方法はもちろん、退職金の相場も気になるところだろう。続いて、2018年度の厚生労働省「就労条件総合調査」をもとに、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に対し、て支給が確定した退職金1人あたりの平均額を学歴・職務・退職理由別に紹介する。

<大学・大学院卒(管理・事務・技術職)>
定年 1,983万円

会社都合 2,156万円
自己都合 1,519万円
早期優遇 2,326万円

<高校卒(管理・事務・技術職)>
定年 1,618万円
会社都合 1,969万円
自己都合 1,079万円
早期優遇 2,094万円

<高校卒(現業職)>
定年 1,159万円
会社都合 1,118万円
自己都合 686万円
早期優遇 1,459万円

なお、2020年度の東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」では、「卒業後すぐに入社し、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準」として、モデル退職金を公表している。それによると、勤続年数と退職事由別の退職金は以下の通りだ。

<大学卒>
勤続10年 自己都合退職:113.5万円 会社都合退職:148.3万円
勤続15年 自己都合退職:214.9万円 会社都合退職:266万円
勤続20年 自己都合退職:353.4万円 会社都合退職:425万円
勤続25年 自己都合退職:524.3万円 会社都合退職:598万円
勤続30年 自己都合退職:705.9万円 会社都合退職:785.6万円
定年 1,118.9万円

<高校卒>
勤続10年 自己都合退職:89.6万円  会社都合退職:114.8万円
勤続15年 自己都合退職:168.4万円 会社都合退職:209.1万円
勤続20年 自己都合退職:278.8万円 会社都合退職:333.2万円
勤続25年 自己都合退職:407.3万円 会社都合退職:471.9万円
勤続30年 自己都合退職:543.3万円 会社都合退職:622.7万円
定年 1,031.4万円

退職金を準備する方法は主に2種類

退職金制度を作り、退職金の相場を確認したら、続いて考えたいのが退職金を準備する具体的な方法だ。退職金を準備する方法は、社内で準備する方法と制度を活用する方法の主に2種類ある。

社内で準備する

社内に資金を貯めて退職金の支払いに備える方法だ。退職金を支払うときは、会社から従業員に直接支払う。

メリット:外部の制度を利用しないからこそ、シンプルでわかりやすい。
デメリット:計画的に貯めておかないと、退職金の支払いが難しくなる。

制度を活用する

中退共(中小企業退職金共済)や特退共(特定退職金共済制度)といった制度を活用し、雇い主が従業員ごとに掛金を支払う。そうすれば、従業員の退職時に中退共や特退共から従業員へ直接退職金が振り込まれる。

メリット:計画的に退職金を貯められる。
デメリット:掛金をきちんと設定し、累計額を把握しておく必要がある。

中退共とは、国が支援する中小企業の従業員のための退職金制度のことだ。掛金は5,000円から3万円まであり、パートタイマーの場合は2,000円から4,000円まである。2021年1月末現在、37万超の企業・356万人超の従業員が加入しており、運用資産額は約5.1兆円にのぼる。

特退共とは、商工会議所を通じて加入する退職金制度だ。掛金は1,000円から3万円まである。特退共は中退共とは異なり、中小企業に限定していない。そのため、中退共に加入する要件を満たさない企業でも加入できる可能性が高い。

なお、2018年度の厚生労働省「就労条件総合調査」によると、それぞれの制度の利用状況は以下の通りだ。

社内準備57.0%
中退共44.0%
特退共11.5%

企業規模が小さくなるほど、社内準備の割合が下がり、中退共や特退共を利用する割合が上がる傾向にある。退職金を支払えないといった事態にならないよう、計画的に退職金を準備しておくことが大切だ。

退職金制度を社員のモチベーションアップに活かす

一般的に退職金は、勤続年数が上がるほど多くもらえるイメージが浸透している。しかしながら、従業員のモチベーションアップにつながる退職金制度を整備することも検討すべきだろう。

従業員のモチベーションアップというと昇給を思い浮かべがちだが、退職金なら日々の勤務だけでなく、長く働き続けるモチベーションを上げることも可能だ。

別テーブル制やポイント制を導入すれば、従業員の努力に報いることができ、貢献に見合った退職金を支払えるだろう。退職金制度が自社の社風に合ったものであれば、従業員の会社に対する信頼が高まり、さらなるモチベーションアップが期待できるはずだ。

文・木崎涼

(提供:BUSINESS OWNER LOUNGE